糖尿病合併症のバイオマーカー:GAの臨床的意義
糖尿病合併症のバイオマーカー:GAの臨床的意義
久山町研究から考える
第60回 日本糖尿病学会年次学術集会 ランチョンセミナー
糖尿病治療の目的は、糖尿病であっても糖尿病でない人と同じ寿命を達成しQOLを確保することである。より具体的には、血糖管理等による治療介入により合併症を抑止することにある。そしてその合併症は、細小血管症の時代、大血管症の時代を経て、現在は認知症と癌の時代に突入した。ともに危険因子の同定に長期観察が必要とされる疾患で、信頼性の高い研究が困難であり、その数は少ない。
そこで本講演では、規模と精緻度、歴史において世界に誇る疫学調査である久山町研究から、現時点における糖尿病合併症について、とくに認知症にスポットを当て、その予測因子としての血糖バイオマーカーの有用性・可能性を報告いただいた。演者は、久山生活習慣病研究所の代表理事、清原裕先生である。
演者:清原 裕 先生(公益社団法人 久山生活習慣病研究所 代表理事)
座長:難波 光義 先生(兵庫医科大学
病院 病院長)
久山町研究にみる糖代謝異常の頻度
疫学調査が進行中の福岡県久山町は、福岡市の東に隣接する人口が八千数百人規模の町である。過去50年間、人口構成や栄養摂取状況等が日本の平均と一致して変化しており、この町で起きている現象は日本全体に外挿可能と考えられる。1961年にスタートした久山町研究は常に健診受診率80%を目指し、高い精度を維持しつつ現在も継続中である。
久山町研究における糖尿病の頻度は人口の高齢化および生活習慣の欧米化とともに上昇しており、現在、糖代謝異常(糖尿病+境界型)は40歳以上の男性の2人に1人、女性の3人に1人に認められる1)。糖尿病の頻度は男性24.0%、女性13.4%にのぼる2)。この頻度は国民健康・栄養調査などに比べて高いが、その差異が生じた理由は、久山町では全対象者に75g経口糖負荷試験を行い糖尿病を判定していることによる。実際、久山町のデータを他の疫学調査と同様にヘモグロビン(Hb)A1cと糖尿病の病歴だけで判定すると、その頻度は同程度に低下する。
久山町の糖尿病頻度の推移を年齢別にみると、とくに高齢者層で増加が著しい2)。このことが後述の認知症や癌のリスク上昇に関わっていると考えられる。
細小血管症と血糖バイオマーカー
はじめに血糖バイオマーカーと細小血管症との関連について述べる。
現在の糖尿病の診断基準である空腹時血糖値126mg/dL以上、糖負荷後2時間血糖値200mg/dL以上という値は、網膜症出現の血糖閾値に関する海外の疫学データを基に求められたものである。そこで久山町の疫学データを用いて日本人における網膜症出現のカットオフ値を解析すると、空腹時血糖値は117mg/dL(感度82.7%、特異度86.6%)とやや低かったが、糖負荷後2時間血糖値は207mg/dL(90.4%、89.3%)で欧米の報告とほぼ同レベルであり、HbA1cは6.1%(86.5%、88.8%)、グリコアルブミン(GA)は17.0%(86.5%、89.0%)、1,5-アンヒドロ-D-グルシトール(1,5-AG)は12.1μg/mL(78.8%、85.8%)であった3)。感度、特異度は糖負荷後2時間血糖値が最も高く、HbA1cとGAは同等といえる。
HbA1cとGAの網膜症の判別力については米国の大規模コホート研究であるARIC研究からも報告されている。
糖尿病網膜症の判別力をROC曲線下面積で比べると、年齢やBMIなど既知の危険因子によるAUCは0.744で、これにHbA1cを加えた場合0.805、GAを加えた場合0.811と両者とも同等に向上し(ともにp<0.001 vs 既知の危険因子のみ)、腎症についてもほぼ同様であった4)。以上より、細小血管症についてはHbA1cとGAは同レベルの判別力を有すると考えられる。
大血管症と血糖バイオマーカー
久山町研究ではすでに20年以上も前に、糖尿病のみならず耐糖能異常(IGT)の段階から心血管病リスクが有意に上昇することを報告した5)。HbA1cについては、脳梗塞のリスクが虚血性心疾患に比べより低いHbA1cレベルから上昇することも明らかにしてきた6)。残念ながら久山町研究には、他の血糖バイオマーカーと心血管病について検討した追跡データがまだないため、ここでは頸動脈エコーによる内膜中膜複合体(IMT)肥厚との関係をみた横断研究の成績を示す。
前述の各血糖マーカーのレベルを四分位にわけて、IMT肥厚(1mm以上)のオッズ比を算出すると、HbA1c、GAはともにIMT肥厚の有意な関連因子だった。ROC解析では、HbA1cとGAは同等の判別力を有していた(既知の危険因子のみのAUC0.719に対し、HbA1c追加で0.729、GA追加で0.728。ともにp=0.04 vs 既知の危険因子のみ)7)。同様の成績は前述のARIC研究の追跡調査でも認められている8)。
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