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がんの発症リスクは生活習慣の改善で低下 「免疫療法」でがんと闘う

 日本人の死因の1位を占めているがん。生活習慣を改善すればがんの発症を減らせることが分かってきた。「自分で治す力」を活用する「免疫療法」も進歩している。

 日本生活習慣病予防協会は「全国生活習慣病予防月間 2015 市民公開講演会?"多休"で生活習慣病・がんを予防する?」を2月4日に日比谷コンベンションホール(東京)で開催した。

講演2「がん予防に向けての免疫療法の位置付け~免疫療法を中心に~」
座長:佐治重豊 先生(公益財団法人がん集学的治療研究財団理事長/岐阜大学名誉教授)
演者:山岸久一 先生(京都府地域医療支援センター長、京都府立医科大学前学長)
主催:一般社団法人 日本生活習慣病予防協会
共催:公益財団法人がん集学的治療研究財団認定NPO法人セルフメディケーション推進協議会
生活習慣を改善すればがんの発症リスクを下げられる
 日本のがんによる死亡数は男女あわせて34万4,000人で、1980年代からずっと日本人の死因の1位を占めている。部位別にみると、男性では肺がん(24%)と胃がん(16%)、女性では大腸がん(14%)、肺がん(13%)が多い。

 がん細胞は、正常な細胞の遺伝子に傷がつくことにより発生する。これに対して、細胞増殖を停止させるブレーキとなる遺伝子が「がん抑制遺伝子」。ちょうど車のブレーキがそのスピードを制御するように、がん抑制遺伝子は細胞増殖サイクルのブレーキとして働く。これらの遺伝子が正常に機能できないと、細胞増殖に異常が起こり、がん化が始まると考えられている。

 がんには絶対的な予防法はなく、誰にでもがんになるリスクはある。しかし、これまでに行われた大規模調査などから、多くのがんの発症には生活習慣が深く関わっており、生活習慣を改善すればがんになる確率を下げられることが分かってきた。

がん予防のための生活習慣

・ たばこを吸わない
 たばこの煙には多くの発がん物質が含まれており、ほとんどの部位のがん発症を増やす。たばこの煙を吸うことで、煙の通り道(口・喉・肺など)、唾液などに溶けて通る消化管(食道・胃など)、血液(肝臓・腎臓など)でがんのリスクが高くなる。回りにいる人にたばこの煙を吸わされてしまう受動喫煙もがんのリスクを高める。たばこを吸う人はいますぐ禁煙をするべきだ。禁煙外来を受診すれば、禁煙の成功率は上昇する。

・脂肪を摂り過ぎない
 脂肪の過度の摂取もがんの発症を増やす原因となる。食べ過ぎは動脈硬化をまねき、心臓病や脳血管障害などの発症の原因にもなる。特に肉類など動物性食品には飽和脂肪が多く含まれるので、注意が必要だ。赤肉(牛、豚などの肉)や加工肉(ソーセージ、ハム、ベーコンなど)を食べ過ぎないようにする。

・ バランスのとれた健康的な食事
 野菜や果物、全粒粉、豆類など、健康的とされる食品を選んで毎日食べると、がん発症を、確実にとはいえないまでも、かなりの確率で予防できることが確かめられている。毎日の食事で十分な量の野菜や果物をとることが大切。また、塩分を抑えること(減塩)は、胃がんの予防につながり、高血圧や循環器疾患のリスクの低下にも役立つ。

・ 運動でがんを予防
 運動や身体活動の量が高い人ほど、がんの発生リスクが低くなる。運動量を増やすと、がんだけでなく脳卒中や心筋梗塞などのリスクも低くなり、死亡リスクが全体に低くなる。ウォーキングなどの中強度の有酸素運動を1日30分以上、毎日続けることが目標となる。

・ 適正な体重を維持する
 肥満度の指標であるBMI(改革指数)の値が25未満の標準体重の人では、がんのリスクが低く、死亡のリスクが低いことが分かっている。がんを含む全ての原因による死亡リスクは、太りすぎでも痩せすぎでも高くなる。食事や運動をコントロールして適正体重を維持することがん予防になつがる

