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高血圧・肥満が寿命を最も縮めている 世界の70万人のゲノムを解析しリスクを予測

 高血圧・肥満が寿命を縮める要因であり、糖尿病のある患者・男性はとくにリスクが大きいことが、大阪大学の研究グループが世界中から集められた70万人のゲノム情報を解析した研究で明らかになった。
 個人の健康リスクを正確に予測し、医療が改善できる要素をみつけ介入する、個別化医療・予防医療の実現につながる成果だ。
生まれつきの遺伝情報を解析し健康要因を解明
 大阪大学の研究グループが、日本人を含む世界中から集められた70万人のゲノム情報を活用した新しい技術を用いて、高血圧・肥満がとくに寿命を縮めていることを明らかにした。

 糖尿病のある患者・男性はとくにリスクが大きいという。

 研究グループは今回、日本・イギリス・フィンランドの大規模バイオバンクが保有する合計70万人のゲノム情報・バイオマーカー・寿命情報を解析する手法を開発した。

 バイオバンクは、多数のヒトのDNA、血液、尿、組織などの検体を収集・保存し、病気の新しい検査法・治療法・予防法などを探るために役立てる仕組みのこと。

 近年では国家レベルで数十万人を対象とするバイオバンクがつくられている。

 研究グループは、バイオマーカーの値をゲノム情報から予測し、さまざまな人種に共通し、高血圧・肥満が寿命を縮める原因になっていることを明らかにした。

 バイオマーカーとは、ヒトの疾患病態などをさぐるために用いられる指標のこと。体重、血圧値、血糖値、コレステロール値などがよく使われるバイオマーカーだ。

 その結果、日本人では高血圧が、欧米人では肥満が寿命に大きく影響し、糖尿病のある患者・男性はとくにリスクが大きいことを突き止めた。

 研究は、大阪大学大学院医学系研究科遺伝統計学教室の坂上沙央里氏、金井仁弘氏、岡田随象教授らの研究グループによるもの。研究成果は、医学誌「Nature Medicine」に発表された。

70万人のゲノムによるリスク予測
 この20年間でヒトゲノム研究は急速に進歩し、遺伝子の多様性が、どのように病気や個人の特徴(形質)に影響を与えているかについて全体像が明らかになってきた。

 糖尿病や高血圧などの病気には、多くの遺伝的要素(多因子性)が影響している。こうした疾患の複雑な遺伝的リスクを調べる研究分野は「ポリジェニック」と呼ばれている。

 これまで、世界中の研究機関や国家的なバイオバンクの協力により、ヒトの個性をかたちづくる多因子性について、数万人~数百万人を対象とした研究が行われてきた。

 研究グループはこの手法を、日本(バイオバンク・ジャパン、8.18万人)、イギリス(UKバイオバンク、9.36万人)、フィンランド(フィンジェン、10.14万人)という、国家的なバイオバンクで保有する遺伝子情報と臨床情報に適用した。

 このうち、バイオバンク・ジャパンは、日本人集団27万人を対象としたバイオバンクで、ゲノム解析が終了した人数は20万人とアジア最大だ。

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高血圧と肥満が寿命を縮めるもっとも強い原因
 その結果、世界ではじめて、人種横断的に高血圧が現代人の寿命を最も縮めていることを発見した。

 とくに糖尿病・脳梗塞・脂質異常症を合併した人でその影響は強く、心血管病による死亡ともっとも強く関連していることを突き止めた。

 肥満も寿命をもっとも縮める強い要因だが、その影響の強さは欧米人の方が日本人よりも大きいことも分かった。

 とくに、不安定狭心症を合併した人でその影響は強く、脳血管病による死亡ともっとも強く関連していた。

 心臓に血液を送る冠動脈の流れが完全に途絶えて閉塞した状態となる急性心筋梗塞の一歩手前で、閉塞が不完全な状態でとどまっているのが不安定狭心症。急性心筋梗塞に移行する可能性が高く、安静時にも胸痛などの症状があらわれる。

遺伝情報を読みとり健康アウトカムを改善
 医学の研究では、個人の健康状態の結果をあらわす指標である「健康アウトカム」、すなわち寿命や健康寿命が、どのような原因によって短くなったり長くなったりするのかを特定することが目標のひとつになっている。

 これまでの大規模なゲノム研究で集められた遺伝情報から、ゲノムと病気の発症との関連について「ポリジェニック・リスク・スコア(PRS)」という数値が導き出され、個人のゲノム情報から将来の病気の発症の予測ができるようになった。

 このスコアの分布を集団内で調べることで、糖尿病など特定の疾患のリスクの高い個人を特定することができるようになると考えられている。

 しかし、これまでPRSは生まれつきの遺伝要因しか考慮されておらず、集団レベルで寿命や健康改善に結びつけるには課題があった。

 健康に影響を与えるのは、遺伝的なリスクだけではなく、環境因子や生活習慣といった因子も大きい。

 これらのリスク因子に医学的な観察・介入を行えば、集団レベルで健康アウトカムを改善させることが期待できる。
ヒトゲノム配列上の数千万ヵ所の遺伝子変異を解析
 リスク因子を特定するために、これまで観察研究やランダム化比較試験が用いられてきた。

 しかし、観察研究からは因果関係の証明ができず、ランダム化比較試験は費用や倫理面などの制限があり限られた検査値にしか応用できないという課題があった。

 そこで研究グループは今回、健康指標や治療に使用可能なバイオマーカーについて、PRSと寿命との関連を、人種横断的に調べる手法を開発した。

 身長や体重、血液検査値など多数のバイオマーカーに対して、それぞれのPRSを作成して寿命との関連を調べることで、どれが寿命を伸ばしたり縮めたりする原因となっているかを特定する手法を開発した。

 これを世界70万人のゲノムデータに適用することで、世界の人々の寿命を縮めるもっとも強い原因が高血圧と肥満であることを特定した。
ゲノム情報により個別化医療・予防医療の実現へ
 生まれつきのゲノム情報によるバイオマーカーの予測値(原因)であるPRSと寿命(結果)との関連を調べることで、因果関係を担保した状態で、寿命を規定する因子をみつけることができるようになった。

 この手法をさらに多様な健康マーカーや人種集団に当てはめれば、個人の健康リスクを正確に予測し、どのバイオマーカーをモニターし介入すれば、健康アウトカムの改善を期待できるかを推定できるようになる可能性がある。

 これにより、ゲノム情報による個別化医療・予防医療を実現できると期待している。

 「この手法をさらに多様なバイオマーカーや電子カルテデータ、人種集団にあてはめることで、個人の健康リスクを正確に予測し、医療が改善できる課題を見つけ介入する、個別化医療・予防医療に貢献することが期待されます」と、研究グループは述べている。

理化学研究所 生命医科学研究センター
大阪大学 大学院医学系研究科 遺伝統計学
Trans-biobank analysis with 676,000 individuals elucidates the association of polygenic risk scores of complex traits with human lifespan(Nature Medicine 2020年3月24日)
[Terahata]
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