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「買物弱者」問題は深刻 700万人に増加 対策事業の半数以上が赤字
2017年10月18日
高齢者が日常の生活用品の購入などにも困難をきたす「買物弱者」への対策が大きな社会問題となっている。
買物弱者対策を新たなビジネスチャンスと受け止め、民間業者の参入も目立つようになったが、事業の半数以上が赤字という調査結果を総務省が発表した。
買物弱者対策を新たなビジネスチャンスと受け止め、民間業者の参入も目立つようになったが、事業の半数以上が赤字という調査結果を総務省が発表した。
買物弱者数は700万人 4年間で100万人増加
総務省によると、買物弱者とは「流通機能や交通網の弱体化とともに、食料品などの日常の買物が困難な状況に置かれている人々」を指す。
経済産業省は、買物弱者に関する調査を2014年に実施した。それによると、日本全国の買物弱者数は推計700万人に上り、2010年の調査から100万人増加している。同省は、買物弱者を一般に最寄りの食料品店まで500メートル以上離れ、車の運転免許をもたない人と定義している。
地域に根差したスーパーや商店の撤退・閉店が相次いでいる。過疎地の人口減少で商売が成り立たなくなったり、営業を継続できなくなったりするケースが増えている。背景にあるのは、少子高齢化や人口減少、ネット通販の隆盛、大規模小売店による競争激化、後継者不在などだ。
買物環境の悪化がもたらす影響は、(1)高齢者の外出頻度の低下による生きがいの喪失、(2)商店までの距離が遠くなることによる高齢者等の転倒・事故リスクの増大、(3)食品摂取の多様性が低下することによる低栄養化およびこれによる医療費や介護費の増加の可能性など。
地方都市や大都市圏でも買物弱者は増加
これまで買物弱者を多く抱えていたのは、過疎化が進んでいる地方都市と思われがちで、買物弱者対策は地方の問題として受け取られていた。しかし、今後は地方都市や大都市圏でも高齢化が進むのに伴い、増加する見込みだ。
単身高齢者が急増していることが原因のひとつ。昭和30~40年代に建設された団地には5階建てでもエレベーターが設置されていないところが多く、高層階の住民が高齢化することで買物弱者になってしまうケースもある。
人口減少に歯止めをかけることが難しいため、買物弱者の問題をただちに解決する特効薬はないが、買物弱者の増加を新たなビジネスチャンスと受け止める民間企業もある。
自治体と企業が知恵を出し合い、新しいサービスを生み出す一方、地域でも商店や移動販売を守り育てる努力が必要とされている。
経済産業省が「買物弱者応援マニュアル」を作成
経済産業省が民間に調査委託のうえで作成した「買物弱者応援マニュアル」では、22の取組み事例を紹介したうえで、事業の立上げ、継続、横展開などにおける工夫のポイントなどがまとめられている。買物弱者応援・支援のために何らかの事業を始めようとするときに役立ててもらうことを狙っている。
「買物弱者応援マニュアル」では、埼玉県日高市、千葉県銚子市、大阪府泉佐野市の3自治体に協力してもらい、地域住民、関係事業者、行政等が一同に集まり、地元の状況をふまえた買物弱者対策について意見交換会を実施。
新しく買物弱者対策を始める際に、住民・事業者・行政がどのように現状を整理し、関係者との合意形成を行っていくかのモデル事例として紹介している。
買物弱者問題に対する取組みとして、(1)家まで商品を届ける(宅配、買物代行、配食)、(2)近くにお店を作る(移動販売、買物場の開設)、(3)家から出かけやすくする(移動手段の提供)、といった取組みに加え、(4)コミュニティ形成、(5)基盤となる物流の改善・効率化などが挙げられている。
買物弱者対策の事業をどう立ち上げるか
買物弱者対策が難しいのは、所管する官庁が内閣府・総務省・経済産業省・農林水産省・国土交通省・厚生労働省の1府5省にまたがっているからだ。行政ばかりではなく、民間事業者・NPO・町内会など、買物弱者対策は官民一体で取り組む必要に迫られている。
買物弱者対策に関連する国の施策として、地方創生、高齢者福祉、食品流通、流通政策、商業活性化、地域公共交通の確保、ICT利活用、社会福祉、高齢者福祉・介護予防、雇用対策など、さまざまな側面がある。
「買物弱者応援マニュアル」では、事業者、行政、住民が互いに連携して役割分担することの重要性も指摘されている。買物弱者支援事業としては食品関連が柱になるケースも多いだろうが、それに限定することなく、「事業をどう立ち上げるか」のステップとして、▽ニーズを把握する、▽地域資源や自社資源の棚卸しをする、▽事業計画を立てる、▽地域を巻き込む、の4段階を挙げている。
買物弱者対策の事業の半数以上が赤字
総務省は今年7月に、買物弱者対策に関する実態調査の結果を公表した。調査は、7府省、20都道府県、67市町村、183事業者を対象に実施した。
調査結果では、買物弱者の実態把握を実施している地方公共団体は約半数で、買物弱者対策への取り組み状況はさまざまであることが明らかになった。
買物弱者対策を新たなビジネスチャンスと受け止め、民間業者の参入も目立つようになったが、急激に進む地方の衰退ですべての地域をカバーしきれないのが実情だ。
事業者による買物弱者対策は、企業、NPO、社会福祉法人、地域住民による組織など、さまざまな実施主体があり、収益をあげるためさまざまな努力がなされているが、行政の支援なく自立して買物弱者対策に資する取り組みを継続して実施していくことが難しい例もある
2016年に継続中の193事業について15年度の収支を調べたところ、106は赤字だった。調査対象の取組みのうち収支が「黒字または均衡」なのは45%にとどまり、赤字の取組みのうち一部は補助金などにより補填しているほか、赤字を自己負担して取組みを継続している例もあるという。
買物弱者の問題が今後さらに深刻化することは避けられないだろう。国が補助をすればそれで良いというものではないが、さまざまな対策を円滑に進めていくうえで所管府省を明確に定め、関係府省がしっかりと連携することが必要だ。
買物弱者応援マニュアル(経済産業省)買物弱者対策に関する実態調査<結果に基づく通知>(総務省2017年7月19日)
食料品アクセス(買い物弱者・買い物難民等)問題ポータルサイト(農林水産省)
食料品アクセス問題に関する全国市町村アンケート調査結果(農林水産省 2017年3月31日)
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