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歯磨きで口の中を清潔に保つことが腸の病気の予防につながる
2017年10月25日

消化管や口腔などにはさまざま日和見菌がいて、免疫系や生理機能に大きく影響している。歯磨きなどの口腔ケアが不十分であったり、腸内細菌叢が乱れると、炎症性腸疾患などの発症リスクが上昇するという研究が発表された。
歯磨きなどの口腔ケアが不十分だと健康維持が困難に
消化管や口腔などにはさまざまな常在細菌(日和見菌)がいて、ヒトの免疫系や生理機能に大きく影響し、健康維持に大きく関わっている。
とくに高齢者では、歯磨きなどの口腔ケアが不十分であると、加齢による免疫力の低下に伴い、口腔内で日和見菌が増加しやすい。歯周病や歯にたまった歯垢などで日和見菌が増加し、肺炎や気管支炎、腸炎などを引き起こすことがある。
口腔ケアを十分に行い、これらの病原菌の菌の増加を防ぎ、リスクを低下させることが全身の健康維持に関係していると考えられる。
歯磨きのブラッシングがうまくできなくなったり、うがいが困難になると、リスクが高まる。このようなリスクを少しでも減らすために、口腔ケアが必要になる。
口腔内の原因菌が増えると腸内細菌のバランスにも影響が
ヒトの大腸内には、100兆個を超える腸内細菌がすみついて、複雑な生態系をつくっている。この菌のかたまりを「腸内細菌叢」という。
口腔ケアと腸内細菌叢とは深い関わりがある。もともといる腸内細菌と異なる口腔細菌が腸に入り込むと、腸内細菌のバランスが大きく変化し、さまざま臓器や組織に炎症を引き起こしてしまうことがあるからだ。
日和見菌の増加を抑え、感染症を防ぐために、口腔ケアに合わせて、腸内細菌叢を健康に保つことが重要であることが、研究で明らかになった。
腸内細菌叢の乱れが炎症性腸疾患の原因に
腸内細菌叢が乱れると、口腔にいる「クレブシエラ菌」が腸管内に定着した結果、免疫細胞が過剰に活性化し、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)などの発症リスクが上昇することを、マウスを用いた実験で明らかにしたと、早稲田大学と慶應義塾大学の研究グループが発表した。
研究は、早稲田大学理工学術院の服部正平教授と慶應義塾大学医学部の本田賢也教授によるもので、国際科学誌「Science」に発表された。
腸内にいるさまざまな細菌の数や割合の変動が、炎症性腸疾患をはじめとするさまざまな病気の発症に関わっている。しかし、こうした腸内細菌叢の乱れが疾患発症につながるメカニズムには不明な点が多い。
そこで研究グループは、まずクローン病患者の唾液を無菌マウスに経口投与し、そのマウスの腸管にいる免疫細胞の種類を解析した。その結果、クローン病患者の唾液を投与したマウスの大腸で、マクロファージを活性化する「インターフェロンガンマ」を産生するヘルパーT細胞が顕著に増加することを発見した。
そこで、このクローン病患者の唾液にどのような細菌が含まれ、マウス腸内に定着したかを知るために、このマウスの糞便から細菌DNAを抽出し、細菌由来の遺伝子を網羅的に調べた。
その結果、約30種類の細菌が検出された。そこでこれらの細菌の多くを単離・培養し、それぞれの細菌を無菌マウスへ定着させたところ、クラブシエラ属の細菌がヘルパーT細胞を強く誘導する細菌であることを突き止めた。

日和見菌が腸管に定着すると免疫細胞が過剰に活性化
クレブシエラ菌は、ヒトの口腔や腸内に常在していて、通常は病気を引き起こさないが、免疫系が弱っている人や高齢者、糖尿病患者などでは、肺炎や気管支炎などを引き起こすことがある。
この細菌を、腸内細菌をもつマウスに経口投与しても、腸管内に定着し増殖することはないが、抗生物質を投与したマウスでは腸管内に定着し、ヘルパーT細胞を強く誘導することが判明した。
このことから、通常時にはもともとある腸内細菌叢が口腔から入ってきた細菌の腸管内への定着を阻止しているが、抗生物質の使用などにより腸内細菌叢が乱れると、この効果が弱まり、細菌の腸管内への定着が引き起こされることが明らかになった。
次に、無菌の腸炎発症モデルマウスにこの細菌を経口投与したところ、腸管炎症が起こることを確かめた。この細菌の腸管内への定着がクローン病の発症・増悪に関与していることが分かった。
また、健常者の唾液を用いた実験で、腸管での細菌の定着とヘルパーT細胞の増加が観察された。この細菌は炎症性腸疾患患者だけでなく、健常者の口腔にもいる可能性があることが示された。
そのため、たとえば長期的に過剰量の抗生物質を服用した場合には、健常者でも腸内細菌叢が乱れ、腸管炎症の原因菌が増える可能性があるという。過度な抗生物質の服用には気を付けるべきだと、研究チームでは説明している。
Ectopic colonization of oral bacteria in the intestine drives TH1 cell induction and inflammation(Science 2017年10月20日)
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