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「食べ物だ」と意識する前に脳は反応 脳が「食べよう、やめよう」と指令
2018年02月21日
「食べよう、いや、やめよう」という判断は、脳が無意識のうちに操っている可能性がある。脳の活動の変化が、食事に対しする日頃から自制(我慢)に影響していることが、大阪市立大学の研究グループで明らかになった。
「食べ物だ」と意識する前に脳は分かっている
大阪市立大学の研究グループは、無意識下で食品画像を提示するだけで交感神経系が興奮し、同時に脳部位の複数で活動の変化がみられることを明らかにした。さらに、この脳の活動変化は、交感神経の興奮の程度や、食事に対して日頃から自制(我慢)をする程度とも関連することが分かった。
研究グループによると、食べ物が目に入ったときに生じる脳活動は、本人が自覚していない間に起きている。これは、日常生活で「どれだけ食べることを我慢しているか」の程度と関連している。
ヒトの食生活では、このような脳神経の仕組みが、食行動に関する判断や意思決定を無意識下で操っている可能性がある。無意識下の認知過程の仕組みを解明することは、特に偏った食行動など、現代人にみられる生活習慣のゆがみを改善し、肥満や過体重、高齢者の食欲不振などの健康問題を解決する上で重要だ。
「食べようか、いや、やめようか」その判断は脳が操っている
ヒトは生活のさまざまな場面で、自覚なく行動の意思決定を行うことがある。例えば食品を目にしたとき、「食べようか、いや、やめようか」と意識して考えることもあるが、何も考えずに食べてしまうこともある。これは、無意識のうちに意思決定がされており、そういった「何気ない」行動の連続が生活習慣に影響していることを示している。
しかし、本人の意識とは関係のないところで、脳が判断や意思決定をどのように操っているのかは十分に解明されていない。
そこで研究グループは、こうした無意識下での認知過程の仕組みを明らかにすることが、特に食行動といった生活習慣の改善の糸口となり、肥満や過体重、高齢者の食欲不振などの健康問題を解決する上で重要と考えた。
そこで、本人が自覚しないうちに、食品の写真を提示したときに生じる自律神経や脳神経の活動と日常の食行動との関係を検証した。
食品画像を提示したときの神経の活動を解析
具体的には、健康な成人男性20人を対象に、無意識下で食品画像を提示したときの脳神経および自律神経の活動を解析した。5分間閉眼で過ごした後に、無意識下の瞬時の画像提示を10分間繰り返し、その後5分間、閉眼で過ごしてもらった。
画像提示は、さまざまな食品の画像を提示する「食品課題」とその食品画像から作成したモザイク画像を提示する「対照課題」の2課題で構成され、画像提示の順序は被験者ごとにランダムに設定された。
無意識下の瞬時の画像提示では、被験者に食品やモザイク画像が提示されたことを気づかせないように、瞬時(0.0167秒)に食品あるいはモザイク画像を提示した直後にマスク画像(風景写真)を2秒間提示した。
自律神経活動の変化を調べるために課題前後の閉眼各5分間の心電図を記録し、心拍間隔の周期的変動(心拍変動)の周波数解析を行うとともに、画像が提示されるごとに引き起こされた脳神経活動を脳磁図法により計測した。
交感神経が興奮しない人ほど食べたいときに我慢できる
その結果、心拍変動の周波数解析から、食品画像提示後の「LF/HF比」は提示前の値と比較して増加した。LF/HF比は、自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスを表し、数値が高いほど交感神経が優位であることを指す。
このことから、食品の画像の提示後は、提示前と比べて交感神経が活発に興奮すると分かった。
また、実験後に質問紙をもとに調べた個々の日常生活における摂食の認知的自制(我慢)の程度と、食品画像提示の前後に観察されたLF/HF比の関係性から、食品画像提示後に交感神経が興奮する人ほど、食べたいときに我慢できない傾向があることが示された。
つまり、食品画像提示後に交感神経が興奮しない人ほど、食べたいときに我慢できる傾向があるという。
また、モザイク画像提示時と比較して食品画像提示時は、瞬時の画像提示のたびに活動に変化を生じる脳部位(下前頭回・島皮質)がみつかった。特に、画像提示直後0.75~0.90秒の間では、行動抑制などに関与する右大脳半球の下前頭回の活動変化量とLF/HF比の増加量との間に負の相関が認められた。
これは、食品画像提示後に交感神経が興奮する人ほど、下前頭回の活動が弱いことを示している。さらに、同時間帯(画像提示直後0.75~0.90秒)、摂食行動などに関与する右大脳半球の島皮質の活動が抑制される程度と、日常の摂食の認知的自制(我慢)の程度との間に正の相関が認められた。
食べたいときに我慢できない人は、島皮質の活動が抑制されていない
島皮質の活動の抑制程度が低い人ほど、食べたいときに我慢できない傾向がある可能性がある。つまり、島皮質の活動の抑制程度が高い人ほど、食べたいときに我慢できる傾向があるということだ。
今回の研究により、無意識下における食品画像提示により引き起こされる自律神経活動および脳神経の応答が、日常の食行動に関わっている可能性が示された。つまり、ヒトの食習慣において行われている「食べよう、いや、やめよう」という意志決定は、無意識のうちに働く脳の習性に左右されている可能性がある。
今回は若年成人男性を対象とした研究なので、研究グループでは今後、中高年や高齢者、女性を対象とした幅広い層で行うことを課題としている。観察されたヒトの脳の無意識下における習性が、実生活における各ライフステージの食と健康にどのように影響するのかを検討していき、糖尿病や肥満などの生活習慣病現代病の病態生理を明らかにしていくという。
研究は、大阪市立大学医学研究科運動生体医学の高田勝子氏、石井聡氏、吉川貴仁教授らの研究グループによるもので、国際学術誌「Scientific Reports」オンライン版に発表された。
大阪市立大学医学研究科運動生体医学Neural activity induced by visual food stimuli presented out of awareness: a preliminary magnetoencephalography study(Scientific Reports 2018年2月15日)
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