ニュース
食欲ホルモン「グレリン」の謎を解明 なぜ食事リズムが乱れると運動不足に? 立体構造も解明
2020年08月31日

「グレリン」は胃から分泌される食欲ホルモン。「グレリン」の発見により、胃が食物の消化だけでなく、エネルギー代謝や成長ホルモンの分泌調節といった重要な働きもしていることが明らかになってきた。肥満や摂食障害の治療でも、グレリンの働きを利用する試みが始められている。
食欲ホルモン「グレリン」が肥満や糖尿病に影響
「グレリン」は胃から分泌される食欲ホルモンで、食欲亢進や脂肪蓄積などの生理作用があり、肥満やメタボリックシンドローム、2型糖尿病など、さまざまな病気に影響している。
空腹になると胃から血液中に「グレリン」が分泌され、血液を流れた「グレリン」が脳の摂食調節部位に作用することで、食欲が刺激され、空腹感が生まれる。
「お腹が空いた」という感覚は、血液中に分泌された「グレリン」が脳を刺激することによって生まれる。グレリンに異常が起こると、食事をした後でも短時間で食欲を感じやすくなるなど、肥満やメタボの発症リスクが高まると考えられている。
食事のリズムが崩れると運動不足に
「グレリン」は、1999年に久留米大学分子生命科学研究所の児島将康教授らが発見した。同大学の研究グループが発表した2019年の研究では、「グレリン」はドーパミンと関係が深い脳内報酬系に作用し、運動へのモチベーションを高めていることが明らかになった。
この研究は、同大医学部内科学講座、動物実験センター、分子生命科学研究所、バイオ統計センター、人間健康学部(スポーツ医科学科)などが、それぞれの専門の垣根を越え共同で行ったもの。
「グレリン」が欠損しているマウスは、摂食には影響がないものの、自発的な運動量が少ないことが判明した。運動量が低下しているグレリン欠損マウスに、食事のリズムに合わせて「グレリン」を投与したところ、運動量が回復することが明らかになった。
食事のリズムを良くすれば運動への意欲も高まる
末梢組織から中枢に運動のモチベーションを伝えるシグナル分子/経路があり、運動へのモチベーションには、中枢だけでなく末梢組織である胃も、重要な役割を果たしている可能性があるという。
運動へのモチベーションは、食欲ホルモンである「グレリン」が分泌される空腹時に高まるため、食事のリズムを正せば、「グレリン」の分泌リズムも改善し、運動に対する意欲も高まる。逆に、食事のリズムが崩れると、運動に対する意欲が低下し、運動不足になるおそれがある。
グレリン受容体の立体構造を解明

体重減少や食欲不振症の治療への応用も期待
多くの進行がん患者にみられる食欲不振、体重減少、筋肉量の減少、全身衰弱、倦怠感を特徴とした進行性の消耗性疾患の治療に、「グレリン」を応用することが考えられている。
現在、グレリン受容体に結合して「グレリン」と同じ作用を示す化合物として、経口グレリン様作用薬である「アナモレリン」の開発が進められている。
「グレリン」はがその受容体に結合すると、体重、筋肉量、食欲、代謝を調節する複数の経路が刺激される。「アナモレリン」の臨床試験では、がん悪液質の患者での体重および筋肉量の増加、食欲の増加効果があることが示され、新薬としての申請が行われている。
臨床試験では体重や筋肉の増加、食欲亢進作用が確認された。「アナモレリン」が承認され、すべての種類のがんに対して処方が可能になれば、がん悪液質の患者の治療に大きく役立つと考えられている。
さらに将来的には、がん悪液質による食欲不振だけでなく、さまざまな疾患による食欲不振や体重減少にも応用できる可能性がある。
「グレリン受容体の立体構造の解明によって、私たちが食欲刺激ホルモンのグレリンを発見して以来の謎だった、脂肪酸修飾の役割がようやく分かってきました。さらに研究を進め、がん悪液質への治療応用などに結びつけていきたいと思います」と、児島教授はコメントしている。
久留米大学分子生命科学研究所Voluntary exercise is motivated by ghrelin, possibly related to the central reward circuit(Journal of Endocrinology 2020年1月)
Structure of an antagonist-bound ghrelin receptor reveals possible ghrelin recognition mode(Nature Communications 2020年8月19日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2025 SOSHINSHA All Rights Reserved.


「健診・検診」に関するニュース
- 2025年06月02日
- 肺がん検診ガイドライン19年ぶり改訂 重喫煙者に年1回の低線量CTを推奨【国立がん研究センター】
- 2025年05月20日
-
【調査報告】国民健康保険の保健事業を見直すロジックモデルを構築
―特定健診・特定保健指導を起点にアウトカムを可視化 - 2025年05月16日
- 高齢者がスマホなどのデジタル技術を利用すると認知症予防に 高齢者がネットを使うと健診の受診率も改善
- 2025年05月16日
- 【高血圧の日】運輸業はとく高血圧や肥満が多い 健康増進を推進し検査値が改善 二次健診者数も減少
- 2025年05月12日
- メタボとロコモの深い関係を3万人超の健診データで解明 運動機能の低下は50代から進行 メタボとロコモの同時健診が必要
- 2025年05月01日
- ホルモン分泌は年齢とともに変化 バランスが乱れると不調や病気が 肥満を引き起こすホルモンも【ホルモンを健康にする10の方法】
- 2025年05月01日
- 【デジタル技術を活用した血圧管理】産業保健・地域保健・健診の保健指導などでの活用を期待 日本高血圧学会
- 2025年04月17日
- 【検討会報告】保健師の未来像を2類型で提示―厚労省、2040年の地域保健を見据え議論
- 2025年04月14日
- 女性の健康のための検査・検診 日本の女性は知識不足 半数超の女性が「学校教育は不十分」と実感 「子宮の日」に調査
- 2025年03月03日
- ウォーキングなどの運動で肥満や高血圧など19種類の慢性疾患のリスクを減少 わずか5分の運動で認知症も予防