集中治療における急性腎障害バイオマーカー~L-FABPの可能性~
①早期診断が可能か
図3は心臓バイパス手術後の経過を追ったもので、人工心肺接続というonsetがはっきりしており時間軸で比較しやすい。これをみるとL-FABPやNGALは極めて迅速なマーカーであることがわかる。これらが上昇していればクレアチニンに変化がなくても腎障害イベントが発生した可能性が高いと判断できる。
〔NephSAP 10:207-212,2011〕
L-FABPは遊離脂肪酸と活性酸素から生成された過酸化脂質を細胞外に排出するように働いている。この点、同じバイオマーカーであってもNAGやβ2MGなどが尿細管構造が破綻した結果として現れるのと異なり、さらに早く上昇するわけだ。
②重症度判定や予後予測が可能か
重症度判定については、東大の土井先生らがICU重症患者を対象とした前述のRIFLE分類と各種バイオマーカーの関連を報告されている 2)。それによると、いずれのバイオマーカーも重症度と相関するものの、正常とrisk/injuryとの判別が困難という結果だが、L-FABPのみはその差異をも鑑別できている(図4)。ROC解析でAKI診断能を求めると、L-FABPのAUCは0.748で、NGALの0.695、IL-18の0.686などに比べて最も高い。このほか、人工心肺を用いた心臓外科手術においてL-FABPは術後1~3時間に上昇し、かつAKI発症群は非発症群に比し術前の段階で既にL-FABPが有意に高値だったなどの報告がある 3)。
ICU重症患者を対しRIFLE基準によりAKI重症度分類を判定し、その結果と各種バイオマーカーの関連の検討。
〔Crit Care Med 39:2464-2469,2011〕
生命予後に関しては、やはり土井先生らのデータからICU入室より14日後の死亡率との関連をみると、L-FABPのAUCは0.896で、NGALの0.827やIL-18の0.826に比して最も高い 2)。別の報告では、敗血症ショックを起こしたAKI入院患者を死亡と生存で2群に分け、背景因子と各種マーカーを加えて重回帰分析すると、年齢、血圧以外はL-FABPのみが有意な予後予測因子として残った(表3)。
検査指標・患者背景 | 回帰係数 | ||
---|---|---|---|
β値 | 標準誤差 | p値 | |
L-FABP(μg/g・Cr) | 2.766 | 0.785 | 0.044 |
エンドトキシン(pg/mL) | -0.06 | 0.081 | 0.464 |
CRP(mg/dL) | -0.236 | 0.141 | 0.094 |
白血球(/1000μL) | -0.042 | 0.136 | 0.757 |
血清クレアチニン(mg/dL) | 1.036 | 1.065 | 0.331 |
平均血圧(mmHg) | -0.256 | 0.124 | 0.039 |
年齢(歳) | 0.227 | 0.1 | 0.024 |
性(男性/女性) | -0.184 | 0.601 | 0.756 |
③原因を鑑別可能か
原因の鑑別については考察が複雑になるので、ここでは造影剤腎症を事前に見出せるか否かという点に絞って述べると、NGALやL-FABPは冠動脈造影後に有意に上昇するが、前者のみAKIの有無で有意な群間差が観察されたとの報告や 4)、L-FABPに関しても造影剤腎症発症群は非発症群より有意に高値を示したとの報告がある 5)。
④血液浄化の必要性を判断できるか
この点については我々の施設データを紹介したい。ICU入院患者を、CRRT(持続的腎代替療法)を要した群と必要なかった群で二分し、L-FABP、NGAL、NAGを比較検討した。同一患者で複数のバイオマーカーを測定する機会は少ないため症例数が19と少ないながら、L-FABPのみは両群に有意な群間差がみられ(p=0.034)、カットオフ値35.4 ng/mLで、AUCは0.818だった。
⑤治療効果を評価できるか
いったん開始したCRRTをいつ終了すべきかは悩むところで、どの施設でも一時的に中断しクレアチニンが上がり始めたら再開、ということを繰り返しているのが実情だろう。我々はL-FABPのレスポンスの良さを生かしCRRT離脱時期の判断に利用し始めている。ただし、「L-FABPがいくつに以下になれば離脱可能」とのカットオフ値はまだなく、その確立が望まれる。
なお、L-FABPの簡易迅速診断キットが最近登場し、半定量ながらベッドサイドでの評価も可能になった。治療介入効果の確認のために繰り返し測定する場合など、結果判定のスピードが生きてくる場面も多く、今後が期待される。


「健診・検診」に関するニュース
- 2025年02月25日
- 【国際女性デー】妊娠に関連する健康リスク 産後の検査が不十分 乳がん検診も 女性の「機会損失」は深刻
- 2025年02月17日
- 働く中高年世代の全年齢でBMIが増加 日本でも肥満者は今後も増加 協会けんぽの815万人のデータを解析
- 2025年02月12日
-
肥満・メタボの割合が高いのは「建設業」 業態で健康状態に大きな差が
健保連「業態別にみた健康状態の調査分析」より - 2025年02月10日
- 【Web講演会を公開】毎年2月は「全国生活習慣病予防月間」2025年のテーマは「少酒~からだにやさしいお酒のたしなみ方」
- 2025年02月10日
- [高血圧・肥満・喫煙・糖尿病]は日本人の寿命を縮める要因 4つがあると健康寿命が10年短縮
- 2025年01月23日
- 高齢者の要介護化リスクを簡単な3つの体力テストで予測 体力を維持・向上するための保健指導や支援で活用
- 2025年01月14日
- 特定健診を受けた人は高血圧と糖尿病のリスクが低い 健診を受けることは予防対策として重要 29万人超を調査
- 2025年01月06日
-
【申込受付中】保健事業に関わる専門職・関係者必携
保健指導・健康事業用「教材・備品カタログ2025年版」 - 2024年12月24日
-
「2025年版保健指導ノート」刊行
~保健師など保健衛生に関わる方必携の手帳です~ - 2024年12月17日
-
子宮頸がん検診で横浜市が自治体初の「HPV検査」導入
70歳以上の精密検査無料化など、来年1月からがん対策強化へ