・ アルコールはほどほどに
 アルコールは体内でアセトアルデヒドに変わり、アルコールとアセトアルデヒドには発がん性があることが確かめられている。アルコールに弱い人が飲み過ぎると口腔・咽頭・食道の発がんリスクが特に高くなる。過度のアルコール摂取は、結腸、腎臓、肝臓などの部位のがん発症も増やす。習慣的に飲酒をする人は、適度な量をこころがけて、飲み過ぎないようにすることが必要だ。

・ がん検診を受ける
 がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことでがんによる死亡を減少させることだ。症状がなくても検診を受けて、がんを早期発見し治療することが大切。無症状であれば進行がんは少ない。早期のうちにがんを治療することで、がんによる死亡のリスクを軽減できる。あなたに適切ながん検診とスケジュールについて、医師によく相談をしよう。
注目される第4のがん治療法「免疫療法」
 現在のがんの三大治療法は「外科治療」「放射線治療」「化学療法」だが、これに続く第4のがん治療法として注目されているのが「免疫療法」だ。

 「免疫療法」は、免疫細胞を人工的に増加し、その働きを強化することでがん細胞を抑え込もうという治療法だ。具体的には、患者自身の血液から免疫細胞を取り出し、数を増やしたり、がん細胞を攻撃する働きを強化する。つまり「自分で治す力」を活用するという方法だ。

 健康な人でも、毎日おおよそ3,000~5,000個もの細胞がん化しているとされる。しかし、がん細胞のほとんどを、ナチュラルキラー(NK)細胞、リンパ球などの免疫細胞が排除するため増殖しない。さまざまな理由でがん細胞と免疫細胞のバランスが崩れ、がん細胞の増殖が上回った時にがんを発症する。

 体の中には、白血球という免疫を担う細胞がある。免疫細胞には、マクロファージ、樹状細胞、好中球、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、制御性T細胞、Bリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、NKT細胞など多くの種類があり、日々体の中の異物を排除している。がん細胞もこれら免疫細胞の排除対象になる。

 免疫の主役はT細胞であり、大きくがん関連抗原を認識してがん細胞を特異的に排除するキラーT細胞と、抗体産生をしたりキラーT細胞などを活性化するヘルパーT細胞に分類される。

 がんを発症し「免疫抑制細胞」(抑制性T細胞)が異常に増えると、「免疫抑制」という状態になり、免疫細胞は増えたり活性化するのが難しくなる。その結果、免疫力でがんの転移や増殖を防げなくなる。最新の研究では、抑制性T細胞を除去し、免疫抑制を低減する治療法が効果的とみられている。

 また、「がん抗原ワクチン療法」は、がん抗原と呼ばれるがん細胞にある特有の目印を投与し、これを標的にしたキラーT細胞がん細胞だけを攻撃するという仕組みだ。がん抗原によって免疫細胞のキラーT細胞が刺激されて、その働きが高まることを利用したものだ。

 現在研究が進められている「ペプチドワクチン療法」は、血液中にあるリンパ球や抗体が効率よく反応できるがんペプチドワクチンを用いて、免疫機能を増大させることでがん細胞を特異的に攻撃することでがんの増殖を抑えようという治療法だ。

 さらに、がんに発現するタンパク質「WT1」をがん抗原として用いる「樹状細胞ワクチン療法」を投与する新たな治療法の開発も進められている。がん細胞にだけ現れるWT1を目印にして、免疫細胞がこのペプチドを標的に攻撃をかけることでがん細胞を減らすというものだ。開発されている「WT1」はがん治療に最適化されており、より強力ながん免疫を誘導できるという。

 がん治療のための「免疫療法」は開発が進められている段階で、まだ日常診療では利用ではないが、抗がん剤や放射線治療と組み合わせると効果を得られると有望視されている。免疫療法を受けるには、大学病院、クリニックなどの臨床試験、先進医療制度などを利用する方法がある。

がんリスクチェック(国立がん研究センター)
 国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部のホームページで公開されている「がんリスクチェック」を使うと、自分のがんリスクを知るのに役立つ。リスクチェックでは、性別・年齢・身長・体重・喫煙習慣・飲酒習慣などについての質問に答えると、その人が今後10年間にがんを発症するリスクが数字で示される。また、肥満、喫煙本数、飲酒量を改善することでリスクがどれぐらい下がるかを知ることもできる。
がんリスクチェック(国立がん研究センター)

日本生活習慣病予防協会
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