オピニオン/保健指導あれこれ
乳がんとともに生きる人を理解する
No10.乳がん治療後/自分の人生を仕切り直し、前向きで健康的な生活を
帝京大学医学部附属病院 帝京がんセンター 認定遺伝カウンセラー
2017年07月04日
乳がんの「治療後症候群」
乳がんと診断された方は、誰もが治療がすべて終わる日を待ちわびています。生きるために必死で頑張ってきた、長いジェットコースターに乗っていたような闘病生活がすべて終われば、これからは定期的なフォローアップのために画像検査や診察を受けるだけという段階になります。 これまで頻繁に治療や検査のために通院してきましたが、今後はたまにしか病院に行かなくてすむようになります。 乳がんと診断されてから、治療がすべて終わるまでは、医師の言葉に一喜一憂したり、「大丈夫、頑張りましょう」と医師や看護師さんに励まされてきたことでしょう。治療のあいだは家族や周囲の方々にいろいろと目に見える形で支えられてきたことでしょう。抗がん剤や放射線など目に見える形で治療を受けているうちは、病気と闘っていたという実感があったことでしょう。でも、再発予防の段階になると、本人にも当時の命がけのような緊迫感はなくなります。 実際どんな治療も辛いものですが、いつの間にか医療機関でお世話される状況や、家族や周囲の方々に支えてもらう状況に慣れてしまい、辛いながらも、ある意味、その状況に居心地の良ささえも感じていたかもしれません。 乳がんを克服するための長い治療がすべて終わったあとも、実際には、乳がんの再発予防のためにホルモン療法を受けている方もたくさんいます。ホルモン療法やその合併症(早期閉経や更年期障害など)は、本人以外にはわかりにくいのです。 そのため、家族や周囲の方は「治療は終わって、元気になったのよね」と病人扱いしてくれなくなります。そうなると、周囲から見放されたような気分になったり、病人扱いしてくれないことに寂しさを感じたり、自分の人生に戻ることに不安や恐れ、不安定な気持ちになることはよくあります。このような状態は「治療後症候群」と呼ばれます。でも、乳がんから解放されたら、そのことを喜んで、自信をもって自分の人生に戻るときがきたのです。誰かに「自分の人生に戻って」と背中をポンとたたいてもらうといいかもしれません。 乳がんの治療後、精神的に安定するまでには、長い時間がかかる方もいるかもしれません。精神的に安定するまでは、患者会などで同じ体験をしている患者さんと話すことが助けになるかもしれません。
ケモブレイン
乳がんの治療後の患者さんには、慢性的に記憶障害や思考力・注意力の低下が起こることがあります。これは「ケモブレイン」とも呼ばれます。 このような障害は、これまで化学療法や放射線療法を受けたために起こると考えられていました。しかし、最近の研究によると、一部のケモブレインは長期間にわたる過度なストレスなどの精神的な影響により引きこされる可能性があるとされています。 また、適度な運動によりケモブレインを軽くできる可能性があることも報告されています。治療後は、適度な運動を続けるようにしましょう。再発の不安にとらわれすぎない
ストレスは乳がんの再発に影響するでしょうか。ストレスは乳がんの発症や再発リスクが高めるかは、明らかになっていませんが、ストレスは乳がんと闘うためのからだの免疫システムに望ましくない影響を及ぼします。 乳がんの治療がすべて終わっても、乳がんが再発するかもしれないという不安を抱えている方は多いものです。だからといって、常に再発の心配ばかりしていれば、治療後も新たなストレスを抱えることになるでしょう。 乳がんという経験をした患者さんは、治療という体験を通して、ストレスを溜めないことの重要性を実感したはずです。再発の不安はフォローアップの検査や診察のときにたまに心配するくらいで、普段は忘れているくらいがちょうどいいのです。小さなことに頑張りすぎないようにしましょう
治療後に失った時間を取り戻そうと、気持ちばかり焦って、頑張りすぎないようにしましょう。乳がんという体験を通して、小さなことに頑張りすぎないことを学んだはずです。治療後の疲れを癒し、リラックスできるように、ヨガを習ったり、瞑想をしたり、どのような方法なら一番自分がリラックスできるのか様々なリラクゼーション法を試してみましょう。新しい人生の目標を持ちましょう
