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乳がんの新しい治療薬を開発 世界初の「核酸医薬」の臨床治験を開始
2015年07月08日
がんの増殖や転移にかかわる遺伝子の働きを抑える「核酸医薬」を使った乳がんの臨床治験を、国立がん研究センターなどがはじめたと発表した。核酸医薬は、抗がん剤や放射線治療などに続く新たながんの治療法として注目されている
がん細胞の遺伝子を狙い撃ちして壊す薬剤の開発に着手
がん細胞は特有のタンパク質や遺伝子を作りだしており、それを壊せばがんを抑制できると考えられている。がんの遺伝子は特異性が高く、狙った遺伝子だけを壊すことができることが、最近の研究で分かってきた。
一方、乳がんは日本人女性のがん罹患の中でももっとも多いがんであり、今後さらに増えていくと予測されている。転移や再発を起こした乳がんに対しては、病気の進行を抑えることを目的としてホルモン療法や、抗がん剤などの薬物療法が用いられている。
乳がんの局所腫瘤は、疼痛・出血・悪臭・浸出液などを伴い、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させるおれそがある。また、抗がん剤などの治療に反応しない「治療抵抗性」であることも多く、新たな治療法が求められている。
そこで国立がん研究センターなど研究チームは、がん細胞が作り出す遺伝子のうち、特定のものを狙い撃ちして壊すことができるリボ核酸(RNA)をみつける技術を開発し、それを核酸医薬に利用しようという研究をはじめた。
そして、抗がん剤を細胞外に排出し、治療抵抗性に関与しているとされる「RPN2遺伝子」を発見した。
乳がん細胞などでRPN2遺伝子が強く働くと、乳がん細胞は抗がん剤を細胞外に排出する。また、がん細胞を生み出すもとになる細胞で治療抵抗性に関わるとされるがん幹細胞の制御に関わっていることも分かった。
RPN2遺伝子は正常組織ではほとんど発現しないことから、RPN2遺伝子を標的とした核酸医薬を開発すれば、新たながん治療法になる可能性がある。
課題を克服 乳がん細胞の遺伝子を抑える核酸医薬製剤の開発に成功
核酸医薬には、低分子化合物などと比べて毒性や副作用が少ないというメリットもある。しかしこれまで、必要な量をがん部位に到達させられないといった課題があった。
この課題に対し、研究チームは国内ベンチャーであるスリー・ディー・マトリックスと連携し、RPN2遺伝子の発現を抑えるように人工的に合成したRNA「siRNA」を標的細胞に取り込まれやすくした核酸医薬製剤「TDM-812」を開発するのに成功した。
TDM-812の安全性は、動物実験でを確認されている。乳がんを発症したイヌに対する非臨床試験では、約2ヵ月でがん細胞が小さくなるという効果を確認できたという。
研究チームは、世界初の核酸医薬による乳がん治療薬の承認を目指し、TDM-812の臨床試験を開始した。医師が主導する第1相治験で30例ほど実施して安全性を調べ、企業による治験に移行して実用化を目指している。
国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科の田村研治科長によると、「順調にいけば、3~4年後に実用化できる可能性がある」という。
乳がんは発育速度が早く、別の場所に転移しやすいため、手術が困難な例が少なくない。同薬が実用化された場合、患者にとっては手術に代わる新たな治療法の選択ができるようになる可能性がある。
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