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「慢性疼痛」とスマホアプリで上手に付き合う 痛みの3分の2は心理的ケアにより改善・解消できる可能性

 慢性疼痛は、腰痛や肩こり、筋肉痛、膝痛など多くの人が悩まされているものから、ケガ・骨折、関節痛、神経損傷、感染症、腫瘍などまで、さまざまなものがある。一般的には、疼痛が3~6ヵ月以上持続している状態をさす。

 慢性疼痛のためのアプリが公開されており、痛みの変化をアプリに記録し可視化し、患者による自己管理につなげるほか、収集した情報をビッグデータ解析し、原因究明につなげる取り組みが進められている。

 心理的ケアにより痛みを改善・解消する治療法の開発も行われている。脳の神経経路の変化が痛みによって強化され、ケガなどの損傷が治った後も疼痛が長引いてしまうなどのケースがあり、心理的ケアにより改善できるものも多いとみられている。
慢性疼痛のためのアプリを公開
 順天堂大学医学部附属練馬病院メンタルクリニックは、慢性疼痛研究のためのスマホ向けアプリ「いたみノート」のアンドロイド版を開発し公開を始めた。アプリ「いたみノート」のiPhone版は、すでに2018年より公開されており、これまでに4,000人超の人が登録し利用している。

 痛みは、当事者以外には理解されにくい性質がある。また、日本人は少しの痛みであれば我慢してしまい、医療機関を受診しない人が非常に多いとみられている。現在、国内の慢性疼痛の保有率は13.4%、約1,700万人に上るとされており、そのなかでも痛みが良くならない人は77.6%という調査結果もある。

 慢性疼痛は、炎症や刺激による痛み、神経が障害されることで生じる痛み、心理・社会的な要因によって生じる痛みなど、あらゆる要因が複合的にからみあい発症すると考えられている。

 慢性疼痛に苦しむ人々は、その痛みのためにQOL(生活の質)が著しく低下し、日常生活に大きな支障をきたしている。これまで日常生活の行動(運動量、睡眠、気象など)までは観察が難しいとされていたが、情報技術の発達にともない、このような問題を解決できるようになってきたと期待が高まっている。
重症化の予防と自己管理に役立てることを期待
 「いたみノート」は、日常生活の情報(運動量、睡眠、気象など)と痛みのフェイススケールを連動させて、痛みの変化を可視化し、「痛み日誌」として活用することで、重症化の予防ならびに疼痛のセルフコントロールに役立てることができるアプリ。

 痛みの変化を記録し可視化することで、慢性疼痛のセルフコントロールに役立てられるだけでなく、収集した情報をビッグデータ解析することで、慢性疼痛の増悪因子の究明につなげることもできる。慢性疼痛のある患者だけでなく、通院していない潜在的な慢性疼痛予備群の利用も見込んでいる。

 ビッグデータ研究によるアプローチは、さまざまな疫学研究が抱えている数々の科学的疑問をシンプルに究明できる可能性がある。さらに、ユーザーの地域の気象、日常生活の行動、痛み日誌を合わせて記録することで、パーソナライズされた慢性疼痛対策も可能になる。

 アプリでは、利用者に慢性疼痛、睡眠障害やうつの評価をフィードバックする。アンドロイド版では、臨床研究プラットフォーム「ResearchStack」を利用し、ユーザーが痛みや天気、歩数の相関を理解しやすいようなグラフ画面を搭載している。

慢性疼痛を心理的ケア療法で治療 患者の3分の2で痛みが改善・解消
慢性疼痛をメンタルヘルスケアで改善
 慢性的な腰痛や背中の痛みなどは、メンタルヘルスケアにより改善できる可能性があることが、米コロラド大学心理学・神経科学部の研究で示された。慢性疼痛のある患者に、4週間の心理的ケアを受けてもらったところ、3分の2以上は痛みが改善したり消失した。その効果は、1年以上続いたという。

 慢性疼痛の多くは、原因がよく分かっていないことが多い。たとえば、慢性腰痛のある人の85%は、組織の損傷などの明確な身体的原因を特定できないことが知られている。

 「慢性的な痛みは、主に身体の問題が原因と長いあいだ考えられており、薬物治療や理学療法、運動療法などが行われていますが、十分な効果を得られない患者さんも多くいます」と、同学部のヨニ アシャール氏は言う。

 痛みは、体のなかにある神経線維により伝わり、脳で認識される。脳には報酬系と呼ばれる神経系があり、欲求が満たされたときなどに活性化する。同時に、痛みなどによる恐怖に関連する脳の領域もある。こうした領域の働きにより、脳は急性の痛みよりも慢性の痛みに対して活性化しやすいことが知られている。

 また、慢性疼痛の患者では、神経ネットワークが敏感になっており、軽度の刺激に対しても過剰に反応してしまうことが多いという。

 「たとえばケガをした人が、そのケガが治った後も、脳が誤信号を送り続け、痛みが長引くことがあります。思い込みを意識的に捨て去る訓練をすることで、そうした痛みの多くを軽減できるのではないかと考え、心理的ケアによる治療を開発しました」と、アシャール氏は言う。
心理的ケアにより患者の3分の2で痛みが改善・解消
 研究グループは、過去半年のうちの半分以上の日数で、軽症から中等症の腰痛が生じた、21~70歳の男女151人(平均年齢41.1歳、女性54%)を対象に実験を行った。

 参加者を、疼痛再処理療法(PRT)と呼ばれる心理的ケアを4週間にわたって受ける群と、心理的ケアを受けない対照群などに割り付けた。PRTでは、最初に医師が1時間にわたり電話で患者の話を傾聴したりアドバイスなどをしたうえで、患者教育を含む1セッション当たり1時間のセラピーが計8回実施される。

 その結果、疼痛が改善したり解消した患者は、心理的ケア群では66%に上ったが、通常ケア群では10%にとどまった。さらに、心理的ケア群の脳の機能的磁気共鳴画像法(fMRI)による検査では、痛みにさらされたときでも、痛みの処理に関連する脳領域の活性が大幅に低下していることが確認された。治療後1年後に回答してもらった質問票でも、心理的ケア群では高い治療効果が持続することが示された。

 今回の研究は、慢性疼痛のすべてが偽りのものであったり、頭のなかだけに原因があることを意味するものではないが、脳の神経経路の変化が痛みによって強化され、ケガなどの損傷が治った後も疼痛が長引いているケースは多いとみられている。

 「疼痛の原因が脳にある場合は、解決につながる糸口も脳にあるといえます。今回の研究により、慢性疼痛とその原因を治療するための新しいツールを提供できるようになる可能性があります。痛みが軽減されたり、まったく消失した生活をおくれるよう、強力なオプションを開発することが目標です」と、研究者は述べている。

順天堂大学医学部附属練馬病院メンタルクリニック

いたみノート(順天堂大学) iPhone版 | アンドロイド版

慢性疼痛対策(厚生労働省)
慢性の痛み政策ホームページ(厚生労働行政推進調査事業費補助金)
慢性の痛み情報センター

How therapy, not pills, can nix chronic pain and change the brain(コロラド大学 2021年9月29日)
Effect of Pain Reprocessing Therapy vs Placebo and Usual Care for Patients With Chronic Back Pain: A Randomized Clinical Trial(JAMA Psychiatry 2021年9月29日)
[Terahata]
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