No.5 病理診断の重要性と治療に向けて日常生活の調整
●病理診断は乳がんの診断や治療方針決定に重要
がんの診断だけでなく、乳がん組織の種類やがんの性質を見極めて、今後の治療方針を立てるには、「病理検査」が欠かせません。もちろん病理検査だけで治療方針が決まるわけではなく、マンモグラフィや超音波検査、MRIなどの画像検査と併せて、治療方針が決まります。
病理検査では、がんの悪性度、増殖に関わる因子であるホルモン受容体やHER2タンパクの発現(細胞増殖が活発かどうかがわかります)、がん細胞がリンパ管内や血管内にあるかどうか(再発リスクが高いかどうかがわかります)なども調べます。
病理検査は、がんから採取した細胞や組織、分泌液などを、染色して顕微鏡で詳しく調べる、がんの悪性度や病理学の専門的知識と技術を持った病理医が行います。乳がんの病理診断に経験豊富な病理医がいるかどうかは重要になります。日本病理学会が病理専門医を認定しており、ホームページ(認定病理専門医一覧)で専門医を公開していますが、乳がんの病理診断に経験豊富かどうかはわかりません。乳がんの病理検査に関する著書や専門雑誌から乳がんの病理診断に経験豊富な病理医を探すことはできるかもしれません。
●病理検査の種類
乳がんの病理検査には、乳房から細い針で少量の細胞を採取する「細胞診」と、局所麻酔をして太めの針でより多くの組織を採取する「組織診(針生検ともいいます)」があります。少ない細胞を調べる細胞診は確定診断にはなりません。細胞診で悪性または悪性疑いならば、通常確定診断のために、より多くの組織で調べる組織診が必要になります。
針で採取した小さな組織よりも、手術で採取した乳がんの腫瘍組織を調べる方が、より正確な情報が得られます。そのため、手術後には採取した腫瘍組織を使って、病理検査が行われます。
●病理診断の報告書のコピーをもらいましょう
病理診断の報告書は病理医が作成して、乳腺外科医や腫瘍内科医、放射線腫瘍医に送られます。病理診断の結果は、通常主治医を通して患者さんに伝えられます。病理診断の報告書にはなじみのない専門用語が多く、その内容を理解することは、患者さんにはとても難しく感じられるでしょう。
しかし、病理診断の結果によって治療方針が変わることもあれば、使われる薬が変わることもあります。治療方針を理解するには、病理の報告書を理解する必要があります。すぐにはその内容を理解できなくても、必要なときに参照できるように、患者さんには病理診断の報告書のコピーをもらっておくことをお勧めします。
●必要なときは誰かに頼りましょう
女性は日ごろから誰かの世話をすることには慣れていますが、世話をされることには慣れていません。
女性はほとんどの時間を誰かのスケジュールをやりくりして、家族のために家計の管理や家事を行い、ベビーシッター、ペットシッター、介護、看護、カウンセラーなど、さまざまな役割をひとりで担って過ごしています。だから、ほとんどの女性は自分から誰かに頼みごとをしたり、誰かの援助を受けたりすることが、苦手なのです。最初は抵抗があるかもしれませんが、治療に向けて時間を作り、集中するためにも、家族や周囲の人にできるだけ手伝ってもらい、それを受け入れることが、自分や家族にとっていいことなのです。
●治療に向けて自分と家族の生活スケジュールやプランを調整する
乳がんの治療を受けるには、自分や家族の生活のスケジュールや人生のプランに大きな変更を余儀なくされることがよくあります。誰にとっても変化が大きいほどストレスになりますし、これは本人だけでなく、家族にもストレスとなるでしょう。
でも、これは治療のために避けがたいことです。なので、この変化を受け入れて、変化に合わせた生活プランやスケジュールを立てることが、治療以外の部分のストレスを減らすことにつながります。
●子どもがいる場合には
小さな子どもがいる方は、とくに家庭内での生活習慣を変える必要があるでしょう。母親の具合がよくないときは、父親が食事を作り、洗濯や洗い物をする、子どもを寝かしつけることになるでしょう。また、主に年長の子どもたちは、父親を手伝って、食事の準備や洗濯物を片づけたりできるでしょう。日常の生活習慣を変えないといけないときは、できるだけ家族の生活への影響が小さくなるように、子どもも含めて、家族全員で話し合う必要があります。
日常生活のリズムが変わることは、子どもにとっては大きなストレスになります。小さな子どもは食事が1時間遅れるだけでも、ときに親に不満を伝えるかもしれません。どうしても生活リズムを変える必要があれば、前もって子どもに知らせておきましょう。
●治療に合わせて自分のスケジュールを立てましょう
化学療法で副作用が予想されるときは、通常化学療法の副作用は治療の当日もしくは翌日に起こるので、当日と翌日はしっかり体を休められるようなスケジュールを組む必要があります。仕事を続けている方は、休日の前日に化学療法を予定して、休日はゆっくり休めるようにするといいでしょう。
放射線療法は短時間ですが毎日通うことになるので、できれば1日の初めか終わりに予定すると、1日をより有効に使えて、生活に混乱をきたさないでしょう。最初は何ともなくても、治療が進むにつれて、徐々に体のだるさが増してきます。特に夏場は、昼間の暑さで体力を消耗します。そのことも頭に入れておきましょう。最後の2週間は家族旅行を入れない、体に負担となることを避けるようにして、より多くの睡眠をとりましょう。
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