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「脂肪肝」が手遅れになる前にスマホで早期発見 病気と認識してきちんと対策 「脂肪肝プロジェクト」を始動
2021年01月29日

熊本大学はこのほど、脂肪肝の早期発見・治療を促進するため、「熊本脂肪肝プロジェクト」を立ち上げた。
スマホなどから数値を入力するだけで肝臓の状態が分かるページの公開も開始した。
肝臓に脂肪がたまる「脂肪肝」を発症する人が増えている。早く気が付いて対策することが必要だ。
放っておくと動脈硬化が進行しやすくなり、肝臓の機能が低下したり、肝硬変や肝臓がんなどの深刻な病気に進展する。
スマホなどから数値を入力するだけで肝臓の状態が分かるページの公開も開始した。
肝臓に脂肪がたまる「脂肪肝」を発症する人が増えている。早く気が付いて対策することが必要だ。
放っておくと動脈硬化が進行しやすくなり、肝臓の機能が低下したり、肝硬変や肝臓がんなどの深刻な病気に進展する。
脂肪肝を病気と認識して、きちんと対策することが大切
脂肪肝であることが分かっても、自覚症状がないために、そのまま放置する人が少なくない。しかし、脂肪肝になると、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などの危険性が高まることが知られている。
たとえば、肝臓に中性脂肪がたまると、それが血流に乗って全身の血管に運ばれる。すると、血液中のLDL(悪玉)コレステロールが増えてしまい、血管壁にコレステロールがたまり、動脈硬化をまねいてしまう。
糖尿病と脂肪肝には深い関連がある。とくに脂肪肝があり、肥満があると、2型糖尿病のリスクが大きく上昇することが知られている。
福島県立医科大学などが行った、健康診断を受けた中年の男性1,544人と864人の女性を10年間追跡した研究によると、脂肪肝のある男性の糖尿病の発症リスクは12.5%、女性では26.3%だった。脂肪肝のない人に比べある人では、糖尿病の相対リスクが、男性で4.8倍、女性で14.5倍上昇した。
脂肪肝を病気と認識して、きちんと対策することが大切だ。
「熊本脂肪肝プロジェクト」を始動
熊本大学消化器内科(田中靖人教授)はこのほど、脂肪肝の早期発見・治療を促進するため、「熊本脂肪肝プロジェクト」を立ち上げた。
これまで、脂肪肝は初期の段階では自覚症状が乏しく、健康診断などで得られる血液検査の数値に異常があらわれても、精密検査につながりにくいという課題があった。
「熊本脂肪肝プロジェクト」は、病状が進行する前に専門医を受診してもらうことを目的としたプロジェクト。
熊本大学消化器内科では、「現在、国内には推定で1,000万〜2,000万人のNAFL患者がいると考えられ、そのうち100万~200万人がNASHに進展するとみられています。放置すると10年後には約1~2割が肝硬変となり、そのうち数%で肝細胞がんが発生します」と述べている。
「脂肪肝を原因とする肝硬変で失われる命が急速に増えています。脂肪肝が原因で発生する脂肪肝炎・肝硬変・肝がんにならないためには、脂肪肝の段階で放置しないで治すことが大切です」と強調している。
脂肪肝は肝硬変や肝臓の病気を引き起こす
アルコールの飲み過ぎによるものではない脂肪肝は、「非アルコール性脂肪肝」(NAFL:ナッフル)と呼ばれている。
NAFLは初期の段階では自覚症状はほとんどない。しかし、治療しないで放置していると、肝臓の病気が進展し、肝不全や肝臓がんの危険性が高まる。肝炎の状態が長く続くほど肝硬変になりやすく、肝硬変に進行すると肝不全や肝臓がんの危険性が高まり、命に関わってくる。
体格指数(BMI)が低く、肥満でない人でも、実は内臓脂肪がたまっていて、筋肉が減っていると、非肥満NAFLになるおそれがあるので油断はできない。とくに日本人は、肥満でなくともNAFLになりやすいことが知られている。
脂肪肝は、「非アルコール性脂肪肝炎」(NASH)になる前段階の状態。脂肪肝だけでも、動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などの危険性が高くなるが、NASHに進展すると、それとあわせて肝硬変や肝臓がんになるリスクも上昇する。
2型糖尿病、脂質異常症、高血圧がある人は、脂肪肝やNASHに対して、とくに注意が必要となる。
だるさ・むくみ・黄疸・腹水といった症状が出ると肝臓病はかなり進行してしまっている

