No.5 人生の最終段階の医療・介護の選択
昨年10月にACP(アドバンス・ケア・プランニング)の普及のため、厚生労働省は『人生会議』という愛称を発表しました。一人ひとりが自分の人生の最終段階について、元気なうちから「もしもの時のこと」を考える重要性が叫ばれています。しょうとく*まちかどステーションの保健室においても、無料講座を通して『人生会議』を広めたいと考えています。
意思決定支援への取り組み
しょうとく*まちかどステーションの保健室が主催する無料講座では、2ヶ月に1回程度の割合で、終末期医療や訪問看護での看取り、および人生会議としてのACPの普及を目標に開催しています。
① ACPに関する意識調査
保健室でACP普及に取り組むにあたり、昨年、ACPに関して皆さんがどのように考えておられるかを知るためアンケートを実施しました。回答者は30名です。女性が25名(83%)、男性が5名(17%)です。7割が70~80代で、保健室全体の利用者割合と同じです。
「ACPを知っているか」の質問に対し、知っている人が半数あり、知らない人を上回っていました。厚生労働省が平成29年12月に行った人生の最終段階の医療に関する意識調査より多い結果となりました。無料講座などで少しずつ言葉を耳にしていた影響だと考えます。
「人生の最終段階の医療・介護について考えたことがあるか」の質問に70%の方があると答え、30%の方が家族や知人と話し合っていました。しかし、約半数は話し合ったことがなく、その理由としては、きっかけがない、何を話して良いかわからないなどでした。
ACPという言葉を耳にし、何となく今後考えなければならないことと捉えているが、我が事として考えるにはまだまだハードルが高いのではないかと感じます。
② 無料講座でのACPの普及
ACPに関する無料講座の参加者は、2018年度は1年間で7回開催し延べ53名が参加、2019年度は8月までの4ヶ月で4回開催し、32名の参加でした。興味のある方はリピーターになって何度も参加されています。
資料は枚方市医師会が中心になって作成した人生の最終段階の医療や介護に関するパンフレット、エンディングノートなどを使用し、エンディングノートが欲しいと言う理由で参加される方もいます。
しかし、一般の方が「もしもの時」を想像するのは難しく、病気になり死が避けられない状況になれば病院に行き、最期を迎えるのだろうと想像しています。そしてその時は医師や医療従事者が判断を促してくれるだろうと考えており、自分自身が決断することは無いと思っています。漠然と終活のことは考えていますが、自分が病気や認知症になり意思疎通が出来なくなることや、要介護状態になることは想像できないのが現状です。
そこで、できるだけ事例を紹介したり、参加者の中から自身の手術の経験や家族の死について話していただきながら「もしもの時のこと」を考える機会としています。
無料講座がきっかけとなり、家族の中でも話し合うことが出来る人も出てきて、少しずつではありますがACPの普及につながっていると感じられます。
参加者の反応と思い
参加者の多くの方が、「私は延命治療なんかしてほしくない」「子どもに迷惑を掛けたくない」「寝たきりなんかになりたくない」「ぽっくり逝きたい」と言われます。医療が発達したことと、超高齢時代を迎え病気や老化を避けられない現状とのギャップがあり、矛盾した気持ちの中で考えられない人もおられます。
癌など大きな病気をしている人は家族等と話し合った経験があり、何となくキーパーソンが決まっている場合が多く、「〇〇〇に任せている・・・」という言葉が聞かれます。子どもに迷惑をかけたくないから子どもの言うとおりにしたいと言われますが、自分自身がどのような最期を迎えたいかなどの気持ちの整理を勧めています。
子どもが無く親族と疎遠な場合は、話し合う相手がいなく、不安が大きく人生の最終段階まで考えが及びません。入院時の保証人や治療の選択など、課題は大きく具体的な対策まで考えていく必要があると思います。
保健室では、講座以外の時間を使って一人ひとりの悩みや不安を聞き、人生に寄り添い価値観を共有することから始めています。
参加者が自分の言葉で人生を語り、生まれてから今日までの生き方、楽しかった事、辛かった事、うれしかった事などストーリーを紡いでいく事が人生の最終段階に繋がることであり、ACPはプロセスであるからこそ想いを口にしたり、大切な人に伝えることの重要性を強調しています。
今後の課題
人生の最終段階における医療に関する意識調査(平成29年度)では、一般国民の半数以上が人生の最終段階の医療・療養について家族等と話し合ったことがないと答えています。
話し合っていない理由は、①話し合うきっかけがなかったから、②話し合う必要性を感じていないから、③知識がないため何を話し合っていいか分からないからが上位を占めてります。まさにこの3点が課題と言えます。
保健室の活動を通して、きっかけ作りを行い、「もしもの時のこと」を考える場を提供していきます。医療に関する情報は多く、新聞やテレビでもたくさん取り上げられています。しかし一方的な情報は受け手により選択され、興味のある部分だけが吸収されることが懸念されます。
一人ひとりがどのような情報を必要とし、どのような立場にいるのかを把握しながら伝えていきたいと考えます。医療相談やよろず相談を受けながら、ご本人が自分で課題を解決できるように支え、見守ることの重要性、自律的選択に向けての支援に力を入れていきます。
これまで医療従事者は病気を治すことに重点を置いて患者・家族と向き合ってきましたが、これからは治し支える医療と言われる通り、支えることが医療従事者としての役割でもあります。家族の思いだけでなく、本人の意思が尊重されることが大切だと考えます。
「住み慣れた地域で最期まで暮らすことを目指した「暮らしの保健室」~医療・看護・介護を通じた住みよいまちづくりの試み~」もくじ
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