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透析を防ぐために地域の取組みを強化 「糖尿病腎症」の進行を防ぐ

第60回日本糖尿病学会年次学術集会レポート
 日本糖尿病対策推進会議や厚生労働省が取り組んでいる「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」が成果をあげ始めている。
 糖尿病腎症は、早期に発見・対策すれば、重症化を予防できる。そのためには、医療機関や自治体の連携を強化し、地域に特化した対策が必要だ。
糖尿病腎症の重症化を予防するプログラムを策定
 厚生労働省は2016年に、日本糖尿病対策推進会議とともに、糖尿病腎症から透析治療に移行する患者を減らすために、「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を策定した。

 プログラムの狙いは、糖尿病腎症が進行するリスクの高い患者を早期にみつけだし、適切な治療を行い、重症化を予防すること。

 (1)重症化リスクの高い医療機関未受診者などに対する受診勧奨・保健指導を行い治療につなげること、(2)通院患者のうち重症化リスクの高い者を選定して保健指導を行い、人工透析への移行を防止すること――を大きな目的としている。
糖尿病腎症が透析の原因 毎年1万6,000人が透析に
 糖尿病腎症は、腎臓が障害されて働きが低下する病気。腎臓には糸球体という細い血管が集まった組織があり、血液から老廃物を濾過して排出している。しかし、血液中のブドウ糖が異常に増えると、糸球体が徐々に壊されていく。

 糖尿病腎症を発症すると腎臓に異常が起こり、初期には微量アルブミン尿が、障害が進むにつれタンパク尿が出るようになる。また、老廃物を十分に取り除けなくなり、体内に溜まっていく。さらに、塩分や水分も十分に排出されなくなり、体内に蓄積されてむくみを生じる。

 進行すると、腎臓の働きが失われる腎不全という状態になり、透析治療が必要になる。腎臓の働きが低下する前に治療を始めることが大切だ。

 腎症は透析の原因になるだけではなく、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患の重大な危険因子でもある。腎臓を守ることは、心臓や脳を守ることにつながる。
地域の医療機関が連携を強化
 プログラムは、▽健康診査・レセプトなどで抽出されたハイリスク者への受診勧奨、保健指導、▽治療中の患者に対する医療と連携した保健指導、▽糖尿病の治療中断者や健診未受診者への対応――などの取り組みで構成される。

 日本透析医学会の調査によると、2015年12月時点の透析患者数は32万4,986人。新たに透析を開始した3万6,797人のうち、糖尿病が原因となった患者は43.7%に相当する1万6,072人に上る。

 透析が必要となる糖尿病患者を減らすために重視されているのは、かかりつけ医と専門医との連携だ。

 糖尿病は初期の段階では自覚症状が乏しいので、治療を中断してしまう患者が少なくない。

 プログラムでは治療中断を防ぐために、都道府県や市町村といった自治体との連携を強化し、地域の医療機関に周知し、生活状況をふまえた保健指導を役立てる仕組み作りが考えられている。
微量アルブミン尿検査で腎機能をチェック
 一般的な健康診断でも行われている腎臓の検査は、尿検査と血液検査だ。尿検査でタンパクが出たら、腎臓に障害のあるサインだ。血液検査では、腎臓の働きが低下すると血液中に増える老廃物である血清クレアチニンを調べる。

 しかし、糖尿病がある場合には、この2つの検査だけでは不十分だ。糖尿病腎症を早く発見するためには、微量アルブミン尿検査を受ける必要がある。アルブミンは糖尿病のごく初期に尿中に少量もれてくるタンパクだが、通常の尿検査では分からない。

 糖尿病と診断されている場合は少なくとも年1回、できれば半年に1回は微量アルブミン尿検査を受けることが必要となる。

 プログラムでは、糖尿病の治療中に尿アルブミン、尿蛋白、eGFRなどにより腎機能低下が判明し、必要と医師が判断した患者に対して集中的な保健指導を行う仕組みが考えられている。
腎症の進行段階に合わせた治療を実施
 糖尿病腎症は徐々に進行していき、病気の進行段階によって症状が異なる。病期は、尿タンパク値、またはアルブミン値などによって診断され、病期に合わせた治療が行われる。

 腎症の進行を予防するためにもっとも重要な時期は「第2期」(早期腎症期)だ。この時点では、まだタンパク尿の数値は微々たる変化であり、自覚症状はほとんどない。このときに厳格な血糖コントロールを行えば、糖尿病腎症の進行を食い止めることが可能になる。

 「第3期」(顕性腎症期)になると、腎機能の低下が進み、尿に含まれるアルブミンが多くなっていく。ここまで進行すると、次第に血圧も上昇し、高血圧によって血管が傷つけられ、さらに腎臓の状態を悪化させるという悪循環に陥ってしまう。

 第3期以降では、進行を遅らせることはできても、良い状態に戻すことはできないため、第2期の段階までで糖尿病腎症をみつける必要がある。
糖尿病対策推進会議を活用
 2015年に発足した日本健康会議が採択した「健康なまち・職場づくり宣言2020」では、「かかりつけ医等と連携して生活習慣病の重症化予防に取り組む自治体を800市町村、広域連合を24団体以上とする。その際、糖尿病対策推進会議等の活用を図る」という目標が示された。

