ニュース

集中治療における急性腎障害バイオマーカー~L-FABPの可能性~

介入の遅れが治療成績に影響しているのではないか?

 急性腎不全の予後が予想以上によくない理由の一つとして治療介入が遅すぎる可能性が考えられ、これまでにも早期介入のための診断基準の作成や新規バイオマーカーの探索が続けられてきた。

 例えば急性腎不全「ARF(Acute renal failure)」という言葉に代わり、より軽度な腎障害を含む「AKI(acute kidney injury)」という用語が定着してきているが、この端緒は腎不全に至る以前に的確な早期介入を可能とすることを目指して、国際的な重症度分類「RIFLE基準」が策定されたことにある。

 RIFLE基準策定後、その重症度分類が死亡率とよく相関することが実臨床において確認され実用性が裏付けられたが、さらなる予測能の改善が試みられ、AKIN、KDIGOという新たな分類が登場した。ただ、それらはいずれもがクレアチニンと尿量を指標にしていることに変わりはなく、判定に48時間~7日を要する(表2)。

表2 RIFLE、AKIN、KDIGO基準の比較
 RIFLEAKINKDIGO
診断に用いる基準 血清Cr/GFR, 尿量 血清Cr, 尿量 血清Cr, 尿量
病期重症度分類 Risk, Injury, Fallure
(7日以内)
ステージ1, 2, 3
(7日以内)
ステージ1, 2, 3
(7日以内)
臨床帰結分類 Loss, ESKD なし なし
腎代替療法の扱い 病期に関係しない ステージ3とする ステージ3とする
AKI定義
(血清Cr基準)
基礎Cr値から≧1.5倍増加 ≧0.3mg/dLの増加
(48時間以内)
or
≧1.5倍増加
(48時間以内)
≧0.3mg/dLの増加
(48時間以内)
or
基準Cr値≧1.5倍増加
(7日以内)
基礎Cr値 MDRD式より推算 不要. 48時間で診断可能 MDRD式より推算.
血清Cr値が速やかに低下した
場合は, その値を基礎値とする
除外項目 なし 腎前性. 腎後性の否定 腎前性. 腎後性の否定
MDRD:modification of diet in renal disease

 確かにクレアチニンは、院内死亡率との関連を示すデータが多くあり、前値から0.5mg/dL上昇した場合に死亡のオッズ比は6.5に跳ね上がるとの報告もみられ 1)、予後への影響が極めて強い。しかし逆にクレアチニンの上昇を待つがために診断が遅れているのではないかと従来から指摘されている。

AKIのバイオマーカーに求められるもの

 よく知られているようにクレアチニンはGFRが50~60%まで低下してからようやく顕著に上昇してくる。つまりクレアチニンには「ブラインド領域」と呼ばれ る時期が存在し、AKIの発症や進行を直ちに把握できない。腎障害、特に腎実質性障害の85%は尿細管障害で占めることが知られている(図1)。このような背景から、腎尿細管障害をクレアチニンの上昇を待たずに把握可能とするバイオマーカーの臨床応用が期待されてきた。

図1 急性腎不全の原因と頻度

図1 急性腎不全の原因と頻度

〔N Engl J Med 334:1448-1460,1996〕

 虚血や再灌流あるいは薬剤等の負荷によって尿細管上皮細胞が障害される、もしくはストレスを受けるとさまざまな物質、例えばL-FABPやNGALといったものが尿中に分泌されたり再吸収を受けずに排泄される。それらが腎バイオマーカーと称されるものだ。腎バイオマーカーが反応した後さらに上皮細胞障害が進行しGFRが低下すると、クレアチニン等が上昇してくるわけだ(図2)。

図2 重症患者AKI発症時のイメージとバイオマーカーへの期待

図2 重症患者AKI発症時のイメージとバイオマーカーへの期待

 AKIのバイオマーカーには、①早期診断、②重症度判定や予後予測、③原因の鑑別、④血液浄化の必要性判定、⑤治療効果の評価――などが求められる。これらについて、L-FABPとNGALの二つを中心に検討してみたい。

次は...
①早期診断が可能か

[hrg-admin]
side_メルマガバナー

「健診・検診」に関するニュース

2023年08月09日
8020達成率は5割以上 若い世代の歯周病増、口腔ケアが課題に
厚労省「令和4年歯科疾患実態調査」より
2023年08月08日
若い世代でも「脂肪肝疾患」が増加 やせていても体脂肪が蓄積 肥満とどう違う?
2023年07月28日
2022年度版「健診・保健指導施設リスト」状況を報告します【保健指導リソースガイド】
2023年07月24日
標準体重でも3分の1は実は「肥満」 BMIは健康状態をみる指標として不十分 やせていても安心できない
2023年07月11日
自治体健診で高齢者のフレイルを簡便に判定 「後期高齢者の質問票」でリスクが分かる 「フレイル関連12項目」とは?
2023年06月20日
肝臓学会が「奈良宣言2023」を発表 肥満・メタボの人は「脂肪肝」にもご注意 検査を受けることが大切
2023年06月12日
自治体健診で「心房細動」を早期発見 健康寿命と平均寿命の差を縮める 日本初の「健康寿命延伸事業」 大分県
2023年06月05日
要介護認定リスクと関連の深い健診6項目が明らかに 特定健診・後期高齢者健診のデータから判明 名古屋市
2023年05月19日
令和4年度「東京都がん予防・検診等実態調査」 受診者増加のための取組み率は健康保険組合で85%に上昇
2023年05月18日
さんぽセンター利用の5割以上「健診結果の措置に関する説明力が向上」
-『令和4年度産業保健活動総合支援事業アウトカム調査報告書』-
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,000名)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 3%
  • 保健師 46%
  • 看護師 10%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 22%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