ニュース

内臓脂肪を解消するための運動 継続のための動機付けがポイント

 「食育健康サミット2013」が都内で昨年12月に開催され、勝川史憲・慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授が、「内臓脂肪蓄積型肥満是正のための運動の理論と実際」と題し講演した。

 肥満にともなう2型糖尿病では、5%程度の軽度の減量で、血糖コントロールが改善し、血圧、脂質などの値が改善する症例が多い。内臓脂肪についてみると、体重減少に対応する20~30%の減少で合併症の改善が認められる。

 「運動指導では、最初はウォーキングを推奨し、息がはずみ汗ばむようなペースで歩くよう指示します。ただし、楽しみや目標につながる動機づけがないと、ウォーキングを継続するのは困難なことが多いです」と、勝川教授は指摘している。

身体活動を積み重ねだけでは十分な運動量を得られない
 運動時間について「持続して20~60分行う」という運動処方が出てきたのは1970年代。これはもともと、健康な人が体力レベルを上げるためのプログラムだった。それを、2型糖尿病などの予防や治療に適用して効果が確かめられてきたという経緯がある。

 一方、1990年代の半ばには、「運動だけでなく日常の生活活動も含めて、1日合計30分、週5日行う」という指針が発表される。疫学研究で、庭の芝刈りや、家のペンキ塗りなど、日常生活で中等度強度の身体活動を積み重ねていくと、ウォーキングなどのプログラムされた運動をまとめて行うのと同じような健康上の効果があることが分かってきたためだ。

 体力の改善よりも運動によるエネルギー消費量が、肥満にともなう種々の合併症の改善とよく関連することから、体力改善からエネルギー消費量の増加へと、健康運動のパラダイムが大きくシフトしたわけである。

 当時はまた、運動量の少ない人が動く量を増やすのがもっともメリットが大きいと考えられていたので、少しでも良いからまずは動く量を増やすことが強調された。30分のウォーキングを週5日行うと、およそ1,000kcalを消費できる。

 細切れの運動でもいいという指示は、仕事をしている世代では動く量を増やすのに有効だが、主婦や現役を引退されて家庭にいる人ではうまく行かない場合がある。それは、買物の行き帰りなど、日常生活の中でそれまで行ってきた身体活動までカウントしてしまい、動く量が実際には増えない場合が多いからだ。

 「エネルギー消費量を増やすには、日常生活に上乗せして運動を行う必要があります。運動強度を上げていくと、エネルギー消費の絶対量が増え、インスリン感受性も改善します。脂肪の利用が最大となるポイントがあり、その強度は、運動経験のない人では通常の歩行程度の運動に相当します」(勝川教授)。

運動の強度を高めていくことも必要
 強度の高い運動ほど、運動中、糖質が多く利用されるので、体内の糖質の貯蔵が減少し、運動後は燃料切れで時間の経過とともに体内の脂肪がどんどん利用されるようになる。高強度の運動が、内臓脂肪蓄積を予防する可能性や,エネルギー消費量とは独立してメタボリックシンドロームの有病率低下に関与することも指摘されている。

 「肥満や肥満に関連する代謝異常のコントロールするためには、導入としては中強度の運動や日常生活での活動量を増やすことから徐々に始め、長い期間をかけてまず運動の合計時間を増やし、時間が確保できたら、次に強度を上げていくというステップを踏んでいくことも必要となる」という。

 糖尿病の運動療法では、指導しても2、3ヵ月でやめてしまう患者が少なくない。また、運動療法を2年くらい継続して、その結果として血液データや身体の改善効果を体験し、それが自己の努力の成果であることをよく理解しているはずの患者でも、その後、運動療法を中断してしまうことがよく見られる。

 外から見て、2年程度、運動習慣を続けていても、それはその後の運動継続を必ずしも保証しない。「どのような動機付けで運動を続けているかがポイントになる」と、勝川教授は強調する。

運動を続けるための動機付けがポイント
 糖尿病の治療では、長期にわたり食事や身体活動の習慣を維持していかなければならないので、運動習慣を長く続けなければならない。ウォーキングは単調で飽きてしまうことも多いので、常にいろいろな種類の運動を試してみて、自分に合った生涯持続できる運動をみつけてもらうことも重要だ。

 運動に対する動機付けには、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」がある。前者は運動以外に目的があり、運動はその目的を達成するための手段であることを指す。例えば、減量、健康増進、疾患治療のために運動するなどだ。後者は運動自体が楽しく、運動自体を目的で行っている状態だ。

 運動を長期に維持させるには、健康のための「手段」として運動を勧めるのではなく、運動の楽しさそれ自体を目的化するようはかることが必要となる。具体的には、(1)運動の内容を自分で選択する、(2)運動によるスキル向上を意識させ運動課題もスキルに合わせて進化させる、(3)運動を通じて社会とのつながりをはかる。

 「運動を継続できている人は、内発的動機の要素が強くなっています。血液検査データの改善や体重の減少は、短期的には運動の励みになる場合も少なくありませんが、こうしたデータと運動の関係は強固なものではありません」(勝川教授)。

 食事療法や運動療法に取り組む患者がなぜ治療を行うかという動機付けの部分が重要だという。「運動を楽しんで実施している人では継続する確率が高い」と、勝川教授は指摘している。

慶應義塾大学スポーツ医学研究センター

[Terahata]
side_メルマガバナー

「運動」に関するニュース

2025年07月28日
日本の「インターバル速歩」が世界で話題に 早歩きとゆっくり歩きを交互に メンタルヘルスも改善
2025年07月28日
肥満と糖尿病への積極的な対策を呼びかけ 中国の成人男性の半数が肥満・過体重 体重を減らしてリスク軽減
2025年07月28日
1日7000歩のウォーキングが肥満・がん・認知症・うつ病のリスクを大幅減少 完璧じゃなくて良い理由
2025年07月18日
日本人労働者の3人に1人が仕事に影響する健康問題を経験 腰痛やメンタルヘルスなどが要因 働きながら生産性低下を防ぐ対策が必要
2025年07月18日
「サルコペニア」のリスクは40代から上昇 4つの方法で予防・改善 筋肉の減少を簡単に知る方法も
2025年07月14日
暑い夏の運動は涼しい夕方や夜に ウォーキングなどの運動を夜に行うと睡眠の質は低下?
2025年07月07日
日本の働く人のメンタルヘルス不調による経済的な損失は年間7.6兆円に 企業や行政による働く人への健康支援が必要
2025年07月07日
子供や若者の生活習慣行動とウェルビーイングの関連を調査 小学校の独自の取り組みを通じた共同研究を開始 立教大学と東京都昭島市
2025年07月01日
生活改善により糖尿病予備群から脱出 就労世代の1~2割が予備群 未病の段階から取り組むことが大切 日本の企業で働く1万人超を調査
2025年07月01日
東京糖尿病療養指導士(東京CDE) 2025年度申込を受付中 多職種連携のキーパーソンとして大きく期待される認定資格
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,800名)
登録者の内訳(職種)
  • 医 師 3%
  • 保健師 47%
  • 看護師 11%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 20%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