 都道府県レベルで医師会や糖尿病対策推進会議などと連携し、「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を進行することで、自治体での取組みを円滑に実施できると考えられている。

 プログラムは「糖尿病腎症重症化予防プログラム開発のための研究」(研究代表者:津下一代・あいち健康の森健康科学総合センター長)の報告書もふまえて策定された。

 研究の対象は健診などで発見された2型糖尿病かつ腎機能が低下している患者。健診とレセプト情報を組み合わせ、未治療者・治療中断者・治療者別の対象者区分別にフローを作成、受診勧奨と保健指導の組み合わせたプログラムが実施された。
かかりつけ医が中心的な役割を担う
 日本糖尿病対策推進会議は、糖尿病の発症予防、合併症防止などの糖尿病対策をいっそう推進することを目的に、2005年に日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会の3者で設立された組織。

 現在は前述の3団体に日本歯科医師会を加えた4つの幹事団体からなり、健康保険組合連合会、国民健康保険中央会、日本腎臓病学会、日本眼科学会、日本看護協会、日本病態栄養学会などにより構成されている。

 糖尿病対策推進会議などの方針のもと、医師会は連絡票や事例検討などを通じて、自治体と協力して各地域でプログラムを推進する。

 地域のかかりつけ医は、病歴聴取や診察、保険診療での検査などにより患者の病期を判断し、心血管疾患のリスクや他の合併症の状況を把握し、患者に説明するとともに、保健指導上の留意点を保健指導の実施者に伝える。

 さらに必要に応じて糖尿病専門医と連携し総合的に診療を行う。地域連携パスを作成し、かかりつけ医と専門病院などの医療機関との連携を強化し、診療をバランスよく提供できる共同診療体制を地域で運用する。

 自治体での事業評価のために、血圧、血糖、腎機能などの検査値を共有する必要がある。日本糖尿病協会が発行する「糖尿病連携手帳」を活用し、患者の同意のもと、医療機関と情報を共有できるようにする取り組みが考えられている。
自治体の先行例を全国に広げる試み 埼玉県
 埼玉県などの一部の自治体では、レセプト(医療報酬明細書)により対象者の候補をリストアップした上で、かかりつけ医に事業参加の同意を得て、検査結果などのデータの提供を受け事業を実施するかたちで先行している。

 レセプトや健診のデータを活用することにより、糖尿病腎症が重症化するリスクの高い未受診者・中断者を見いだして受診に結びつけること、そのうち重症化するリスクの高い患者に対しては保健指導を加えることで人工透析への移行を防ぐことが可能になる。

 プログラムでは、空腹時血糖値126mg/dL(随時血糖値200mg/dL)以上またはHbA1c 6.5%以上と血糖値が高い人や、血清クレアチニン値と年齢、性別から計算する「eGFR」が60未満、または過去3年間の健診でHbA1c7.0%以上が確認されているのに、最近1年間に糖尿病受療歴がない人をデータから見つけ出した。

 速やかに状況確認を行い、可能な限り健診受診、医療機関受診につなげるとともに、必要に応じて保健指導などを行った。

 埼玉県では、2014年度には19市町村、2015年度には30市町村で、抽出した住民約5,600人に対し、受診勧奨の通知を個別に送付するとともに、保健師などによる電話や訪問による追加勧奨も行った。

 その結果、新規受診者の割合が1.8倍に増加した。また6ヵ月間に3回の保健指導を行う生活習慣改善支援プログラムに1,086人が参加し、前後のHbA1Cを比べた患者279人では0.3%の低下がみられた。

 受講後のアンケートでは、「指導があった食事療法を継続できる」(39%)、「指示通りの通院ができる」(93%)、「服薬ができる」(88%)、「体重や血圧を毎日測定記録できる」(59%)など、セルフケアコントロールの実施状況が著明に改善した。2016年度からは、県内すべての63市町村でプログラムを実施しているという。
自治体の先行例を全国に広げる試み 寝屋川市
 大阪府寝屋川市では、人工透析の医療費の増加が問題になっている。2011年度の総医療費に占める人工透析の医療費の割合は全国平均5.3%、大阪府5.8%に対し、寝屋川市では8.8%だった。

 調査の結果、糖尿病・高血圧からの腎機能低下が多く、それぞれの初回指摘から人工透析治療に至るまでの期間は、糖尿病が平均13.4年、高血圧が平均19.8年であり、糖尿病患者への受診勧奨がより優先順位が高いことが分かった。

 糖尿病から透析への進行を抑えるために、医師会・歯科医師会・薬剤師会・関西医科大学香里病院が地域連携協定を締結。

 開催した糖尿病教室参加者では、平均HbA1cは7.3%から6カ月後には6.63%と低下し、翌年健診でも平均6.71%を維持。

 糖尿病腎症による新規透析導入患者を減らすためには、糖尿病の治療の継続が必須であり、大阪府では糖尿病医療連携体制を構築するためのガイドが作成されている。

 治療を中断してしまった人、医療機関につながりにくい人は、地域の市町村保健師の受診勧奨等で治療につなげ、治療を継続するための支援を行っているという。

第60回日本糖尿病学会年次学術集会
糖尿病性腎症重症化予防プログラムの開発のための研究
[Terahata]
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