治療後は、家族や仕事を含めて人生を仕切りなおす必要があるでしょう。 自分のための時間を作り、自分の人生において何が一番大事なのか、何が一番やりたいのか、よく考えなおすときなのです。そして、新しい人生の目標を立てましょう。これまで無理だとあきらめかけていたことやいつか時間があればやりたいこと思っていたことを始めるときかもしれません。乳がん治療後は健康的な生活を送る
治療が終わったら、健康的な日常生活を送り、自分の健康に責任を持ちましょう。適切な食生活や睡眠、運動、禁煙を心がけましょう。 どうすれば、乳がんの発症リスクや乳がんの再発リスクを下げられるでしょうか。乳がんの発症リスクや再発リスクと食品との関連はどうでしょうか。 日本乳がん学会、世界保健機関(WHO)や国際がん研究機構(IARC)、世界がん研究基金(WCRF)、米国がん研究協会(AICR)などの情報をまとめてみました。成人後の肥満は乳がんのリスク、再発リスクをともに高めます
成人後に過度に体重増加した方や肥満の方は、閉経後に乳がんになるリスクが高くなるとされています。また、肥満の方の乳がん再発リスクは、肥満ではない方よりも1.4~1.8倍高いのです。これは、肥満の方はホルモン療法(アロマターゼ阻害薬)や化学療法の効果が劣ることが影響している可能性が報告されています。高カロリーな食品は肥満になりやすく、結果的に乳がんのリスクを高めます
脂肪が多い食品自体が乳がんのリスクを高めるかは、明らかになっていません。しかし、肥満と乳がんの再発リスクには明らかな関連があります。高カロリーな食品(100g当たり225~275キロカロリー以上の食品、高脂肪・高糖質・食物繊維の少ない食品)は体重増加につながりやすく、結果的に乳がんのリスクを高めます。 成人後は肥満を避け、総カロリー摂取を適切な範囲に制限しましょう。また、定期的に適度な運動習慣を持ちましょう。食物繊維が豊富に含まれる野菜、果物、穀類や豆類は、体型維持にも効果的です。毎日少なくとも400g以上の野菜・果物を摂るようにしましょう。体重増加を避けるため、ダイエットサプリメントの活用もいいでしょう。乳製品の摂取は再発リスクには関連がないようです
これまでの少ない研究では、乳製品の摂取は、乳がん再発リスクには関連しないようです。しかし、研究が進めば、結論が変わる可能性がありますので、過度の乳製品の摂取は控えましょう。大豆イソフラボンは再発リスクを下げる可能性があります
大豆イソフラボンは乳がん再発リスクを下げる可能性があります。だからといって、大量にイソフラボンをサプリメントとして摂っても、それが必ず効果的とは限りませんし、その安全性も証明されていません。イソフラボンは、大豆食品から摂取するようにしましょう。適度な運動は乳がんの再発リスクを下げます
閉経後の乳がんの再発や死亡のリスクは、適度な運動を行う女性では、行わない女性よりも低いことは、ほぼ確実になっています。また、乳がん診断後の適度な運動には、生活の質を改善する効果もあります。毎日30分以上無理のない範囲で運動を続けて、座っている時間は短くしましょう。 一方、閉経前の方では、適度な運動が乳がんのリスクを下げるかは明らかになっていません。喫煙は乳がんリスクを高めますが、再発リスクに影響するかは不明
喫煙により乳がんのリスクが高まることはほぼ確実になっています。また、受動喫煙でも乳がんのリスクが高くなる可能性があります。しかし、治療後の喫煙が乳がん再発リスクを高めるかは明らかになっていませんが、がんによる死亡リスクを高める可能性があります。喫煙は治療が可能です。喫煙している方は、禁煙外来に相談しましょう。飲酒は乳がんのリスクを高めるが、再発リスクに影響するかは不明
飲酒により乳がんのリスクが高まることはほぼ確実になっています。しかし、飲酒により乳がん再発リスクが高まるかは結論が出ていません。飲酒する方は量を控えめにしましょう。出産、授乳(母乳)経験がない方は乳がんリスクが高いです
出産したことのない方は、出産した方よりも、ホルモン受容体陽性の乳がんのリスクが高いことは確実になっています。 授乳(母乳)をしたことがない方は、授乳をした方よりも、乳がんのリスクが高いことは確実になっています。また、授乳期間は長いほど乳がんのリスクは低い傾向があります。 <参考> ・日本乳癌学会 ・世界保健機関(WHO) ・国際がん研究機構(IARC) ・世界がん研究基金(WCRF) ・米国がん研究協会(AICR)「乳がんとともに生きる人を理解する」もくじ
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