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グーグル、人工知能で網膜症を早期発見 医師不足に対策し失明を防止
2016年12月08日

グーグルの開発している人工知能のプロジェクトが、糖尿病患者の網膜の画像から網膜症を自動的に判定するのに成功した。「ディープラーニング」の技術を応用しており、このプログラムを使い、眼科医と同程度の精度で、自覚症状のない初期の段階の糖尿病網膜症を発見できることを確かめた。人工知能を糖尿病網膜症の早期発見の役立てようという世界初の試みだ。
糖尿病網膜症を早期発見する技術を開発
世界中で糖尿病網膜症が視力障害や失明の原因の上位を占めている。早期発見して治療をすれば失明を防げるが、治療が遅れたために多くの患者が失明という事態に陥り、生活の質(QOL)を大きく低下させている。
米国では糖尿病患者の糖尿病網膜症の有病率は29%に上る。米国の治療ガイドラインでは、網膜症のスクリーニング検査を、網膜症がない場合は年に1回以上、単純網膜症のある場合は6ヵ月に1回以上受けることを推奨している。原則として、眼科医が眼底写真を撮影し、検査を行い診断する。
しかし、糖尿病のかかりつけ医と眼科医の連携は進んでいるものの、医師の少ない地域では糖尿病患者が眼底検査を受けられる機会は少なく、糖尿病網膜症を診断できる眼科医も不足しているという課題がある。
そこでグーグルは、「ディープラーニング」の手法を応用し、コンピュータの画像処理により、初期の糖尿病網膜症を発見する技術の開発に乗り出した。実用化すれば、糖尿病専門医や眼科医が少ない地域でも、すぐに検査を行えるようになる可能性がある。
糖尿病網膜症の早期の診断・治療が可能に
ディープラーニングとは、システムがデータの特徴を学習して認識や分類を行う「人工知能」(AI)の手法。データの特徴をより深いレベルで学習し、特徴を高い精度で識別することが可能で、カメラで撮影した画像の認識などの応用が期待されている。
ディープラーニングのもととなる「ニューラルネットワーク」は、脳の神経回路をまねしてデータを分類するという考えにもとづき作られている。回路の中間部分を多層から構成することで、データの特徴を多くの段階でより深く学習できるようになるという。
グーグルの人工知能プロジェクト「ディープマインド」が開発した人工知能「AlphaGo」は昨年、囲碁のトッププロを破ったことで話題になった。グーグルは英国営保健サービス(NHS)と提携し、「糖尿病網膜症」と「加齢性黄斑変性症」という2つの疾患の検査の精度を上げる研究への応用に取り組んでいる。
患者の眼底画像をディープマインドの人工知能が解析し、2つの疾患を早期発見する仕組みが考えられている。従来の診療は複雑であり、眼科医にとって技術と時間の必要な作業だが、人工知能を使えば早期診断が可能になり、早期に治療を開始し失明を防げるようになる可能性がある。
人工知能を臨床に応用 98%の精度で糖尿病網膜症を判定
グーグルのリリー パン博士らの研究チームは、米国とインドの医師チームと協力し、糖尿病患者の網膜、視神経乳頭、黄斑などの画像を収集。12万8,175枚の網膜画像をもとに、ディープラーニングによる画像識別を行った。並行して米国の54人の眼科医が従来の手法で網膜症の判定を行った。
その結果、画像の約8%にあたる4,997人の患者の9,963の画像が単純性および増殖性の糖尿病網膜症であると判定された。眼科医による判定に比べ、97.5%という高い感度で、人工知能によるディープラーニングの判定が正確であることが確かめられた。

Study Examines Use of Deep Machine Learning for Detection of Diabetic Retinopathy(JAMA 2016年11月29日)
Detecting diabetic eye disease with machine learning(グーグル 2016年11月29日)
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