大気汚染が心配でウォーキングできない? 「心配はご無用、運動をしよう」

大気汚染が深刻なロンドンで、ウォーキングなどの運動による「健康上のメリット」は、「大気汚染によるリスク」を上回るという調査結果を英国のケンブリッジ大学が発表した。
PM2.5は、大気に浮遊する大きさ2.5μm以下の微粒子。工場などのばい煙や自動車の排ガスなどが主な発生源で、肺の奥まで入りやすいため喘息や気管支炎などの呼吸器疾患に影響を与えるとされている。
世界保健機関(WHO)は"清浄な大気"の基準を、PM2.5の24時間の平均量が1立方メートルあたり25μgと定めている。東京は先進国でも"清潔な都市"として知られるが、それでも中心部ではWHOの基準量を超える日がある。
WHOの調査によると、世界の大気汚染レベルは2008~2013年に8%悪化し、日本を含む西太平洋地域でも5%悪化した。大気汚染が原因で、世界的で年間に300万人以上が死亡しているという。
ロンドンでも大気汚染は深刻で、がんや心臓病、肥満、2型糖尿病、認知症などに悪影響をもたらしている。ロンドンでは大気汚染が原因で年間4万人の市民で健康被害が出ており、関連する医療費は年間200億ユーロ(約2.4兆円)に上ると推計されている。
ウォーキングは「アクティヴ トラヴェル」(体を使った空間移動)の最たるものだが、こうした運動は健康に良い影響をもたらす一方で、大気汚染にさらされるリスクがある。
ケンブリッジ大学の研究チームは、コンピューターを利用して、世界中のさまざまな場所を対象に、こうした運動と大気汚染のいろいろな組み合わせをシミュレーションした。
その結果、世界の大部分の都市で、通勤手段を改善し、ウォーキングなどの運動を増やすことで得られるメリットは、大気汚染による悪影響を上回ることが判明した。
ウォーキングを毎日30分行う場合をシミュレートしたところ、大気汚染により健康を損ねるおそれがあるという計算になったのは、大気汚染が極端にひどい1%の都市に限られた。
「大気汚染は世界中の都市で深刻な問題になっており、解決を先送りにしていいわけではありません。しかし、大気汚染を理由に運動を控えるとより大きな損失をまねくおそれがあります」と、英国食事・運動研究センターのジェームズ ウッドコック氏は言う。
途上国では大気汚染はさらに深刻な問題になっている。インドのニューデリーでは連日のPM2.5が300μgを超えている。インドの公衆衛生局の調査では、汚染が原因でぜんそくや肺がん、心臓疾患などで死亡する市民が年間1万~3万人に上ることが示された。
ニューデリーの大気の汚染度はロンドンの10倍だが、それでも1週間に5時間以上の運動をしなければ、汚染によるリスクが運動のメリットを上回ることはないという。
「乗用車を使わず、公共の交通機関を使い徒歩で通勤するのを奨励し、そのためにインフラを整備することが、交通量を減らし大気汚染の問題に解決につながる可能性があります」と、ウッドコック氏は指摘する。
生活習慣病の罹患歴や運動習慣などには個人差があるが、「通勤手段を改善し、歩く時間を増やすべきです。運動習慣がある人は大きな恩恵を得られます」と強調している。
Walking and cycling good for health even in cities with higher levels of air pollution(ケンブリッジ大学 2016年5月5日)
Can air pollution negate the health benefits of cycling and walking?(Preventive Medicine 2016年5月5日)


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