ニュース
睡眠中は照明を消すべき? 寝室が明るいと動脈硬化が進行しやすくなる 平城京スタディ
2019年11月27日
寝ている間に寝室の明かりをつけたままにしておくと、動脈硬化が進行しやすくなり、心臓病や脳卒中を発症するリスクが高くなるという研究が発表された。
生体リズムが健康に及ぼす影響を研究
研究は、奈良県立医科大学疫学・予防医学講座の大林賢史氏らによるもので、詳細は科学誌「Environment International」オンライン版に掲載された。
「平城京スタディ」は、奈良県で実施されている、住環境や生活習慣が健康に及ぼす影響を調査するために、2010年に開始された大規模前向きコホート研究。
温度や光といった住環境因子と健康との関連について、ヒトを対象に調べている世界で類をみない研究だ。
同研究では、住環境に着目しているのに加え、生体リズムにも注目している。
昼と夜という24時間周期で繰り返される環境で進化してきた結果、ヒトには「サーカディアン(概日)リズム」という生理機能が備わっている。
光や温度は生体リズムに強く影響を及ぼすが、実生活でどれだけの影響が出ているかは明らかになっていない。
同研究では、サーカディアンリズムの指標として、メラトニン分泌量、体温リズム、身体活動量などを測定している。生体リズムに影響を及ぼす食事についても、新しい手法を用いて調査している。
夜間の寝室を明るくしていると動脈硬化が進展
今回の研究は、夜間の寝室の明るさと動脈硬化の進行の関連を、縦断的に研究したものだ。
研究チームは、「平城京スタディ」に登録されている60歳以上の地域住民を追跡調査し(観察期間中央値34ヵ月)、動脈硬化の指標である頸動脈IMT(首の動脈の血管壁の厚さ)を測定した。
対象者は989人で、平均年齢71.4±6.9歳、観察開始時の頸動脈IMTは、平均IMTが0.88±0.15mm、最大IMTが1.10±0.32mmだった。
寝室の明るさを照度計で測定し、対象者を4群に分け、頸動脈IMTに差が出るかを比較した。寝室の明るさは、もっとも暗い第1四分位群が平均0ルクス、第2四分位群は0.3ルクス、第3四分位群は1.6ルクス、もっとも明るい第4四分位群は9.3ルクスだった。
その結果、夜間の寝室が明るい群で有意に頸動脈の平均IMTが厚くなり、最大IMTも厚くなることが分かった。
夜間の寝室の明るさがもっとも暗い群ともっとも明るい群で、頸動脈最大IMTに0.083mmの差がみられた。これまで研究から、この差は心筋梗塞を10.0%、脳梗塞を11.6%増加させるとみられる。
年齢や肥満、喫煙、高血圧、2型糖尿病など、既知の動脈硬化の危険因子の影響を取り除いても、この関連は明らかだった。
夜の明かりがサーカディアンリズムを乱す
夜間の寝室の明るさが動脈硬化を進行させるメカニズムとして、サーカディアンリズムが乱れることで、血管内皮の機能が低下し、交感神経活性が亢進し、血管拡張作用のあるメラトニンの分泌が低下することなどが考えられる。
夜の不適切な明るさは「光害」としてサーカディアンリズムを乱す可能性があり、これまでにも夜勤労働者で肥満や高血圧、2型糖尿病のリスクが高いことが報告されている。
「平城京スタディ」の過去の研究では、夜間に寝室を明るくしておくと、うつ症状が増えることも明らかになっている。
うつ症状の発症を増やすのは、夜間に光を浴びること以外にも、就寝前のテレビ視聴や、寝室に差し込む朝日などが考えられるという。
「私たちが無意識に浴びている光は、サーカディアンリズムや健康に影響を及ぼす可能性があります。現代人は屋内生活で日中に浴びる光が少なく、夜間は人工照明などで浴びる光が多くなっています。このような自然と異なる光の浴び方が健康に及ぼす影響は大きいと考えられます」と、研究者は述べている。
「夜間の就寝時には、転倒しない程度に部屋を暗くして寝ることが大事です」と、アドバイスしている。
Indoor light pollution and progression of carotid atherosclerosis: A longitudinal study of the HEIJO-KYO cohort(Environment International 2019年12月)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2024 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「健診・検診」に関するニュース
- 2024年04月25日
-
厚労省「地域・職域連携ポータルサイト」を開設
人生100年時代を迎え、保健事業の継続性は不可欠 - 2024年04月22日
- 【肺がん】進行した人は「健診やがん検診を受けていれば良かった」と後悔 早期発見できた人は生存率が高い
- 2024年04月18日
- 人口10万人あたりの「常勤保健師の配置状況」最多は島根県 「令和4年度地域保健・健康増進事業の報告」より
- 2024年04月18日
- 健康診査の受診者数が回復 前年比で約4,200人増加 「地域保健・健康増進事業の報告」より
- 2024年04月09日
- 子宮の日 もっと知ってほしい子宮頸がんワクチンのこと 予防啓発キャンペーンを展開
- 2024年04月08日
- 【新型コロナ】長引く後遺症が社会問題に 他の疾患が隠れている例も 岡山大学が調査
- 2024年03月18日
- メタボリックシンドロームの新しい診断基準を提案 特定健診などの56万⼈のビッグデータを解析 新潟⼤学
- 2024年03月11日
- 肥満は日本人でも脳梗塞や脳出血のリスクを高める 脳出血は肥満とやせでの両方で増加 約9万人を調査
- 2024年03月05日
- 【横浜市】がん検診の充実などの対策を加速 高齢者だけでなく女性や若い人のがん対策も推進 自治体初の試みも
- 2024年02月26日
- 近くの「検体測定室」で糖尿病チェック PHRアプリでデータ連携 保健指導のフォローアップなどへの活用も