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なぜ齢をとると血圧が高くなるのか 加齢高血圧のメカニズムを解明
2016年01月27日

生理学研究所と九州大学などの研究チームが、加齢高血圧リスクを高める受容体を特定したと発表した。齢をとると血圧が高くなるメカニズムの一端を解明し、加齢高血圧による心血管リスクの予防・治療法の開発にもつながる成果だ。
高血圧の原因は加齢に伴うさまざまなストレス
日本では高齢者の2人に1人が高血圧と診断されている。高血圧は脳卒中や心臓病などの要因であり、高血圧の予防と治療は重要な課題となっている。
血液の通り道である血管には弾力性があり、収縮と弛緩を繰り返すことで血管にかかる圧力(血圧)と血液の流れを調節している。しかし、加齢に伴うさまざまなストレスが要因となって血管が厚く硬く変化すると、弾力性が失われ慢性的に血圧が高い状態(高血圧)になる。
高血圧に深く関わるのは、血圧調節に関与する重要なホルモンである「アンジオテンシンII」だ。血圧が低下するとレニン-アンジオテンシン系を介してアンジオテンシンIIが産生され、血管を収縮させることで血圧を上昇させる。この働きは血管恒常性の維持に必要だが、高血圧を誘導するという負の一面もある。
なぜアンジオテンシンIIによって高血圧が起こるかというと、アンジオテンシンIIは血管中膜を肥厚させる性質をもっているからだ。血管中膜が肥厚すると血管の弾力性が失われ、結果として血管を流れる血液の流れが悪くなり、慢性的に血圧が上昇する。
この血管中膜の肥厚は、アンジオテンシンIIが細胞膜上にある受容体「AT1R」に作用することで血管平滑筋細胞を肥大させることによって起こる。

加齢高血圧リスクを高める受容体を特定 心血管病の新たな予防方法の開発へ
研究グループは、アンジオテンシンIIの応答性に関与する分子として「P2Y6R」と呼ばれる受容体に注目。通常のマウスとP2Y6Rをもたないマウスの双方にアンジオテンシンIIを4週間投与したところ、P2Y6Rを持たないマウスでは血圧上昇と血管中膜の肥厚が抑制されることを突き止めた。
さらに、細胞膜上でP2Y6RはAT1Rと複合体を形成していること、P2Y6Rと結合するMRS2578という化合物が、AT1RとP2Y6Rの複合体形成を阻害することを明らかにした。
アンジオテンシンIIとMRS2578を同時投与することで血圧上昇が抑制されたことから、AT1R-P2Y6R複合体がアンジオテンシンIIによる血圧上昇に重要であることが示されたといえる。
また、4週齢の成体マウスの血管平滑筋細胞では、アンジオテンシンIIが細胞の肥大を引き起こすが、胎児の血管平滑筋細胞では肥大ではなく、細胞の増殖が優位に起こることが知られている。
そこで今回、胎児と成体の血管平滑筋細胞においてP2Y6R遺伝子の発現量を調べたところ、P2Y6R遺伝子は成長するにつれてその量が増加することが判明した。成長に伴いAT1R-P2Y6R複合体が増加することで、アンジオテンシンIIの応答性が増殖から肥大応答に変化すると考えられる。
研究は、自然科学研究機構生理学研究所(岡崎統合バイオサイエンスセンター)の西村明幸特任助教、西田基宏教授、九州大学、香川大学などの共同研究チームによるもので、米国科学振興協会が発行する科学誌「Science Signaling」オンライン版に発表された。
西田教授は「加齢に伴うAT1R-P2Y6R複合体の増加が、高血圧リスク上昇の原因の一端を担っていることを明らかにした。今回の成果は、加齢に伴う高血圧の原因を解明するだけでなく、加齢高血圧による心血管リスクの予防・治療法の開発にもつながる」とコメントしている。

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