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「食欲を抑えられない」のはなぜ? 食欲ホルモン「レプチン」のメカニズム
2017年09月27日
食欲を抑えられないのは、脳内で「レプチン」というホルモンの作用が不足しているからだ。
「PTPRJ」という酵素分子が「レプチン」の受容体の活性化を抑制していることを、自然科学研究機構・基礎生物学研究所の研究グループが発見した。
レプチンが効きにやすくする治療薬を開発すれば、効果的な肥満の治療法となる。
「PTPRJ」という酵素分子が「レプチン」の受容体の活性化を抑制していることを、自然科学研究機構・基礎生物学研究所の研究グループが発見した。
レプチンが効きにやすくする治療薬を開発すれば、効果的な肥満の治療法となる。
レプチンが効きにくくなると食欲を抑えられなくなる
食べ過ぎによって引き起こされる肥満は2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、メタボリックシンドロームの要因になり、脂肪肝やがんなどの発症にも関わっている。
食べ過ぎると脂肪が体にたまり肥満になる原因のひとつは「レプチン」というホルモンの作用が不足するからだ。
レプチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、脳内の弓状核という摂食中枢に作用して、食欲をコントロールする作用がある。
レプチンは脂肪が増えるにしたがい放出量が増える。適正な体重を維持するためにレプチンの働きが必要になる。
しかし、肥満の人の多くは、レプチンが効きにくくなる「レプチン抵抗性」が起こり、食欲を抑えられなくなる。レプチン抵抗性を解消するメカニズムが解明できれば、効果的な治療法になる可能性がある。
「PTPRJ」がレプチン抵抗性を引き起こす
自然科学研究機構・基礎生物学研究所の新谷隆史准教授や野田昌晴教授らの研究チームは過去の研究で、「PTPRJ」という酵素分子がインスリンの働きに影響していることを明らかにした。
肥満になると摂食中枢でPTPRJの発現が増え、PTPRJはレプチン受容体に作用し、レプチンの働きを抑制する。その結果、レプチンが多く分泌されても、その効きが悪くなり、レプチン抵抗性が引き起こされるという。
レプチンは細胞表面にあるレプチン受容体に結合する。レプチン受容体には「JAK2」というタンパク質リン酸化酵素が会合している。
レプチンが結合すると、JAK2は自身の特定のチロシン(タンパク質を作っているアミノ酸の一つ)を活性化し、さらにレプチン受容体をリン酸化することにより細胞内へレプチンの情報を伝える。この情報によって、摂食中枢の神経細胞は摂食を抑制するよう指令を出す。
「RPTP」はタンパク質のチロシンに付いたリン酸を外す(脱リン酸化する)酵素で、細胞膜にある。
PTPRJを取り除くとインスリンの働きが増大
研究グループはRPTPの生理機能を明らかにする研究を進めており、RPTPのひとつであるPTPRJが、インスリン受容体を脱リン酸化することによって、その働きを抑制していることを発見した。
PTPRJを欠損すると、レプチンの摂食抑制の働きが強められる。PTPRJを欠損したマウスでは。食後の血糖値の上昇がおだやかで、インスリンの働きが増大していた。正常なマウスと比べ体長は同じだが、摂食量が少なく、低体重で脂肪量が少ないことを確認した。
このメカニズムを詳細に解析すると、PTPRJがJAK2の活性化に重要な特定のチロシン残基を脱リン酸化し、効率的にレプチン受容体の情報伝達を抑制するというメカニズムが浮かび上がった。
マウスを高脂肪食で2か月間飼育すると、レプチン抵抗性がつくられる。研究グループは、このとき摂食中枢のPTPRJの発現が上昇することを突き止めた。
PTPRJを阻害する肥満の効果的な治療薬
次に、高脂肪食で14週間飼育したマウスにレプチンを投与したところ、PTPRJ欠損マウスでは、レプチン投与に応答して摂食量および体重が顕著に減少し、レプチン抵抗性が生じないことが明らかになった。
さらに、レプチン抵抗性を発症していないマウスの摂食中枢にPTPRJの発現を増加させると、レプチン抵抗性が誘導されることも分かった。
今回、PTPRJがレプチン受容体の働きを抑制し、レプチン抵抗性の発症に関わることが明らかになったことで、PTPRJを阻害する薬を開発すれば肥満の効果的な治療薬となるという展望が開けた。
PTPRJの活性を阻害することでレプチン受容体に対する抑制が解除され、レプチン抵抗性が改善すると考えられる。今後、2型糖尿病や肥満を改善する治療薬として、PTPRJを標的とする薬剤の開発が視野に入ってきた。
自然科学研究機構・基礎生物学研究所
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