ニュース
魚を食べると体脂肪が燃焼するメカニズムを解明 EPAとDHAの効果
2015年12月18日

魚油を多くとると、太りにくくなる――。EPAやDHAを含む魚油の摂取が、脂肪燃焼細胞である「褐色脂肪細胞」の増加を促し、体脂肪の減少や体温上昇をもたらすことを、京都大学の研究チームが突き止めた。
なぜ日本型の食生活は健康的なのか
肥満は世界中で増加しており、過体重と肥満の人の数は2013年時点で21億人に達しているという。肥満は、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、メタボリックシンドロームの原因になる。肥満を予防・改善する効果的な方法が求められている。
健康に良く長寿社会に貢献しているとされている日本の食事スタイルの特徴は、魚介類を多く摂取することだ。
魚油に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)は、動脈硬化を予防したり中性脂肪値を改善するなど、さまざまな生理作用があることが知られている。
これに加えて、魚油(DHA、EPA)が体脂肪の消費を促進し、痩せやすい体をつくるのに欠かせないことを、京都大学の研究グループが実験で突き止めた。
魚油が脂肪を分解する「ベージュ細胞」を増やす
研究グループは、魚油がエネルギー代謝に及ぼす影響を、肥満マウスを使った実験で調べた。
ヒトの体には、脂肪を貯めこむ「白色脂肪」(WAT)と、脂肪を分解し熱を産生する「褐色脂肪」(BAT)がある。
最近の研究では、「白色脂肪」が褐色化を起こし、「褐色脂肪」のような機能のある第3の脂肪である「ベージュ細胞」に変化することが分かってきた。ベージュ細胞の減少や退縮が中年太りの原因であり、逆に発現を誘導したり活性化すると肥満を改善できると考えられている。
「褐色脂肪」には、エネルギーを作り出す細胞器官であるミトコンドリアが多くあり、この器官に含まれる「UCP1」と呼ばれるタンパク質が熱を産生している。「ベージュ細胞」を増やし肥満を改善するために、UCP1の発現を高めると効果的だ。
研究グループがマウスに高脂肪食あるいは魚油添加食を103週間与えたところ、魚油添加食を与えたマウスでは高脂肪食を与えたマウスに比べ、酸素消費量が増え体重が5~10%減少し、体脂肪の蓄積が15~25%減少するという結果になった。
詳しく調べると、魚油を摂取したマウスの「ベージュ細胞」では、UCP1を発生させる受容体が増え、UCP1の発現量が4倍に増えていることが分かった。
魚を食べてエネルギー代謝を向上、メタボを改善
研究グループは、褐色脂肪の交感神経の活動を促すとUCP1の発現を増やせることに着目。魚油を摂取すると、脂肪組織で神経伝達物質のノルアドレナリンが放出され、交感神経が活性化することを突き止めた。
次に、この反応を引き起こす成分として、UCP1を誘導する作用をもつトウガラシの辛味成分「カプサイシン」の受容体として知られている「TRPV1」に着目。TRPV1が欠損したマウスに魚油を与えても、交感神経の活性化が起こらないことを確かめた。
これらの結果から、魚油によるエネルギー代謝の向上は、胃や小腸に分布するTRPV1を介した交感神経の活性化と、それにより引き起こされる「褐色脂肪」、特に「ベージュ細胞」の発現促進によってもたらされることを確かめた。
研究は、京都大学農学研究科の河田照雄教授、金珉智教務補佐員、後藤剛准教授、自然科学研究機構生理学研究所・総合研究大学院大学の富永真琴教授、内田邦敏助教らの研究グループによるもので、科学誌「Scientific Reports」オンライン版に発表された。
「日本型の食生活は、魚介類を豊富に含む食材を多用することが特徴のひとつ。今回の研究で魚を食べると体に良いことが、代謝のメカニズムから明らかになった。健康に良い日本型の食生活を促進し、魚介類の消費を拡大することが、メタボリックシンドロームの改善と健康寿命の延伸につながる可能性がある」と研究者は述べている。


Fish oil intake induces UCP1 upregulation in brown and white adipose tissue via the sympathetic nervous system(Scientific Reports 2015年12月17日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2025 SOSHINSHA All Rights Reserved.


「健診・検診」に関するニュース
- 2025年08月21日
- 歯の本数が働き世代の栄養摂取に影響 広島大学が新知見を報告
- 2025年07月07日
- 子供や若者の生活習慣行動とウェルビーイングの関連を調査 小学校の独自の取り組みを通じた共同研究を開始 立教大学と東京都昭島市
- 2025年06月27日
-
2023年度 特定健診の実施率は59.9%、保健指導は27.6%
過去最高を更新するが、目標値と依然大きく乖離【厚労省調査】 - 2025年06月17日
-
【厚労省】職域がん検診も市町村が一体管理へ
対策型検診の新項目はモデル事業で導入判断 - 2025年06月02日
- 肺がん検診ガイドライン19年ぶり改訂 重喫煙者に年1回の低線量CTを推奨【国立がん研究センター】
- 2025年05月20日
-
【調査報告】国民健康保険の保健事業を見直すロジックモデルを構築
―特定健診・特定保健指導を起点にアウトカムを可視化 - 2025年05月16日
- 高齢者がスマホなどのデジタル技術を利用すると認知症予防に 高齢者がネットを使うと健診の受診率も改善
- 2025年05月16日
- 【高血圧の日】運輸業はとく高血圧や肥満が多い 健康増進を推進し検査値が改善 二次健診者数も減少
- 2025年05月12日
- メタボとロコモの深い関係を3万人超の健診データで解明 運動機能の低下は50代から進行 メタボとロコモの同時健診が必要
- 2025年05月01日
- ホルモン分泌は年齢とともに変化 バランスが乱れると不調や病気が 肥満を引き起こすホルモンも【ホルモンを健康にする10の方法】