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乳がんサバイバーの体験・悩み・知恵をAIで共有するエピソードバンクを開発 大学と患者グループが共同で運営
2020年10月27日

奈良先端科学技術大学とキャンサー・ソリューションズは、乳がんサバイバー(体験者)のさまざまな経験や生活の知恵をもとに、さまざまなエピソードを募集・蓄積し、共有し理解を深めたり、乳がんサバイバーの支援の方策を開発する研究に活用するための、ソーシャル・メディア「ABCエピソードバンク」を開発し公開を開始した。
大学と患者グループがともにこうしたサイトを運営する試みは日本初だという。
大学と患者グループがともにこうしたサイトを運営する試みは日本初だという。
乳がん患者の苦労や工夫を投稿・閲覧できるソーシャル・メディア
「ABCエピソードバンク」は、乳がんの診断を受けた女性が対象で、とくに進行乳がん(Advanced Breast Cancer)の診断を受けた女性を中心に、自身の苦労や工夫したことについて自由に投稿・閲覧できるソーシャル・メディア。
ブログと掲示板の中間の性質をもっているのが特徴で、利用者同士のコミュニケーションの機能を最小限にとどめることで、ソーシャル・メディア上での人間関係の負担を減らし、コミュニケーション上の問題が起きにくいシステムとなっている。
一方で、蓄積された投稿エピソードを一望することが可能で、利用者にとって近い状況にある人々の存在を感じることができ、孤独感を感じにくいシステムになっている。
こうした形式のエピソードバンクは、さまざまながんにまつわる体験談を集め、それを皆で共有し、互いの経験で支え合うことを目的としている。
そこで自由に書かれた体験談の中から、人工知能(AI)の一種である自然言語処理の技術を使い、キーワードに着目して、求める内容により近いエピソードを選び、提供できるようになっている。
研究は、奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科情報科学領域ソーシャル・コンピューティング研究室の荒牧英治教授らの研究グループが、キャンサー・ソリューションズと共同で行ったもの。同社は、がんサバイバーの知識と経験を生かし、就労・雇用の支援なども行っているベンチャー企業だ。
医療者なとが気づかなかった患者自身のニーズを抽出
がん患者は多くの経験をしているが、その体験は1人ひとりすべて異なり、同じ経験をした人は2人といない。しかし、たくさんの経験の中には、共通点もあるはずだ。
「ABCエピソードバンク」では、医師らが気づかなかった患者のニーズも掘り起こし、こうした活動で集積した乳がん患者の体験や生活の知恵が、他の患者の助けになりうるか、また情報技術が効果的な運営にどのような寄与するかなどを研究していく。
同研究室では、自然言語処理の技術を医療技術に応用するさまざまな先進的研究を行っており、既存のソーシャル・メディアの公開データを用いて、そこに潜む社会問題を浮き彫りにし可視化する研究にも取り組んできた。エピソードバンクシステムの開発にこうした技術を生かしている。
また、同社はがん患者のQOL向上につながるような社会活動や研究活動を行っており、同社の監修により、乳がん患者にとって頻出する悩みをタグとしてあらかじめ設定しておくなど、治療で疲れている患者でも投稿しやすい構成を実現している。
学術的な面では、自然言語処理などの技術を用いて、投稿されたエピソードから医療者や研究者が気づかなかったような患者自身のニーズを抽出することを目指している。
今後は2021年2月を目標に、働く世代を対象としたエピソードバンクも立ち上げる予定だという。
関連情報
たくさんの仲間のエピソードが仲間を支える
「患者さんの声は貴重ではあるものの、研究者からは遠く、リーチが困難な材料でした。エピソードバンク構想により、研究者が自由に使えるデータが増えることで、技術が進み、患者さんへ還元できるようになることを目指して研究していきたいと思います」と、荒牧教授は述べている。
キャンサー・ソリューションズの桜井なおみ氏は、「がんの診断を受けた直後、"なぜ自分がなったのだろう""どうやって皆は心を整えているのだろう"と、孤独感や不安な気持ちでいっぱいになります。たくさんの仲間のエピソードが、仲間を支え、"ひとりじゃないよ"というメッセージにつながることを期待しています」と述べている。
乳がん患者が「こんな時どうしたらよいのだろう?」「他の人はどうしているのだろう?」など、気持ちが迷ったときに、多くの患者のエピソードが参考になると期待しているという。
奈良先端科学技術大学院大学ソーシャル・コンピューティング研究室キャンサー・ソリューションズ
ABCエピソードバンク
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