ニュース
働く人のメンタルヘルスケアをどうする? 労働者のストレスやうつ病を改善 6つの対策を提言 東京大学
2023年11月06日

労働環境によるストレスとうつ病の発症とのあいだに関連があることを、東京大学などが明らかににした。
従業員の健康を高めることは、生産性を高めることにつながり、指導者や経営者にとっても重要だが、労働時間・作業方法・組織・人間関係・職場のレイアウトなど、職場環境の整備の多くは個人レベルの介入に焦点があてられており、組織や労働環境を改善する組織レベルの積極的な介入は不足している傾向が示された。
研究グループは、職場のメンタルヘルス対策の進展を促すために、6つの提言を発表。事業場や部署での仕事の量的・質的負担を適正にしたり、教育訓練プログラムの充実、周囲からの社会的支援を増やすなど、職場環境の改善が必要としている。
従業員のメンタルヘルスを保持・増進するための介入
研究は、東京大学大学院医学系研究科の川上憲人特任教授が、デンマーク、アイルランドなどの研究者と共同で実施したもの。研究成果は、「Lancet」に掲載された。 精神的な健康問題や精神障害は、労働者でよくみられる健康問題であり、本人と雇用主だけでなく、社会にも大きな影響をおよぼす。 仕事がメンタルヘルスにもたらす影響について明らかにし、従業員のメンタルヘルスの保持・増進のための介入手法の現状と課題を明らかにしたうえで、必要な研究や施策を進める必要がある。 研究グループはこれまで、仕事と健康に関する調査・研究を発表しており、職場のメンタルヘルス対策ついても発表している。 働く人たちが心も体も心も健康な状態で、いきいきと働くことが好循環を生み、生産性の向上や組織の活性化につながる「ポジティブ メンタルヘルス」を提唱してきた。 今回の研究では、物理・化学的、人間工学的、心理社会的な労働環境への暴露と、精神障害の発症について調査した前向き研究について、2017年~2021年に公表されたメタ分析を行っている系統的レビューを解析した。 1,242件のうち7件の研究から、26の労働環境と精神障害との関連性に関する統合された推定値を抽出した。職場のストレスやうつ病などを3つのモデルで解明
その結果、職場の高ストレス状態や、いじめ・嫌がらせなど、うつ病性障害の発症リスクとの関係がみられる背景として、下記のモデルがあることが分かった。仕事の要求度―コントロールモデル |
---|
仕事で求められる負荷などの要求度と、従業員がもつ裁量権とのバランスにより、健康問題が生じやすくなると考える職業性ストレスの考え方
|
努力報酬不均衡モデル |
---|
仕事で求められる努力と、そこからえられる報酬がつりあわない場合に、健康問題が生じやすくなると考える職業性ストレスの考え方
|
組織公正 |
---|
組織での意思決定の手続きや管理監督者の部下への態度が公正でない場合に、健康問題が生じやすくなると考える職業性ストレスの考え方
|
従業員のメンタルヘルスを保持・増進するための介入を3つに区分

出典:東京大学、2023年
研究グループはさららに、従業員のメンタルヘルスを保持・増進する職場での介入に関して、以下の3つに区分して文献をレビューした。
1 | 有害影響を防止する (prevent harm) |
---|---|
2 | 仕事のポジティブな面を促進する (promote the positives) |
3 | 精神的問題に対応する (respond to problems) |
組織への介入と個人向け介入を統合した介入戦略
一方、ほとんどの職場での介入は、個人レベルに焦点を当てており、組織と労働環境を改善する積極的な介入をよりいっそう開発・実施する必要であることも分かった。 世界保健機関(WHO)のメンタルヘルス対策ガイドラインやILO/WHOの政策ガイドでは、組織への介入と個人向け介入を統合した介入戦略により、労働環境と従業員のメンタルヘルスの両方を改善できると注目されている。 さらに、関係者により共創的にデザインされ、さまざまな状況に対応した介入を開発・実施するには、全ての関係者が参画する学際的アプローチを進めてゆくことが必要としている。 研究グループは、これらの結果にもとづき、6つの推奨事項を提案している。職場のメンタルヘルス対策を促進するための6つの提言
1 | 精神的問題および精神障害のリスクを増加させる労働環境を規制し管理する。 |
---|---|
2 | 精神的に健康な仕事を形成する方針を作成し改善する。とくに熟練していない従業員や、低所得の従業員の労働環境に焦点をあてる。 |
3 | 組織内のすべての階層で、精神的に健康な仕事を創り維持するための指針や、管理監督者および労働安全衛生の専門家のために、体系的な能力向上や教育訓練プログラムを促進するための指針を作成する。 |
4 | 精神的問題および精神障害をもつ人が労働に参加できるよう、国がサポートし、職場環境を改善する。 |
5 | 精神的問題および精神障害の臨床的評価、診断および管理で、仕事と労働環境についての情報を常に考慮する。 |
6 | 国の精神保健の戦略のなかに職場が含まれることを確実にし、職場のメンタルヘルスの重要性について社会的な認識を醸成する。 |
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2023 SOSHINSHA All Rights Reserved.


「特定保健指導」に関するニュース
- 2023年11月06日
- 「肥満症対策に向けた6つの提言」を発表 患者・市民・地域が参画し協働 多様な介入手法が必要 日本医療政策機構
- 2023年11月06日
- 働く人のメンタルヘルスケアをどうする? 労働者のストレスやうつ病を改善 6つの対策を提言 東京大学
- 2023年11月06日
- 高齢になっても働き続けることが大切 フレイルがあっても働いている人は身体機能を維持し要介護リスクが低下
- 2023年11月06日
- 【新型コロナ】喫煙や肥満が新型コロナの重症化リスクを65~81%上昇 肥満対策や禁煙の保健指導は新型コロナ対策としても有用
- 2023年11月01日
- 【アルコールと保健指導】アルコール性肝障害・奈良宣言2023に関するインタビュー
- 2023年10月31日
- 「ノンアルコール飲料」を活用すれば飲酒量を減らせる お酒の飲み方を改善する効果的な方法に 筑波大学
- 2023年10月31日
- お肉の調理法で良いのは[茹でる・蒸す・煮込む] 肥満リスクを高める「AGE(終末糖化産物)」とは?
- 2023年10月30日
- 「低カロリー食」は肥満・メタボの人に有益 カロリー制限で筋肉も若返る タンパク質を十分にとることも大切
- 2023年10月30日
- 10分間の軽い運動で高齢者の記憶力が向上 運動習慣のない人も安全に取り組みる運動プログラムを開発 筑波大学など
- 2023年10月23日
- 健診で心臓病・腎臓病・糖尿病の異常が出ても3人に1人が再検査を未受診 「ナッジ理論」を活用した受診勧奨の開発へ