学校給食に子供の肥満を減らす効果が 給食を使った日本の食育の価値は高い 世界では子供の肥満が30年で2倍に増加

日本の公立中学校の給食は、子供の健康に好ましい影響を与えており、とくに社会経済的地位の低い世帯の子供で肥満減少の効果があり、その効果は卒業後も数年間は持続されることが、上智大学などの調査で明らかになった。
世界中で肥満が急増するなか、肥満対策としての学校給食の役割は国際的に注目されている。生徒全員を対象に、厳しい栄養基準にもとづき栄養バランスのとれた昼食を提供する日本の学校給食と、給食を教育の一部として位置付ける「食育」の価値は高いとしている。
子供の過体重と肥満が世界的に増えており、対策しないでいると、将来に過体重や肥満の成人が爆発的に増える可能性があるという調査結果も発表されている。
学校給食は注目されている 日本の給食の効果を検証
上智大学などは、日本の公立中学校の給食が子供の肥満に与える影響を分析し、とくに社会経済的地位の低い世帯の子供の肥満を減少する効果があること、またその効果は卒業後も数年間は持続されることを明らかにした。
肥満対策としての学校給食の役割は国際的に注目されているが、学校給食には多大なコストがかかる一方で、効果について十分なエビデンスがないことが課題になっている。
また日本の学校給食は、食事摂取を通じて生徒の健康を直接的に改善するだけでなく、「食育」と呼ばれる教育効果を通じて、長期的に食習慣を改善する効果をもつことも期待されている。
今回の研究は、はじめて日本で実施した個人レベルのデータを用いた精緻な検証で、給食の中長期的な効果についても検討したものとしている。
研究は、上智大学経済学部の中村さやか教授、中国の暨南大学経済与社会研究院の丸山士行教授らによるもの。研究成果は、「Health Economics」にオンライン掲載された。
学校給食は経済的に困難な世帯の子供の肥満を減らすことが明らかに
研究グループは、厚生労働省の国民健康・栄養調査(2002年までは国民栄養調査)の1975年~1994年の個人データを用いて分析。
日本では、公立小中学校の生徒は通っている学校で給食が提供されていれば、原則として給食は強制参加となっている。ほぼすべての公立小学校で給食がある一方で、公立中学校では市区町村により給食の有無が分かれていることを利用し、中学校給食のある地区とない地区で、小学生4~6年生と中学生の体型指標の差を比較し分析を行った。
その結果、全体では中学校給食による体重や肥満への有意な効果はみられなかったが、非ホワイトカラーの父親の子や1人あたり世帯支出が低い世帯の子供、すなわち社会経済的地位の低い世帯の子供に限定して分析したところ、中学校給食により体格指数(BMI)や肥満度、肥満が有意に減少することが示された。
中学校給食による肥満の減少効果は、母親のBMIが高い子供やエネルギー摂取の多い地域の子供など、エネルギー過剰摂取のリスクが高い子供にもみられたことから、給食がエネルギーの過剰摂取を抑制し、肥満を減少させていることが示唆された。
さらに、社会経済的地位の低い世帯の子供への給食の肥満減少効果は中学卒業後の15~17歳にも見られたことから、給食を食べることで直接的に肥満が減少するだけでなく、「食育」の理念の通り、学校給食が食生活の改善を通じた長期的な肥満抑制効果を持つことが示唆された。学校給食によるやせすぎへの影響はまったくみられなかった。
給食は健康的な食習慣を促し肥満を減らす 食育の価値も高い
「本研究は、学校給食が社会経済的地位の低い世帯の子供に対して肥満抑制効果をもつことを示唆しており、生徒全員を対象に厳しい栄養基準にもとづいて栄養バランスのとれた昼食を提供する日本の学校給食や、給食を教育の一部として位置付ける"食育"の高い価値を示すものです」と、研究者は述べている。
論文著者の中村さやか教授は上智大学のサイトで、「給食は、健康的な食事を通じて直接的に肥満を減少させるだけでなく、健康的な食習慣も促すことで、長期的な肥満減少効果につながることが明らかになりました」と、述べている。
「急速に高齢化が進む日本では、高齢者の健康問題に関する研究が注目を集めています。これに対し、女性の就業が子供の食生活や健康状態に及ぼす影響といった、子供の健康状態に関する研究は必ずしも十分に行われてこなかったのではないか」と指摘している。
子供たちと家族の健康な未来に向けた取り組みが必要

「子供の過体重や肥満は、1990年以降はすべての大陸で急増しており、罹患率はほぼ2倍に増えたことが分かりました。子供の過体重や肥満の増加は、もはやパンデミックと言える状況になっています」と、同大学医学部で予防医学を研究しているチャールズ ヘネケンス教授は言う。
小児期の過体重と肥満は、成長してから高血圧、2型糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームなどの増加につながる可能性があり深刻だ。
これらの健康障害は成人にとって、心臓病、脳卒中、肝臓病、腎臓病、閉塞性睡眠時無呼吸症、関節炎、がんなどのリスクの上昇に影響する。
研究グループは今回、ユニセフの「小児と若年者の過体重と肥満の予防に関するプログラム」で2022~2023年に実施された、世界の4万人超の子供を対象とした調査のデータを解析した。
その結果、ラテンアメリカでは20歳未満の子供の20%が過体重や肥満で、欧州でも10~15%の子供が肥満であることなどが分かった。
アジアでも子供の肥満は増えており、5歳未満の過体重の子供のほぼ半数はアジアに集中していることなども分かった。
子供の栄養失調の問題も依然としてあり、多くの途上国は、子供の過体重・肥満と栄養失調という二重の課題に直面しているという。
「過体重や肥満のある子供の多くは、糖質や脂肪を多く含む高カロリーの超加工食品や飲料をとりすぎています」と、ヘネケンス教授は指摘している。
「米国の平均的な子供の食事は、約70%が超加工食品で構成されているという調査結果があります」。
「超加工食品が多く消費されているのは学校であり、学校給食の栄養基準を強化することは、とくに低所得層の子供たちの肥満を減らすのに役立つ可能性があります」としている。
学校給食は経済的に困難な世帯の子供の肥満を減らすことが明らかに (上智大学 2025年3月26日)
栄養調査のデータから、学校給食が子どもの健康に及ぼす影響を解明する (上智大学 2024年8月21日)
Wholesome Lunch to the Whole Classroom: Short- and Longer-Term Effects on Early Teenagers' Weight (Health Economics 2025年3月18日)
Alarming Surge: Global Crisis of Childhood Overweight and Obesity (フロリダアトランティック大学 2024年9月26日)
Navigating the Global Pandemic in Pediatric Overweight and Obesity: Emerging Challenges and Proposed Solutions (Maternal and Child Health Journal 2024年9月24日)
Prevention of Overweight and Obesity in Children and Adolescents (ユニセフ)


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