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企業主導の健康プログラムが米国で普及 従業員の参加を促す対策とは
2013年07月26日
米国でも高齢化と生活習慣病の急増は、医療費の圧迫や医療の人材不足などの社会問題を生じている。大手企業が加入する医療保険会社は、生活習慣病の予防を目的とした独自の「健康プログラム」を運営し、一定の期間参加した人に対し報奨金を出したり、参加しない人には逆に罰則規定を設ける動きが出ている。
米国の医療保険には、公的医療保険と個人医療保険、そして会社で一括して加入する団体医療保険がある。団体健康保険の多くは会社員が加入する民間保険で、米国民の40%近くがこの保険だ。これは日本の組合保険のようなもので、企業が民間医療保険に団体加入したり、大企業が独自に企業健康保険を設けているケースがある。
健康保険が独自の「健康プログラム」を運営
米国の団体健康保険の半数近くは独自の「健康プログラム」を提供している。ダイエットに取組み体重を減らしたり、禁煙を実行するなど、健康増進に取り組む保険加入者に対して、その取組みに応じて保険料の負担を減らしたり、ボーナスを支給する仕組みになっている。
米国の大手の保険会社であるカイザーパーマネンテのレズリー カカミーシ氏は「米国の多くの企業では、健康増進に取組み一定の期間を無病で過ごした従業員に報奨金を提供するという対応をしています。例えば、ジムに通って運動を続けている従業員は、保険会社より報奨をもらえるといった具合です。医療保険の持ち出しになるので、医療の削減にどれだけ影響するかは未知数ですが、従業員の生活スタイルを変えるのには効果的です」と話す。
こうした企業の取組は、現在では中小企業にまで波及しているという。例えば、クリーブランド州立大学病院では、運動と食事の改善による体重減少を目的とした8週間の企業向けプログラムを提供している。
このプログラムが開始された当初は、参加者は60人に過ぎなかったが、開始後4年間で参加者は2万3,000人以上に増えた。
ボルティモアのマリーン銀行に勤めるジャニス スミス(54歳)さんは、健康増進プログラムに参加した同僚が体重を減らすのを見て自分も参加してみようと思い立ったという。結果として体重を約28kg(62ポンド)減らすのに成功しました。
「ダイエットを望んでいても、実際にどう取り組めば良いのか知らないという人はたくさんいます。そうした人にこうしたプログラムは効果的です」と、スミスさんは話す。
「クリーブランド州立大学病院の運営する健康プログラムは、目標を個別に設定しています。なるべく多くの参加者を得られるよう工夫してあります。プログラムは、食事や運動の改善、ストレスへの対処法などに段階的に取り組めるようになっており、参加者には歩数計を与え、歩数や体重の変化によって健康ボーナスのポイントが加算される仕組みになっています」と、同病院のロイ ブチンスキー氏は話す。
参加を強制した健康プログラムが増えている
健康増進に必要な条件を満たさない保険加入者に対しては、糖尿病などの生活習慣病を予防するための健康プログラムへの参加を強制する団体健康保険も現れている。
例えば、ペンシルベニア州立大学では、州の職員の健康増進の取組みを高めるために、「自分の健康を守ろう」キャンペーンを実施している。キャンペーンに参加しない職員に対しては、月額料金を徴収するという対応をとっている。
同大学の職員とその家族は、インターネットのオンラインサービスに加入し、自己の健康プロフィールと、体重や血圧などの身体検査、最近の健康診断の検査値、体格指数(BMI)や腹囲周囲径などを記入することが求められる。
「職員に健康診断を受けてもらい、生活習慣を改善するために、食事や運動などの生活スタイルを変えたり、高血圧や糖尿病などの検査値を改善する目標を設けて、ゴール達成を促す"スティック方法"を採用しています」と、クリーブランド大学病院の医師であるロイ ブチンスキー氏は話す。
ペンシルベニア州立大学の取組みの目的は、「将来に発症するリスクのある病気について知り、それを予防するために先を見越した対策をするのを支援すること」だ。
「いまや従業員の健康増進に向けた行動変容を促す取組みは、あらゆる企業や団体で行われています。しかし、ペンシルベニア州立大学の場合は罰則規定まで設けており、それを知った時にはかなり驚きました」と、同大学のダグ レズリー氏(公衆衛生学)は話す。
米国ではこうした健康プログラムは一般化している。非営利の研究シンクタンクであるRANDによる研究によれば、団体健康保険の加入者の半数近くが、勤めている企業や団体の臨床検査評価や健康危険度評価に参加している。しかし、実際にどれだけ医療費の削減に貢献しているかはあきらかになっていない。
しかし、ほとんどが生活スタイルの改善やダイエットを目的とした健康プログラムに参加しており、多くは臨床的な有意な改善効果を生み出しているという。
「健康プログラムを適用したことで、実際に保険加入者では大きな違いが出はじめています。健康増進に取り組む人に利益をもたらす政策は、結果的には受けいられやすいのです」(レズリー氏)。
ペナルティを課すことで健康管理の自覚を促す
健康プログラムに参加しない従業員にペナルティを与えるという、ペンシルベニア州立大学のようなケースは、米国で今後増えいくだろうと予測されている。
米国の大手の保険会社であるカイザーパーマネンテの2012年の調査によると、米国の企業の5分の1は従業員の個人データの登録を求めている。このうち罰則規定を設けているのは、いまのところは9%だ。
今年3月に、米国の薬局チェーン大手のCVSケアマーク社は、企業の医療保険に加入する従業員が指定された医師を受診し、体格指数(BMI)や体脂肪率、血圧値、コレステロール値などの検査値を保険会社と共有することを義務づけた。これに従わないと、600ドルを余計に払わなければならないという。
「米国では、高血圧や糖尿病、高コレステロールなどの生活習慣病や、それにより引き起こされる心臓病や脳卒中、がんなどの深刻な病気の医療費は爆発的に増えています。企業の従業員の、自分の健康への自覚を促すには、罰則を設けるのは効果的です。結果として、健康でいられる期間が延びれば、生活に対する満足度も向上すると考えられているからです」と、米国公衆衛生協学会のジョージ ベンジャミン氏は話す。
「現実的にみれば、どれだけ注意を促しても、それを無視して自分の健康に関心を払わない人は確実にいるものです。生活スタイルの改善と行動変容を促すためには、報酬と罰則を上手に使い分けることが必要です」としている。
HHP Health and Wellness Programs(クリーブランド州立大学)'Take Care of Your Health' initiative announced ahead of open enrollment(ペンシルベニア州立大学)
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