ニュース

血圧をどこまで下げると効果的? 正常血圧の人でも降圧でリスク低下

 高血圧の治療ガイドラインを改訂し目標となる血圧値を下げれば、「数百万人の高血圧患者の命を救える」と専門家が指摘している。血圧が130mmHg以下の「正常血圧」の人でも、血圧を下げることで心臓病のリスクが低下するという。
最高血圧を10mmHg下げると心血管病や脳卒中のリスクが低下
 心臓発作や心不全を起こすリスクのある人々に、たとえ現在の血圧が正常値であるとしても、血圧降下約を投与することで数百万人の命を救える可能性があると、オックスフォード大学などの研究者が発表した。

 世界の高血圧の有病者数はおよそ10億人。高血圧は心筋梗塞などの心血管病や脳卒中などの危険因子なり、毎年940万人が死亡している。高血圧の治療では、血圧を下げると便益を得られることは確立しているが、どれだけ血圧を下げれば良いのかについてはさまざまな議論がある。

 心臓が収縮し動脈に血液を送りだす「心臓収縮期」の血圧を最高血圧、心臓が拡張し血液を再び吸い込む「心臓拡張期」の血圧を最低血圧という。

 欧州高血圧学会などは2007年に高血圧の治療ガイドラインを改訂し、治療目標値を130mmHg(最高血圧)/85mmHg(最低血圧)から140mmHg/90mmHgに、高齢者では150mmHg/90mmHgに引き上げた。降圧目標は個々の患者に合わせて設定するよう推奨している。

 「現在のガイドラインでは多くの高血圧患者を救えない。高血圧の治療ガイドラインを緊急に見直す必要がある」と、英国のオックスフォード大学のカーゼム ラヒミ教授は言う。

 ラヒミ教授らの国際研究グループは、1966~2015年に発表された高血圧に関する123件の臨床研究を解析した。研究は60万人以上の患者を対象に、20年以上にわたり続けられた。

 その結果、最高血圧を10mmHg下げると、心血管イベントのリスクが20%、冠状動脈疾患のリスクが17%、心不全のリスクが38%、脳卒中のリスクが27%、全死因による死亡が13%、それぞれ減少することが明らかになった。
「正常値」でも血圧値を下げると心臓病のリスクが低下
 糖尿病や腎臓病、心臓病などを合併している患者では、高圧治療のもたらす便益は明らかだが、興味深いことに、最高血圧が130mmHg以下の「正常血圧」の人でも血圧を下げることで心臓病のリスクが低下することが明らかになった。

 「われわれの研究結果から、血圧コントロールの目標を現在推奨されている値よりも低い値にすることで、心血管疾患の発症を大きく減らせる可能性があることが明らかになった。コントロール目標をより厳しくすることで数百人の命を救える可能性がある」と、ラヒミ教授は指摘している。

 高血圧の治療薬は5種類があり、いずれも効果的だが、カルシウム拮抗薬は脳卒中のリスクを下げ、利尿剤は心臓障害のリスクを下げる効果が特に高く、β遮断薬は心血管疾患、脳卒中、腎臓病のリスクを下げる効果が比較的低いことが示された。

 「重要なことは、高圧治療によるリスクの減少は、さまざまな高リスク患者でほぼ共通してみられたことだ。降圧薬による治療は進歩している。最高血圧の目標を130mmHg未満にすることで心臓病や脳卒中のリスクを低下できることは明らかだ」と、ラヒミ教授は言う。
最高血圧を120mmHg未満に下げると心血管病が3分1減少
 降圧目標をより厳しくすることで心血管疾患のリスクを低下できることは、米国立衛生研究所(NIH)が実施している「収縮期血圧介入試験」(SPRINT研究)の予備解析でも示されている。

 SPRINT研究は心血管系のリスクが高い50歳以上の高血圧患者9,361人が参加して行われている試験。最高血圧の目標を120mmHg未満とした群と140mmHg未満とした群で、心血管疾患の発症などへの影響を比較した。

 その結果、120mmHg未満群の方が140mmHg未満群と比較して、心血管病の発症がほぼ3分1減少、死亡がほぼ4分の1減少するという結果になった。これを受けて試験は2018年12月まで続けられる予定だったが途中で終了した。
かかりつけ医に相談しながら高血圧を積極的に治療することが重要
 日本の治療ガイドラインでは、高血圧の降圧目標は最高血圧が140mmHg未満、最低血圧は90mmHg未満とされている。糖尿病や蛋白尿を伴う慢性腎臓病の人では目標130/80mmHg未満、75歳以上の高齢者では150/90mmHg未満(可能であれば140/90mmHg未満を目指す)となっており、高血圧の降圧目標は患者によって異なる。

 SPRINT研究の発表を受けて、日本高血圧学会は「この試験は、糖尿病合併者や脳卒中既往者を除いた50歳以上の高血圧患者に対して、120mmHg未満を目指すことの妥当性を示しているが、より厳格に降圧する際には、脳・心・腎への有害事象(低血圧、失神、電解質異常、急性腎障害など)について十分に注意する必要がある」と見解を発表。

 日本糖尿病協会は「予備解析の結果が出た段階で、十分な解析は行われていない。正式な結果発表を待つ必要がある」と説明。あくまでかかりつけ医に相談しながら、現行のガイドラインにもとづく積極的な高血圧治療が重要と述べている。

Changing blood pressure-lowering guidelines 'could save millions of lives', say experts(オックスフォード大学 2015年12月24日)
Changing blood pressure-lowering guidelines 'could save millions of lives'(ジョージ グローバルヘルス研究所 2015年12月24日)
Blood pressure lowering for prevention of cardiovascular disease and death: a systematic review and meta-analysis(Lancet 2015年12月23日)
SPRINTの結果発表を受けて:厳格な降圧治療の有用性と有害事象への注意(日本高血圧学会 2015年11月13日)
[Terahata]
side_メルマガバナー

「健診・検診」に関するニュース

2025年08月21日
歯の本数が働き世代の栄養摂取に影響 広島大学が新知見を報告
2025年07月07日
子供や若者の生活習慣行動とウェルビーイングの関連を調査 小学校の独自の取り組みを通じた共同研究を開始 立教大学と東京都昭島市
2025年06月27日
2023年度 特定健診の実施率は59.9%、保健指導は27.6%
過去最高を更新するが、目標値と依然大きく乖離【厚労省調査】
2025年06月17日
【厚労省】職域がん検診も市町村が一体管理へ
対策型検診の新項目はモデル事業で導入判断
2025年06月02日
肺がん検診ガイドライン19年ぶり改訂 重喫煙者に年1回の低線量CTを推奨【国立がん研究センター】
2025年05月20日
【調査報告】国民健康保険の保健事業を見直すロジックモデルを構築
―特定健診・特定保健指導を起点にアウトカムを可視化
2025年05月16日
高齢者がスマホなどのデジタル技術を利用すると認知症予防に 高齢者がネットを使うと健診の受診率も改善
2025年05月16日
【高血圧の日】運輸業はとく高血圧や肥満が多い 健康増進を推進し検査値が改善 二次健診者数も減少
2025年05月12日
メタボとロコモの深い関係を3万人超の健診データで解明 運動機能の低下は50代から進行 メタボとロコモの同時健診が必要
2025年05月01日
ホルモン分泌は年齢とともに変化 バランスが乱れると不調や病気が 肥満を引き起こすホルモンも【ホルモンを健康にする10の方法】
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,800名)
登録者の内訳(職種)
  • 医 師 3%
  • 保健師 47%
  • 看護師 11%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 20%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