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たばこ1本で寿命は14分短くなる 拡がる禁煙習慣 世界禁煙デー

 5月31日は世界保健機関(WHO)が定めた「世界禁煙デー」だった。日本人を対象とした研究で、若いうちに禁煙することで余命を10年延ばせることが分かった。健康寿命を延ばすには禁煙が一番だ。

 習慣的に喫煙している人の割合は年々減ってきているが、厚生労働省の2011年の調査によると、日本人の喫煙者は約2,100万人で、成人男性の32.4%、女性の9.7%が喫煙している。1960年代に男性で80%、女性で15%を超えていた頃に比べると、かなり低くなってきたが、それでも喫煙率は2割を超えている。
たばこは人類が生みだした最小の毒物の固まり
 たばこに含まれる有害物質は、タール、ニコチン、一酸化炭素だけではない。約60種類の発がん物質、約200種類の有害物質、約4,700種類の既知の化学物質も含まれている。

 たばこを吸うと、血管がぼろぼろになり、血液がどろどろになる。喫煙によって血管の壁が損傷を受けて、細胞の機能不全につながる。血液でも血栓ができやすくなり、酸素運搬能が低下する。

 たばこには交感神経を刺激して血糖を上昇させるだけでなく、体内のインスリンの働きを妨げる作用もなる。そのため2型糖尿病を発症しやすくなる。脳梗塞や心筋梗塞、腎臓病などの合併症のリスクも高まる。

 たばこは、がんのリスクも高める。煙の通り道(くち・のど・肺)はもちろん、唾液などに溶けて通る消化管(食道・胃)、血液中に移行して排出される経路(血液・肝臓・腎臓などの尿路)でもリスクが高くなる。

 喫煙は肺炎を含む急性の呼吸器疾患を引き起こす原因にもなる。成人において主要な呼吸器症状のすべて(せき・たん・ぜいぜい・息切れなど)を引き起こす。「肺の生活習慣病」といわれる慢性閉塞性肺疾患(COPD)の最大の原因はたばこだ。

たばこ1本で14.4分の命が削られる
 たばこがどれだけ寿命を縮めるかご存知だろうか。放射線影響研究所の坂田律氏らによる研究では、20歳までに喫煙を開始した人の余命は、喫煙しない人に比べ、男性で8年、女性で10年寿命が縮まることが分かった。この研究は医学誌「ブリティッシュ メディカル ジャーナル」に2012年に発表された。

 これをたばこ1本あたりに換算してみると、20歳前から1日に20本、50年間たばこを吸っていた人が、一生の間に吸うたばこの数は合計36万5,000本。10年寿命が縮まるとして、タバコ1本では14.4分寿命が縮まることになる。20本入りのたばこ1箱では、なんと4.8時間の命を削っていることになる。

 たばこの害は喫煙者だけでなく非喫煙者にも及ぼされる。非喫煙者の場合は、たばこの害が喫煙者の10分の1とすると、たばこ1本の受動喫煙で約1.4分寿命が縮まる計算になる。受動喫煙が原因で死亡する人の割合は、全死亡者の1割に上るという推計もある。
失敗しても諦めずに禁煙にチャレンジ
 健康寿命を延ばすには禁煙が一番だ。現在では環境が整備され、禁煙に取り組みやすくなっている。

 禁煙の実施には、「自力で行う」、「市販の禁煙補助薬を利用する」、「医療機関を受診する」などの方法がある。医療機関の禁煙外来などでは、市販品より高用量のニコチンパッチやのみ薬を使用したり、医師のアドバイスを受けて禁煙に取り組むことができる。医療機関を受診し、自分に合った禁煙補助薬を用いる方が禁煙に成功する可能性が高くなる。

 2006年に禁煙治療に健康保険が適用されるようになると、禁煙外来も広く社会に浸透した。また、2008年に飲み薬も使えるようになり、治療の選択肢も広がった。今では、禁煙外来を受診できる医療機関も全国で1万5,000ヵ所以上に拡大している。

 "たばこを吸いたい"という欲求のもとになっているのは、「ニコチン依存」だ。ニコチンは脳に作用して、快感や覚せい、気分の調整などにかかわる神経伝達物質の放出に影響を与える。イライラなどの離脱症状は、禁煙を始めて1週間ほどで治まってくる。

 禁煙の効果は、「息切れしにくくなる」、「食事がおいしくなる」、「肌の調子が良くなる」、「部屋がきれいになる」など数多い。禁煙の効果は1分後からあらわれ、8時間で運動能力が改善、24時間で心臓発作の発症率が下がるなど、継続時間が長くなるにつれてその効果が大きくなる。

 禁煙を「たばこから自由になること」と肯定的に捉え直し、失敗しても諦めずにチャレンジし続けることが大切だ。友人といっしょに禁煙を始めて励ましあったり、成功した人からアドバイスを受けるのも効果的だ。

たばこ税を上げれば禁煙率は低下
 今年の「世界禁煙デー」のテーマは「たばこにかかる税金を上げよう」だった。たばこの税金を上げることがなぜ重要なのかというと、たばこの値段を上げることで、喫煙率を下げられることが明らかだからだ。

 中高生を対象に禁煙の理由を尋ねた調査結果でも、「値段が高い」という回答が多かった。日本が批准している「たばこ規制枠組み条約(FCTC)」でも、価格政策は規制の柱として盛り込まれている。

 日本では、4月の消費税引き上げに伴い、たばこの値段も引き上げられた。代表的な銘柄は1箱(20本)が410円から430円になった。たばこには消費税のほかに、国・地方のたばこ税、国のたばこ特別税がかかっており、430円のうち64%が税金だ。

 こうみると、現在でも税金が多くかかっているようにみえるかもしれないが、他の先進国では税金が70~80%以上の国も珍しくない。価格も国によっては1,000円以上する場合もある。そう考えると、日本のたばこの値段は決して高いとはいえない。

受動喫煙の防止への社会的関心が高まる
 前にも述べたとおり、たばこを吸わない人にとっても、受動喫煙としてたばこの害が及んでいく。そのため非喫煙者をたばこの煙から守る対策が必要になる。

 2003年に厚生労働省が発表した「職場における喫煙対策のためのガイドライン」でも、全面禁煙が不可能で、空間分煙とする場合の設備としては、非喫煙場所に煙が漏れない"喫煙室"が推奨されている。さらに空気清浄装置はたばこの煙の成分を除去できないので、煙が拡散する前に吸引して屋外へ排出する方式が勧められている。

 受動喫煙の対策に取り組んでいる国内の企業は80%余りに上り、会社の経営に与える影響について考える企業は増えてきている。2020年にオリンピックが開かれる東京都で受動喫煙防止条例を制定することに約6割が「賛成」とするインターネット調査の結果も発表されている。

 受動喫煙防止条例は、神奈川県と兵庫県で制定されている。東京都ではいまのところ条例制定の動きはないが、今後は受動喫煙防止の流れが強化されそうだ。

禁煙治療に保険が使える医療機関情報(最新版)(日本禁煙学会)
Impact of smoking on mortality and life expectancy in Japanese smokers: a prospective cohort study(ブリティッシュ メディカル ジャーナル 2012年10月25日)
たばこと健康に関する情報ページ(厚生労働省)

[Terahata]
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