ニュース

糖尿病治療薬が寿命を延ばす? アンチエイジング効果を確かめる試験

 糖尿病の治療薬として広く利用されている「メトホルミン」に、アンチエイジング(抗加齢)の効果がある――メトホルミンを使い高齢者の寿命を延ばそうという臨床試験が、世界ではじめて米国で今年から行われることになった。
メトホルミンは安価で効果的な薬
 メトホルミンは1950年代から糖尿病の治療に使われており、60年以上の使用実績のある薬だ。米国では米食品医薬品局(FDA)が1990年代に認可し、現在では糖尿病治療の第一選択薬となっている。

 メトホルミンは日本でも糖尿病治療薬として広く使われている。1錠250mgの薬価は10円未満と安価だ。有効性があり価格も安いので、糖尿病患者の経済的負担を少なくするメリットがある。

 「メトホルミンの治療効果についてはすでに多くの研究報告があり、糖尿病予備群の糖尿病発症を抑えることも知られています」と、米国のアルバート アインシュタイン医科大学のニール バルジライ教授(内分泌学)は言う。

 バルジライ教授らの研究チームが今年開始する「メトホルミンによる加齢抑制」(TAME)研究は米国の15ヵ所の医療機関で行われる。70~80歳の高齢者3,000人を対象に、メトホルミンを服用する群と服用しない群に分け、5~7年追跡して調査する。寿命、心筋梗塞などの心疾患、がん、認知症などの発症にどれだけ差が出るかを調べるという。
メトホルミンが寿命を延ばすという研究報告
 「メトホルミンに寿命と健康でいられる期間を示す健康寿命が延ばすアンチエイジングの効果があると期待しています。糖尿病患者だけでなく健常者でも、抗加齢の効果があるのではないかと考えられます」と、バルジライ教授は言う。

 英国で行われた大規模研究「UKPDS」では、メトホルミンは他の治療薬と比べ、2型糖尿病患者の動脈硬化を抑制し、心血管疾患の発症リスクを減少させることが確かめられた。

 米国立老化研究所の研究では、メトホルミンを投与したマウスはそうでないマウスに比べ、寿命が5%延びることが明らかになっている。メトホルミンを投与したマウスは摂取カロリーが減り、コレステロール値が下がり、腎臓病やがんの発症が減っていた。

 また、バルジライ教授らの研究チームが、約7万8,000人の糖尿病患者と約7万8,000人の糖尿病ではない人を対象とした大規模研究では、メトホルミンによる治療を受けている糖尿病患者は長生きすることが示された。メトホルミンを投与された70歳代の糖尿病患者は、糖尿病でない人に比べ死亡率が15%減少した。

 メトホルミンにがん予防の効果があるという研究も多数報告されている。糖尿病患者はがんの発症リスクが高いことが知られている。インスリンおよびインスリン様成長因子が一部のがんを促進し、また2型糖尿病患者は診断される前に血液中のインスリンレベルが高い状態が何年も続いていることが多いからだ。

 メトホルミンはインスリン産生量を増大させないため、がんの成長を抑える可能性がある。また、がん抑制遺伝子を活性化する作用があり、血管にダメージを与える活性酸素が増えるのを防ぐ抗酸化作用もあると考えられている。
インスリン抵抗性と血糖コントロールを改善
 メトホルミンの特徴は、インスリン分泌促進作用はないが、それ以外の幅広い膵外作用を併せもつ薬剤という点だ。メトホルミンは糖新生の抑制、筋肉など末梢での糖利用の促進し、腸管からのグルコース吸収を抑制することで、血糖降下作用を示す。

 メトホルミンの作用機序がわかってきたのは最近のことで、AMPキナーゼという酵素を活性化させることが明らかになっている。この酵素は肝臓におけるブドウ糖を合成する糖新生を促し、中性脂肪やコレステロールを合成する経路に関係して、生命活動に必要なエネルギーを作り出すATPを増加させる作用をもつ。肝臓のAMPキナーゼが活性化されると、脂肪がエネルギー源として燃焼されるのが促される。

 メトホルミンは長い歴史をもつ治療薬だが、1970年代にビグアナイド薬であるフェンホルミンによる乳酸アシドーシスが報告され問題となった。乳酸アシドーシスは、さまざまな原因によって血中に乳酸が蓄積し、血液が著しく酸性に傾いた状態。

 メトホルミンが乳酸を増加させるが、乳酸は肝臓で代謝されるため、通常はバランスが保たれているが、乳酸代謝、肝障害、腎機能障害などがあると乳酸値のバランスが崩れ、乳酸アシドーシスが発現する危険性が高まる。日本ではメトホルミンの高齢者への投与は慎重を要するとされている。

 しかし1990年代になって、世界的にビグアナイド薬が見直され、メトホルミンを使った大規模臨床試験が欧米で実施された。メトホルミン服用者での乳酸アシドーシスの発生頻度は低いことが明らかになった。

 メトホルミンは、これまで広く使用されてきた経口糖尿病薬であるSU剤と比較して、体重増加が認められず、インスリン抵抗性を改善する効果があるなど、メリットが多い。多くの研究者は、使用実績が多く、さらに後発医薬品でも入手可能なために安価であることから、最善の選択肢のひとつだと結論している。

Dr. Nir Barzilai on the TAME Study(Alliance for Aging Research 2015年4月28日)
Study shows type 2 diabetics can live longer than people without the disease(カーディフ大学 2014年8月8日)
[Terahata]
side_メルマガバナー

「健診・検診」に関するニュース

2025年02月25日
【国際女性デー】妊娠に関連する健康リスク 産後の検査が不十分 乳がん検診も 女性の「機会損失」は深刻
2025年02月17日
働く中高年世代の全年齢でBMIが増加 日本でも肥満者は今後も増加 協会けんぽの815万人のデータを解析
2025年02月12日
肥満・メタボの割合が高いのは「建設業」 業態で健康状態に大きな差が
健保連「業態別にみた健康状態の調査分析」より
2025年02月10日
【Web講演会を公開】毎年2月は「全国生活習慣病予防月間」
2025年のテーマは「少酒~からだにやさしいお酒のたしなみ方」
2025年02月10日
[高血圧・肥満・喫煙・糖尿病]は日本人の寿命を縮める要因 4つがあると健康寿命が10年短縮
2025年01月23日
高齢者の要介護化リスクを簡単な3つの体力テストで予測 体力を維持・向上するための保健指導や支援で活用
2025年01月14日
特定健診を受けた人は高血圧と糖尿病のリスクが低い 健診を受けることは予防対策として重要 29万人超を調査
2025年01月06日
【申込受付中】保健事業に関わる専門職・関係者必携
保健指導・健康事業用「教材・備品カタログ2025年版」
2024年12月24日
「2025年版保健指導ノート」刊行
~保健師など保健衛生に関わる方必携の手帳です~
2024年12月17日
子宮頸がん検診で横浜市が自治体初の「HPV検査」導入
70歳以上の精密検査無料化など、来年1月からがん対策強化へ
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,000名)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 3%
  • 保健師 46%
  • 看護師 10%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 22%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