ニュース
運動の効果が上がらないのは「運動抵抗性」のせい 原因ホルモンが判明
2017年03月08日
ウォーキングなどの運動を行っても、なかなか成果を得られないのは、運動の効果を打ち消す「運動抵抗性」という病態が起きているからかもしれない。
運動の効果を無効にするホルモンがみつかり、運動の効果を増強する薬の開発が視野に入ってきた。
運動の効果を無効にするホルモンがみつかり、運動の効果を増強する薬の開発が視野に入ってきた。
肝臓ホルモン「ヘパトカイン」が運動の効果を無効に
運動にはさまざまな健康増進の効果があるが、その効果には個人差がある。運動をしていても効果を得られにくい原因のひとつは、肝臓ホルモン「ヘパトカイン」が骨格筋に作用し、運動の効果を無効する「運動抵抗性」が起きているからだと、金沢大学の研究チームは考えている。
研究チームは、肝臓から分泌されるホルモン「セレノプロテインP」を同定。このような肝臓から分泌され、全身にさまざまな作用を及ぼすホルモンを「ヘパトカイン」と総称することを提唱している。
研究チームは2010年に、2型糖尿病患者の血液中に「ヘパトカイン」のひとつである「セレノプロテインP」が増えていることと、「セレノプロテインP」が血糖値を上昇させることを明らかにした。最近では、脂肪肝の患者や高齢者でも「セレノプロテインP」の血中濃度が高いことが報告されている。
原因ホルモンをなくすと運動能力が2倍に上昇
研究チームは、「セレノプロテインP」を生まれつきもたないマウスでは、同じ強さ・同じ時間の運動療法を行っても、通常のマウスと比べて運動のさまざまな効果が倍増することを突き止めた。
マウスに1日30分の走行トレーニングを1ヵ月行わせたところ、「セレノプロテインP」をもたないマウスでは正常マウスと比べて、同じ強さ・同じ時間のトレーニングをしたにもかかわらず、運動限界能力が約2倍に上昇していた。
同様に、1ヵ月の走行トレーニングの後に、インスリンの注射を行ったところ、「セレノプロテインP」をもたないマウスでは、インスリンによる血糖低下作用が大きくなることが分かった。
さらに、健常者を対象にした臨床研究では、血液中の「セレノプロテインP」の濃度が高かった人は、低かった人に比べて、有酸素運動トレーニングをしても運動の効果が向上しにくいことが判明した。
研究チームは、運動習慣のない健常者女性31人に、有酸素運動トレーニングを8週間行ってもらい、有酸素運動能力のマーカーとして最大酸素摂取量を測定した。
トレーニングの前後で、全体では最大酸素摂取量は高まったが、トレーニングをしてもあまり最大酸素摂取量が増加しない被験者では、トレーニング前の血液中の「セレノプロテインP」の濃度が高いことが分かった。
新しい「運動効果増強薬」の開発も
「セレノプロテインP」の血中濃度は、2型糖尿病や脂肪肝の患者、高齢者で上昇する。そうした人では「セレノプロテインP」が過剰にあるため、運動を行っても、その効果が起こらないという「運動抵抗性」で生じている可能性がある。
今回の研究では、運動の効果に個人差がある原因のひとつが解明された。研究チームは今後、2型糖尿病などの身体活動低下に関連した疾患に対して、「セレノプロテインP」とその受容体を標的にした新しい「運動効果増強薬」の開発や、測定による運動効果の出やすさの診断などにつなげたいとしている。
研究は、金沢大学医薬保健研究域医学系の金子周一教授、篁俊成教授、御簾博文准教授らの研究チームによるもの。同志社大学、筑波大学、アルフレッサファーマの研究グループと共同で行われた。成果は、医学誌「ネイチャー メディスン」オンライン版に発表された。
肝臓ホルモン「ヘパトカイン」が運動の効果を無効に(科学技術振興機構(JST) 2017年2月28日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2024 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「健診・検診」に関するニュース
- 2024年04月25日
-
厚労省「地域・職域連携ポータルサイト」を開設
人生100年時代を迎え、保健事業の継続性は不可欠 - 2024年04月22日
- 【肺がん】進行した人は「健診やがん検診を受けていれば良かった」と後悔 早期発見できた人は生存率が高い
- 2024年04月18日
- 人口10万人あたりの「常勤保健師の配置状況」最多は島根県 「令和4年度地域保健・健康増進事業の報告」より
- 2024年04月18日
- 健康診査の受診者数が回復 前年比で約4,200人増加 「地域保健・健康増進事業の報告」より
- 2024年04月09日
- 子宮の日 もっと知ってほしい子宮頸がんワクチンのこと 予防啓発キャンペーンを展開
- 2024年04月08日
- 【新型コロナ】長引く後遺症が社会問題に 他の疾患が隠れている例も 岡山大学が調査
- 2024年03月18日
- メタボリックシンドロームの新しい診断基準を提案 特定健診などの56万⼈のビッグデータを解析 新潟⼤学
- 2024年03月11日
- 肥満は日本人でも脳梗塞や脳出血のリスクを高める 脳出血は肥満とやせでの両方で増加 約9万人を調査
- 2024年03月05日
- 【横浜市】がん検診の充実などの対策を加速 高齢者だけでなく女性や若い人のがん対策も推進 自治体初の試みも
- 2024年02月26日
- 近くの「検体測定室」で糖尿病チェック PHRアプリでデータ連携 保健指導のフォローアップなどへの活用も