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若い男性の気分UPにくるみが有効 無作為化二重盲検試験の結果

 健康な若年男性がくるみを食べると心理状態が良くなる――。こんなデータが最近報告された。エビデンスレベルが最も高い研究手法とされるプラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果だ。20歳代の4割強と言われる、日常生活で悩みやストレスのある若年男性には朗報と言えるかもしれない。

ナッツ類の中でもくるみは際立った存在
 くるみを含むナッツ類の日常的な摂取により、高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、癌、総死亡などの多くの健康アウトカムが改善することは、多数の疫学研究、臨床研究から示されている。またナッツ類には認知機能低下やアルツハイマー病に対する保護的な効果もあることも示唆されている。

 ナッツの中でもくるみは特に、ポリフェノールやオメガ3脂肪酸を極めて多く含み葉酸やビタミンEの含有量も多いという点で、他のナッツ類と異なる特徴をもつ。これら、くるみに多い含有成分はセロトニンやドパミンといった神経伝達物質の濃度調節や抗酸化作用に関わっており、神経保護的に働く可能性が指摘されている。

 最近、これらの知見を、ヒトを対象に検証した研究の結果が、海外の栄養関連雑誌「Nutrients」に報告された。

くるみを含むパンを8週間続けて食べ、くるみを含まないパンと比較すると...
 この研究は米国のアンドリュース大学の健康な学生ボランティア64名を対象に行われた。対象を無作為に2群に分け、一方の群には試験食(挽いたくるみ60gとバナナを用いたパン)をもう一方の群にはプラセボ(くるみは含まずバナナを用い、試験食と味・外観をよく似せたパン)を8週間摂取させた。その後2週間のウォッシュアウト期間をおいてクロスオーバーさせ、プラセボまたは試験食を8週間摂取させた。研究機関中、被験者はふだんどおりの生活習慣を維持するよう指示されていた。

 介入の前後にPOMS (Profile of Mood States)を用いて被験者の気分・精神状態の変化を評価した。POMS は、緊張・不安、抑うつ・落胆、怒り・敵意、活力・行動性、疲労・不活発、混乱・当惑という6項目の因子をカバーしている。このうちの'活力・行動性'を除く5項目のスコアを加算し、'活力・行動性'スコアを減算してTMD(Total Mood Disturbance)得点を計算した。

 結果解析の一次アウトカムとしてTMD、二次アウトカムとしてPOMS の6項目が、研究開始前に設定されていた。また、測定・分析を行う研究員には被験者の割付が盲検化されていた。

全数や女性のみの解析では群間差がなく、男性はくるみ摂取で有意に気分が改善
 ベースライン時における各群の被験者背景をみると、平均年齢(試験食‐プラセボ群が20.6歳、プラセボ‐試験食群が20.7歳)、平均BMI(同順に、22.6,23.2)に有意差はなく、人種や年次の分布も同等だった。試験期間中、インフルエンザの流行により既定の食事を摂取不能になった者が多数発生したことなどによって、17名(27%)が脱落した。

 結果をみると、男女を合計した全数での解析や女子学生のみでの解析では、一次アウトカムのTMD、二次アウトカムとしてPOMSともに有意な群間差が認められなかった。  一方、男子学生のみで解析してみると、一次アウトカムのTMDは試験食(くるみを含むパン)の方がプラセボより低値であり、群間に有意差が認められた。また二次アウトカムのうち'怒り・敵意'が、試験食群で有意に低値だった()。



 この結果は、若い男性がくるみを摂取した場合、気分が改善することを示唆するものと言える。
くるみは心理状態の改善に関係する栄養素がたっぷり
 くるみ摂取が若年男性の気分を向上した理由として本論文の筆者らは、くるみが心理状態の改善に関わる栄養素を豊富に含んでいることが関係している可能性に触れている。

 くるみにはポリフェノールやオメガ3脂肪酸、ビタミンE、葉酸の含有量も多く、それらは抗酸化作用、抗炎症作用を介して、あるいは直接的に脳に働いて、情動の制御にも影響を及ぼすことが示されつつある。例えばオメガ3脂肪酸はEPAやDHAの前駆体であり、DHAはセロトニンやドパミンという気分や睡眠に影響する神経伝達物質の濃度調節に関わる。

 また、くるみはメラトニンも多く含むが、メラトニンは生体リズムや睡眠の調節因子であり、良質な睡眠が気分や精神状態の安定にもつながるという経路も考えられる。

20代の日本人男性の4割以上が、悩みやストレスを抱えている
 今回紹介した研究結果は米国の健康な若者を対象としたものだが、日本の若者はふだん、どのような気分・精神状態で過ごしているのかという点も気になるところだ。

 厚生労働省の『平成25年 国民生活基礎調査』では、調査対象となって人に日々の健康状態を質問の結果が公表されている。その中に「悩みやストレスの状況」を調査した項目があり、それによると20代男性の43.3%が「悩みやストレスがある」と回答しており、決して少なくない()。



 ただ、年齢別にみた場合、20代よりも30~50代ではより「悩みやストレスがある」と答えた人の割合が高いことも事実だ。今回の研究は対象が大学生だが、今後、他の世代の男性または女性を対象にした介入試験などが行われ、くるみの摂取と気分・精神状態の関係がより明確になることを期待したい。

関連ページ:

Effects of Walnut Consumption on Mood in Young Adults-A Randomized Controlled Trial 〔Nutrients 8 (11):668, 2016〕
厚生労働省『平成25年 国民生活基礎調査の概況』

[保健指導リソースガイド編集部]

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