出典:熊本大学病院 肝疾患センター、2020年
どうすれば脂肪肝が分かる?
脂肪肝を調べるための血液検査に、「AST」「ALT」「血小板値」などがある。検査を受けたときは、これらの検査値をしっかりチェックしたい。
男性、50歳以上の女性、BMIが25以上、2型糖尿病など生活習慣病がある、ALPやASTの値が高い、血小板の値が低いといった人は、NASHのリスクが高い。
AST(GOT)、ALT(GPT)は肝細胞でつくられる酵素。肝臓でアミノ酸の代謝にかかわる働きをしており、「トランスアミナーゼ」とも呼ばれる。肝臓に障害が起こって肝細胞が壊れると、血液中に流れる量が増えるため、その量によって肝機能を調べることができる。
ALTは主に肝臓中にあり、ASTは肝臓以外の筋肉や赤血球中にもある。そのため、肝臓に障害ある場合に、ALTの方が高くなることが多い。
一方、血小板は血液中の成分で、血小板の数が減少すると、出血しやすくなる。肝細胞の線維化(コラーゲンなどの線維質が増えて硬くなること)があると、血小板が破壊され量が減る。
肝細胞が線維化してくると、肝硬変や肝がんへ進展する確率が高くなるため、その程度を知ることは非常に重要だ。
このほか、飲酒量が多いときなどに、γ-GTPの値が上がりやすくなる。これはタンパク質を分解する酵素の一種で、アルコールに敏感に反応する。健康な人は、一時的にγ-GTPの数値が上昇してもすぐにもとに戻るが、ふだんからよくお酒を飲む人では数値が上昇しやすい。
スマホで肝臓の状態が簡単に分かる
「熊本脂肪肝プロジェクト」では専用ウェブサイトも開設し、スマホなどから数値を入力するだけで肝臓の状態が分かるページを公開している。
これは、肝臓の線維化(硬化)を評価する指標「Fib-4 index」を簡単に計算できるようにしたもの。
この指標は、血液検査で得られる肝臓の機能低下を示す数値(AST、ALT、血小板値)や、年齢などにより、肝臓の硬さを「低値」「中間値」「高値」の3段階に判別するというもの。
高い方が肝臓が硬く、肝硬変である可能性がある。その場合は、熊本大病院肝疾患センター内の相談室の電話番号が表示される。センターは肝疾患の拠点病院や専門医のいる県内の医療機関と連携しており、相談に応じるほか、必要に応じて精密検査の予約もできる。
出典:熊本大学病院 肝疾患センター、2020年
熊本大学病院 肝疾患センター
脂肪肝の段階で発見し、治すことが大切

脂肪肝を放っておくと、心筋梗塞、脳卒中のリスクが高まる
脂肪肝になる最大の原因は肥満だ。食べ過ぎや運動不足によって、摂取したエネルギーが消費するエネルギーを上回ると、余ったエネルギーは肝臓に運ばれて中性脂肪になる。その一部は肝臓で処理されるものの、処理されなかった中性脂肪はどんどん肝臓にたまっていく。
肥満が原因の人は、かかりつけの医師や管理栄養士などと相談し、食事療法と運動療法で体重を適正にコントロールすることが大切となる。
食事療法では、3度の食事をバランス良くとり、なるべく間食をとらないよう心がけ、飲み物はエネルギーのないお茶などにする。食べたものは肝臓に運ばれ、体を動かさないでいると脂肪になってたまってしまうので、就寝の2時間前までには食事を済ませておく。
運動療法は、1日30分の活発なウォーキングが勧められる。とくに肝臓の脂肪は、運動してから10分たたないと燃え出さないので、途中でやめないで一定の時間、続けるのが理想的だ。
2型糖尿病や脂質異常症、高血圧などのある人は、薬物療法が必要になることが多いが、治療の効果を十分に得るためには、食事や運動などで生活スタイルを改善することが必ず必要となる。
Non-alcoholic Fatty Liver Disease Is a Risk Factor for Type 2 Diabetes in Middle-aged Japanese Men and Women(Internal Medicine 2017年4月1日)
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