運動やスポーツを変える「スローカロリー」 質の良い糖質をゆっくり吸収
「スローカロリー」は、従来のように糖質が健康に与える影響を、カロリーの「量」のみをみるのではなく、「質」にも着目しようという考え方を示す。具体的には、小腸における糖質の消化・吸収速度をゆっくりにする食事を心がけることを指す。(*1)
スローカロリーによるダイエットは、新たな健康的な食事として注目されている。糖質の消化・吸収速度がゆっくりになると、満腹感を得やすく、腹持ちが良くなるので、食べ過ぎを防ぎ、肥満防止につながる。
スローカロリーと身体活動

勝川史憲 氏(慶応義塾大学スポーツ医学研究センター教授)
スローカロリーを実践するときに、役立つが「グリセミック指数」(GI)という概念だ。グリセミック指数(GI)は、ブドウ糖を摂取した後の血糖上昇率を100として、それを基準に、同量摂取したときの食品ごとの血糖上昇率をパーセントで表した数値。GI値が高いほど食後の血糖値を上げやすく、低いほど上げにくくなる。
GIは食品の主に食物繊維の含有比率、調理や加工方法、組合せ、咀嚼回数などで変わる。ごはんやパンでは、精白されたものよりも全粒穀物が入っていた方が、GI値が低くなり吸収が遅くなる。たとえば加工度の低い全粒穀物は食物繊維が豊富で、通常の精製された小麦粉や米に比べGI値が低くなる。 主食となるご飯、パン、麺類では、精製度の低い全粒穀物が食物繊維が豊富で、GI値が低くなる。ご飯であれば白米よりも胚芽米や玄米、雑穀米。パンであれば精白した小麦粉を使用したものではなく全粒粉パンを選ぶと、食後の血糖値の上昇を抑えやすいことが知られている。 また、GIに1食当たりの炭水化物の量をかけたGL(グリセミックロード)という指標は、基準となるブドウ糖に比べ、どの程度血糖値が上がりやすいかを示す目安になる。 勝川氏は、米国のタフツ-ニューイングランド医療センターが2005年に医学誌「Diabetes Care」に発表した研究を紹介した。試験に参加した24?42歳でBMI(体格指数)が25以上30未満の成人32人を、食事の摂取カロリーを30%減らした上で、低GLの食品を摂取するグループと、高GLの食品を摂取するグループに分け、6ヵ月間に体重の変化を調べた。 その結果、低GLの食事を摂取したグループでは体重がより減少しており、平均で約10kg減少した。低GLの食事によりインスリンの効き方も改善することが確かめられた。(*2) さらに、アラバマ大学の研究チームが行った研究では、平均年齢35歳の肥満の男女69人を、低GLの食事を摂取するグループと、高GLの食事を摂取するグループに分け、8週間後の体脂肪分布の変化を調べた。低GLの食事を摂取したグループでは、内臓脂肪が11%減少し、総脂肪量も4.4%減少した。高GLの食事を摂取したグループでは総脂肪量は増えていた。(*3) 「生活習慣病予備群の人は運動を習慣として行うことをお勧めします。それに加えて、GI値の低い食品が、食後の血糖上昇を抑制することで、心血管病リスクを低減し、内臓脂肪の減少などの効果をもたらすことが期待されます」と、勝川氏は言う。
一般的に、運動中にはグリコーゲンが分解されて糖になり、糖がエネルギーの源として使われる。アスリートにとっては、運動時に糖を適切に摂取することが重要になる。
グリコーゲンの枯渇を抑えるために、運動の1時間くらい前に食品を摂取するときは注意が必要だ。GI値が高い食品は、一気に血糖値を上昇させるため、血液中の糖の処理に多量にインスリンが分泌されたり、血液中の脂肪酸を中性脂肪として体内に貯蔵させるという現象が起こる。 逆にGI値が低いパラチノースを使用した食品では、糖がおだやかに取り込まれ、血糖値の上昇もゆるやかになる。パラチノースは食事直後?1時間のインスリン分泌が砂糖に比べ少ないので、上記のような現象が起こりにくく、運動直前のエネルギー補給に有利だ。 また、アスリートが運動を開始した後は、エネルギー補給を頻回にできるとは限らないので、そうした場面でもパラチノースのようにゆっくり持続的に糖が供給されるエネルギー源は有用性があるという。 「運動後の筋グリコーゲンの再合成には高GIの食品、運動前の糖質摂取でグリコーゲンの減少を抑えるには低GIの食品が有利とする研究成績が多いが、明らかにしなければならない課題も多い」と、勝川氏は指摘している。スポーツ栄養の観点からみるスローカロリーの活用について

