ニュース

集中治療における急性腎障害バイオマーカー~L-FABPの可能性~

第44回 日本集中治療医学会学術集会 教育セミナー

 高齢化とともにICUに入室する患者像が変化し、多臓器不全、中でも腎不全を伴うことが極めて多くなっている。腎機能低下そのものに対しては腎代替療法という処置があるものの、腎代替療法を必要とするICU患者の生命予後が不良であることは否定できない。その原因として、従来のクレアチニンや尿量を指標とした治療では、その介入が後手後手に回らざるを得ないためではないかと考えられている。

 これに対し、腎機能の低下に先立って生じているであろう腎障害、より具体的には腎尿細管障害を把握可能な新規腎バイオマーカーが近年登場してきた。それらバイオマーカーを用いて的確な時期に治療介入することが予後改善につながると期待される。

 そこで本セミナーでは、札幌医科大学集中治療医学教授の升田好樹氏に、ICUにおけるバイオマーカーの意義と使い方を講演いただいた。

座長:石倉 宏恭 先生(福岡大学医学部救命救急医学講座教授)

座長:石倉 宏恭 先生(福岡大学医学部救命救急医学講座教授)

升田 好樹 先生(札幌医科大学 集中治療医学教授)

演者:升田 好樹 先生(札幌医科大学 集中治療医学教授)

世界的にみて急性腎不全の院内死亡率は6割に及ぶ

 臓器不全に対する治療の歴史を俯瞰すると、かつては単一の原因・臓器障害が死に直結する時代だった。例えば失血や呼吸不全などはそれぞれが単独でも死因になり得た。ところが輸血や輸液、人工呼吸といった新たな医療技術が一つずつ問題を解決していき、単一の原因・臓器不全の場合、その多くを救命可能になった。現在はさまざまな臓器の機能低下が重複して最終的に死に至るという病像が増えている。

 腎不全に関してもそれ自体は比較的早い段階で透析技術の確立により解決されていたが、多臓器不全の進行とともに血液浄化が必要となってからの治療はいまだ満足できるものではない。実際、世界各国のICUにおける急性腎不全の予後をみると、日本では患者の重症度を示すSAPS IIスコアによる予測死亡率は41%のところ院内死亡率は64%に達している(表1)。他の国も似たような成績だ。これは10年以上前の報告だが恐らく今でもあまり変わっていないだろう。

表1 ICU入院患者における急性腎不全・院内死亡頻度の国際比較
  施設数 患者数 期間有病率
(95%CI, %)
予測死亡率
(%)
院内死亡率
(95%CI, %)
Australia 6 293 6.3(5.6-7.0) 47.0 54.3(47.7-59.1)
Belgium 3 163 8.8(7.5-10.1) 43.2 57.7(50.1-65.3)
Brazil 4 153 4.8(4.0-5.5) 43.6 76.8(70.1-83.6)
Canada 2 93 4.6(3.7-5.6) 56.8 59.8(49.8-69.8)
China 2 77 8.8(6.9-10.7) 48.5 61.0(50.1-71.9)
Czech Repubic 1 21 16.8(10.2-23.4) 44.6 61.9(41.1-82.7)
Germany 2 129 3.3(2.7-3.8) 39.4 61.9(53.4-70.4)
Greece 1 5 2.4(0.3-4.5) 62.2 80.0(44.9-100.0)
Indonesia 1 25 4.4(2.7-6.1) 41.4 72.0(54.4-89.6)
Israel 1 10 2.1(0.8-3.4) 61.3 100.0
Italy 6 109 5.4(4.4-6.4) 32.0 50.5(41.1-59.8)
Japan 4 90 5.5(4.4-6.6) 40.8 64.0(54.1-74.0)
The Netherland 2 113 6.1(5.0-7.2) 49.5 62.5(53.5-71.5)
Norway 2 50 3.7(2.7-4.7) 46.6 62.0(48.5-75.5)
Portugal 2 36 22.1(15.7-28.5) 53.7 63.9(48.2-79.6)
Russia 1 14 2.6(1.3-3.9) 82.6 61.5(35.1-88.0)
Singapore 2 31 6.3(4.2-8.4) 59.3 74.2(58.8-89.6)
Spain 2 16 10.5(5.6-15.3) 32.2 43.8(19.4-68.1)
Sweden 1 9 4.7(1.7-7.7) 25.7 22.2(0-49.4)
Switzerland 1 26 3.2(2.0-4.4) 44.3 65.4(47.1-83.7)
United Kingdom 1 52 20.6(15.6-25.5) 63.7 73.1(61.0-85.1)
United States 6 194 8.0(6.8-9.3) 44.2 52.1(45.0-59.2)
Uruguay 1 29 12.9(8.5-17.3) 35.6 65.5(48.2-82.8)
Overall 54 1738 5.7(5.5-6.0) 45.6 60.3(58.0-62.6)
*SAPS IIスコアによる予測死亡率
〔JAMA 294:813-818,2005〕

次は...
介入の遅れが治療成績に影響しているのではないか?

[hrg-admin]

「健診・検診」に関するニュース

2023年02月24日
がん検診発見例が減り早期がんも減少傾向だが、現時点での評価は困難
国立がん研究センター「院内がん登録全国集計」速報値より
2023年01月20日
保健師など保健衛生に関わる方必携の手帳「2023年版保健指導ノート」
2023年01月17日
【特定健診】40歳以上の半数は生活習慣病かその予備群 健診受診率の引き上げと、働く人のヘルスリテラシーを向上することが課題に
2023年01月16日
わずか「1分間の運動」でも健康効果が 忙しい人も仕事や家事の合間に簡単な運動を行うと寿命を延ばせる
2023年01月05日
特定保健指導は効果があった! 肥満指標はわずかに改善 血糖や中性脂肪も 582万人のデータを解析
2023年01月04日
【もっとも読まれたニュース トップ10】変化の年だった2022年 保健指導リソースガイド
2022年12月20日
健診で「腎臓病」を指摘されても、医療機関で診断を受けたのは5年以上も後 理解促進と対話の場が必要
2022年12月15日
日本産業保健師会が「新任期産業保健師養成研修」「産業保健師リーダー養成研修」を開催 
参加型研修を重視し、キャリアラダーに基づいた産業保健師のための研修会
2022年12月12日
13種類のがんを1回の血液検査で発見できる次世代診断システム 「がんの種類」を高精度で区別 がん研究センターなど
2022年12月06日
40歳未満の健診情報もマイナポータルで確認・閲覧可能へ
若年世代からの生活習慣病予防・健康づくりを
アルコールと保健指導

トピックス・レポート

無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(毎週木曜日・約11,000通)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 3%
  • 保健師 46%
  • 看護師 10%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 22%
登録はこちら ▶
ページのトップへ戻る トップページへ ▶