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認知症を運動でくいとめる 軽い運動や音楽を組み合わせると効果的

 認知症の有病者数は440万人と推計されており、社会の高齢化に伴い患者数は今後も増えていくとみられている。「認知症を予防・改善するために運動が効果的」という研究が相次いで発表された。

 運動は認知症の予防・改善の観点からも効果的であることは、過去の研究で指摘されている。ただし、ただ運動すれば良いというわけではない。10分間の軽い運動でも、頻度を高めれば効果を得やすいことや、音楽に合わせて体を動かすとより効果的であることが明らかになった。
10分間の軽い運動で脳の機能は向上する
 筑波大学などは、軽い運動を短時間行うことで、脳の前頭前野が担う注意力や判断力、計画・行動を調節する機能が向上するという研究を発表した。

 運動を習慣として行うことで、体が健康になるだけでなく、脳の認知機能も高まることから、運動は認知症の予防の観点からも注目されている。

 ヨガや太極拳といった、ストレスにならない程度の低強度の運動には、海馬で新しくできる神経の数を増やし、空間記憶能力を向上させる効果があることが、動物実験では確かめられている。

 筑波大学体育系の征矢英昭教授と中央大学理工学部の檀一平太教授らの研究チームは、今回の実験ではヒトを対象に、低強度の運動が認知機能に与える影響を調べた。

 25人の健康な若者を2つのグループに分け、両方のグループに、言葉で実際の色とは違う色が表示されたカードを使う「ストループテスト」を用いて、認知機能テストを行った。

 片方のグループにはテストの前後に低強度の運動を行ってもらい、もう片方にグループには運動を行わず、安静に過ごしてもらった。運動は、最大酸素摂取量の30%の強度で、10分間のペダリング(自転車こぎ)を行うというものだ。

 その結果、運動を行ったグループはテストの回答に要した時間(反応時間)が短く、認知機能が高まっていることが確認された。

 また、光トポグラフィーを用いた脳機能イメージングの検査で、脳の活動部位の評価も行った。光トポグラフィーは、近赤外光を使用して前頭葉の血流量の変化パターンを可視化する検査法。脳の運動野や言語野などの高次機能の活動測定を行える。

 運動を行ったグループでは、左の「前頭前野背外側部」と左の「前頭極」の活動が高まっていることが確認された。この部位は、脳の高次機能において重要な役割を果たしていると考えられている。「10分間に低強度の運動を行うことが、課題遂行に必要な脳部位同士のネットワークを高め、脳の機能を向上させる上で効果的であることが確かめられた」と研究者は説明している。

 これまで、脳の機能を高めるためには中強度の運動(最大酸素摂取量の50%)が必要とされていたが、軽い運動(同30%)でも十分に効果があることが示された。「体力のない高齢者や疾患者などを対象とした、認知症予防目的の運動処方の開発が加速されることが期待される」と述べている。

運動と音楽の組み合わせで認知機能を維持・改善
 運動と音楽を組み合わせることで、運動のみを行ったときに比べより大きな効果を得られることが、三重大学などの研究で明らかになった。「音楽体操プログラム」には、認知機能の維持・改善の効果があるという。

 この研究は、三重大学大学院医学系研究科の佐藤正之准教授やヤマハ音楽振興会などによるもの。研究チームは、紀伊半島南端に位置する三重県御浜町・紀宝町で、住民を対象に実験を行った。

 研究チームは、65歳以上の健常高齢者を対象に、音楽と運動を組み合わせたエクササイズを行う群(音楽体操群)、運動のみを行う群(体操群)、脳検査のみを行う群(脳検査群)のグループに分け、1年間にわたってプログラムを実施した。

 世界的に広く使われている「ミニメンタルステート検査」で認知症の検査を行い、物体を三次元空間で把握する能力を示す「視空間認知」や、認知機能の指標となる「レーヴン色彩マトリックス検査」を行った。

 1年後、認知機能や視空間認知の検査では、音楽体操群で得点が高いことが判明した。「音楽が運動の効果を高める」、「音楽が認知課題として作用した」、「音楽が頭頂葉を刺激し視空間認知を高める」といった効果が考えられるという。

 音楽体操群では、「運動をしながら音楽を聞き、その曲のリズムやテンポを分析し、それと運動が合っているか否かを判断し、さらにその結果を自らの運動にフィードバックするという操作を、同時に行わなければならない。これはかなり複雑な認知課題となる。また、歌唱が有酸素運動になる」と、佐藤教授は説明している。

軽い運動でも認知機能は高まる(筑波大学 2004年5月27日)
適切な運動と音楽の組み合わせにより認知機能の維持・改善に効果(ヤマハ音楽振興会 2014年6月5日)

[Terahata]
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