鈴木志保子氏(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授)
アスリートにとって、運動時のパフォーマンスを向上するために栄養管理が重要となる。カロリー、炭水化物、タンパク質、脂質をバランス良く摂り、ビタミン、ミネラル、水分を適切に補給することが、体を理想的に機能させるために欠かせない。
減量時に筋肉を維持するには、タンパク質の補給と運動が大切だが、糖質(炭水化物)の影響も大きい。運動時のエネルギー源となるのは糖質だ。糖質をカットし過ぎるとエネルギー不足で力が出ず、疲れが抜けず、十分なトレーニングができなくなるおそれがある。糖質は脳の主要なエネルギー源にもなる。 ただし、糖質なら何を食べても良いということではない。糖質の過剰摂取は血糖値の上昇につながるので注意が必要だ。血糖値の上昇や低下を起こさずに、体を最高の状態で機能させるには、適切な糖質の摂取が必要となる。全粒穀物や果物、野菜などは、糖質のみではなくビタミン、ミネラル、食物繊維なども含まれており、食生活に取り入れたい食品だ。 「グリセミック指数が低い食品を活用することが大切です。全粒穀物、雑穀、豆類、ナッツ類、野菜、フルーツなどを含んだ食事が勧められます。糖質は体内でグリコーゲンとして保管され、その量が運動時のスタミナと持久力に影響します。筋肉に貯蓄されているグリコーゲンがなくなると、疲労感を感じやすくなり、パフォーマンスが低下します。さらには糖新生により筋肉が失われる原因になります」と、鈴木氏は言う。 余分に摂取された糖質は体脂肪に変えられ体にたまってしまうので、食品の量と質に注意することが必要だ。スポーツをしている人の食事としては、グリセミック指数が低いパラチノースのような甘味料を選ぶと理想的だという。 「食事の内容に食材をちょっと工夫することでスローカロリーを実践できます。ただしスローカロリーでも、運動やスポーツの場合は食物繊維が豊富な食品では、早く満腹になってしまい、必要なエネルギー量が摂取できなくなるので良くありません。パラチノースのような糖を補給すると効果です」と、鈴木氏は指摘している。トークセッション

シエカ(Shieca)氏(フィットネス ライフ コーディネーター)
フィットネス ライフ コーディネーターのShieca(シエカ)氏は、運動不足から起こる体型の崩れや体力低下などの悩みを解決するめたにスポーツジムに入会し、本格的な筋力トレーニングを開始した。その後、ミス・ボディフィットネス選手権大会に挑戦し、オールジャパンの準優勝を勝ち取り、日韓親善コンテスト日本代表や東アジア選手権代表にも選出された。
「年齢とともに体を動かさなくなる人は多いのですが、運動経験が豊富ではない人であっても、筋力トレーニングに取り組むことは可能です。適切な知識をもって運動すれば、大きな成果を得ることができます」と、シエカ氏はいう。 「バランスの良い食事をとり、ストレッチやウォーキングなどの適度に体を動かす運動を習慣化し、適度な休養をとることで、生活の質が上がります。食事には特に注意が必要です」と、指摘している。 「食事については、まずは今の状況を知ることが大切です。日記でも写真でも良いので現状を知ることから始め、その上で何が必要かを見極めることで、自分の体質を理解することができます」と、シエカ氏はアドバイスしている。糖質摂取の意義と体内メカニズム

「糖尿病患者さんはもちろん、成長期の子どもや妊婦さん、高齢者、持久力や瞬発力を必要とするスポーツ選手など、それぞれの生活環境の中で、年齢や体調、趣向に合わせて必要なエネルギー量、栄養バランスを維持しながら、糖質を上手に摂取することが必要です」と、宮坂氏は言う。
「スローカロリー研究会は、スローカロリーの知識を普及することを目的に、2014年に設立されました。今後もスローカロリーの有用性について調査・研究を進め、健康づくりのための食生活を指導する医療・保健指導従事者と一般生活者に向け、発信を発信していきます」としている。


ベースボール・マガジン社. 2015年6月24日発行
(*2) A low-glycemic load diet facilitates greater weight loss in overweight adults with high insulin secretion but not in overweight adults with low insulin secretion in the CALERIE Trial
Diabetes Care. 2005 Dec;28(12):2939-41.
(*3) Effects of diet macronutrient composition on body composition and fat distribution during weight maintenance and weight loss
Obesity. 2013 Jun; 21(6): 1139-1142.

「健診・検診」に関するニュース
- 2022年10月25日
- 【特定健診】健診結果から糖尿病リスクを予測するAIを開発 スマホアプリに搭載し生活改善を促す 大阪大学
- 2022年10月24日
- 「フレイル」をわずか5つの質問で簡便に判定 フレイル予備群も分かる 保健指導でも活用
- 2022年10月11日
- 高齢者の半数以上は「フレイルが心配」 フレイル健診を受診したのは23%と少数 データを活用した「対策モデル事業」も
- 2022年10月03日
- 【がん検診】胃カメラ検査は本当に効果がある? 胃内視鏡検査はX線検査よりも効果が高いことを確認
- 2022年09月27日
-
有害業務に伴う歯科健康診断の報告
―10月1日から規模にかかわらず、すべての事業場に義務化 - 2022年09月21日
-
がん検診受診率の目標を60%へ
職域のがん検診受診「個人単位」での把握検討を―「がん検診のあり方検討会」より - 2022年07月26日
- 2021年度版「健診・検診/保健指導実施機関」状況報告 10年間の推移についてまとめ
- 2022年07月11日
- 動脈硬化学会が「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」を発表 特定健診・保健指導にも影響
- 2022年06月10日
-
【レポート】日本保健師活動研究会「20周年記念シンポジウム」
保健師の実践活動から、強みと意義を考える - 2022年05月23日
- 【新型コロナ】保健師がコロナ禍の拡大を食い止めている 保健師の活動が活発な地域では罹患率は減少
最新ニュース
- 2023年01月25日
- 労働政策審議会安全衛生分科会「第14次労災防止計画案」提示 2種類の指標(数値目標)を設定
- 2023年01月24日
- 漬物やキムチなどの「発酵食品」が肥満やメタボを抑制 腸内菌の有益な働きを解明
- 2023年01月23日
- 【新型コロナ】感染に対する偏見が心理的負担をもたらす 働いている人の健康と生産性に障害が
- 2023年01月23日
- 【新型コロナ】感染約1年後も半数以上に後遺症が 倦怠感や味覚・嗅覚の異常、睡眠障害など
- 2023年01月23日
- 「受動喫煙」の悪影響は子供や孫の代にまで引き継がれる 危険なのはタバコの煙だけではない