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慢性腎臓病(CKD)の検査や治療も男女で性差が 女性は腎臓病の検査を適切に受けられていない

 女性は男性に比べ、慢性腎臓病(CKD)の疑いがある場合でも、適切な検査を受けられておらず、発見が遅れることが多いという調査結果が、スウェーデンで発表された。

 糖尿病や高血圧などがあり、リスクの高い女性でも、男性に比べて、十分な検査と治療が行われていない傾向があるという。

 「女性に対しても、男性と同じように、公平なヘルスケアを提供し、継続していく努力が必要です。そうした努力が、腎臓病による医療の負担を軽減することにつながります」と、研究者は述べている。

腎臓病は早期発見と治療が重要

 慢性腎臓病(CKD)は、腎臓の働きが低下したり、尿のなかにタンパクが漏れでる状態(タンパク尿)の総称。発症には、肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧、脂質異常症などが関連している。食べ過ぎや運動不足、喫煙といった生活スタイルや加齢も影響している。

 早期の段階では自覚症状は少ないが、進行すると体の余分な水分や老廃物を尿として体外に排泄する機能が弱まり、体がむくんだり、気分が悪くなったり、貧血をおこすなど、さまざまな症状が出てくる。

 さらに機能低下が進行し、末期腎不全にいたると、腎臓の機能を代替する治療である「透析療法」が必要になる。そうならないように、腎臓病を早期に発見し、適切な治療を行うことが大切になる。

慢性腎臓病の検査や治療に男女で差が

 しかし、女性は男性に比べ、慢性腎臓病の疑いがある場合でも、検査を受けられておらず、発見が遅れることが多いという調査結果が発表された。

 研究は、スウェーデンのカロリンスカ研究所によるもの。女性は、腎機能の低下が疑われる場合にも、腎臓病のモニタリングを受けたり、腎臓専門医の診察を受けたり、推奨される治療を受ける可能性が、男性よりも低いという。

 「今回の研究は、行われている慢性腎臓病の検査や治療に性差があり、女性に不利な現状があることを明確に示しています」と、同研究所医療疫学・統計学部のフアン ヘスス カレロ教授は言う。

 慢性腎臓病は、成人人口の約10%に影響をおよぼし、腎機能の悪化をまねく要因となっている。ガイドラインでは、慢性腎臓病のリスクがある人は、スクリーニング検査を定期的に受け、早期の診断を受け、適切な治療を開始することが推奨されている。

 しかし、こうした推奨事項は性差にもとづくものではない。「慢性腎臓病の発生率や有病率、転帰には性差があり、これは男性と女性の生物学的な違いだけでなく、提供されている医療サービスの質の違いによるものもあると考えられます」と、カレロ教授は言う。

慢性腎臓病は血液検査と尿検査で発見できる

 そこで研究グループは、男性と女性の、慢性腎臓病の日常的なケアの違いを調査した。ストックホルム周辺で、2009~2017年に、慢性腎臓病の治療の向上を目指し、血清クレアチニンの積極的な測定を推進するために行われたプロジェクト「SCREAM」の参加者データを解析した。

 慢性腎臓病は、日本の特定健診などの健康診断でも行われている、タンパク尿と血液中のクレアチニン値の検査によって発見される。病気を見逃さないために、両方の検査を受けることが勧められている。

 クレアチニンは老廃物を代表する物質で、腎臓が正常なら尿に出るが、腎臓の働きが低下すると血液にとどまる量が増える。クレアチニン値などから「eGFR(推算糸球体濾過量)」という値を推算する。

 eGFRは、腎臓にどれくらい老廃物を尿へ排泄する能力があるかを示しており、この値が低いほど腎臓の働きが悪いということになる。GFRが60mL/分/1.73m²未満だと、慢性腎臓病が疑われる。

 研究では、慢性腎臓病の疑いがあり精査するべきと判定された、eGFR60mL/分/1.73m²未満という測定結果が1回以上記録されている、18歳以上の成人22万7,847人が対象となった。そのうち女性は55%の12万6,289人だった。

女性は男性に比べて精査の割合が低く管理も不十分

 その結果、女性は男性に比べて精査が行われた割合が低く、慢性腎臓病の管理も不十分である可能性が浮き彫りになった。慢性腎臓病の疑いがあると判定されてから18ヵ月以内に、診察を受けた女性の割合は、男性の0.48倍と2分の1にも満たなかった。

 また、血清クレアチニンの再検査は19%で男性の0.81倍、尿中アルブミン測定は11%と男性の0.89倍、腎臓専門医への紹介は42%で男性の0.58倍となり、それぞれ女性は男性よりも検査やケアが行われる頻度が少なかった。

 腎臓病患者の血圧管理に使うことが推奨されているレニン・アンジオテンシン系(RAS)の治療薬が処方されている割合も、男性で56%だったのに対し、女性では47%で、女性は男性より32%少なかった。コレステロール値を低下させるスタチンの処方率も、男性で38%だったのに対し、女性では29%で、女性は男性より22%少なかった。

 とくに糖尿病や高血圧、心血管疾患のある人は、腎機能を保護したり、心血管疾患のリスクを減らすために、より積極的な治療が必要になるが、ここでも女性は男性に比べ、腎臓病の管理が十分に行われていない傾向がみられた。

 なお、女性は一般的に併存疾患の負担が少なく、糖尿病では、男性の23%が併発していたのに対し、女性は17%だった。心血管疾患でも、心筋梗塞は男性の15%が併発していたのに対し、女性は8%だった。高血圧は、男性の62%、女性の63%が併発しており同じくらいだった。

女性にも公平なヘルスケアを提供

 「この結果は、慢性腎臓病の可能性が高い場合でも、女性は男性と同じ程度の腎臓病の検査や治療を受ける可能性が低いことを示しています」と、同研究所のオスカー スワートリング氏は言う。

 「腎臓病を早期に診断することは、いくつかの理由でとても重要です。早期診断により、たとえば腎臓専門医に紹介したり、他の臨床医にこの状態を知らせることで、腎臓にさらに損傷を与えるおそれのある一般的な薬の処方を避けられます」。

 「今回の調査から、このように女性の腎臓病の管理が潜在的に不足している理由を特定することはできませんが、いずれにせよ、女性に対しても、男性と同じように、公平なヘルスケアを提供し、継続していく努力が必要です。そうした努力が、腎臓病による医療の負担を軽減することにつながります」と、カレロ教授は述べている。

Study reveals gender differences in care of chronic kidney disease (カロリンスカ研究所 2022年8月1日)
Sex Differences in the Recognition, Monitoring, and Management of CKD in Health Care: An Observational Cohort Study (Journal of the American Society of Nephrology 2022年7月)
[Terahata]
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