ニュース
便をみれば腸内環境が分かる 最新の腸内デザインで「病気ゼロ社会」に
2016年12月08日
腸内環境の乱れがさまざまの病気の発症に関わることが、最新の「メタボロゲノミクス」の技術で明らかになりつつある。便にはその人の健康状態を表す情報が隠されているという。腸内環境を改善するためのプロジェクトが開始された。
人の腸には100兆個の腸内細菌が生息している
人の体には多くの細菌が住みついていて、さまざまな作用をしている。体を構成する体細胞の数はおよそ37兆個なのに対し、大腸内に生息している腸内細菌の総数は100兆個にもなる。
「善玉菌」「悪玉菌」という言葉はよく知られているが、腸内環境についてはまだ分かっていないことも多い。次世代シーケンサーの登場などの影響を受け、腸内細菌全体のバランスやそこでつくられる物質に着目した研究が増えている。
「メタジェン」(山形県鶴岡市)は、慶応義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任准教授らが立ち上げた腸内細菌に関わるベンチャー企業だ。腸内環境から人の健康状態を科学的に評価する便解析システムなどを開発している。
メタジェンは、慶應義塾大学と東京工業大学とのジョイントベンチャーとして2015年に設立された。腸内細菌の最先端の研究で世界から注目されている。
「腸内エコシステム」が全身のコンディションに影響
腸管は体の「内なる外」とも呼ばれ、体内でありながら外環境にさらされている器官で、特に大腸は細菌の増殖に適した環境で、糞便1gあたりおよそ1,000億個の細菌が存在しているという。
腸内細菌は、人間の消化酵素だけでは消化できない成分を分解して栄養素を作ったり、免疫系を活性化したり、有益な働きをしている。
通常、腸内細菌叢はバランスを保っているが、ストレスや過労などの二次的な作用、あるいは暴飲暴食や抗生物質の摂取などさまざまな要因によって、「腸内フローラ」と呼ばれる腸内細菌の集団全体のバランスが崩れる。
腸内フローラは複雑な腸内微生物生態系、すなわち「腸内エコシステム」を形成している。腸内エコシステムはヒトの健康維持に重要で、バランスが崩れると大腸がんや炎症性腸疾患といった腸そのものの疾患に加えて、自己免疫疾患や代謝疾患といった全身性疾患にもつながることが知られている。
「最近の研究で腸内エコシステムが、生体恒常性維持の重要な役割を担っていることが次々と明らかになっています。腸内フローラは、その宿主である人間の腸だけでなく全身のコンディションに影響を与えており、私たちの体内のもうひとつの臓器とも捉えられます」と、メタジェンの代表の福田氏は言う。
便には健康状態を示す情報が眠っている
「腸内デザイン応援プロジェクト」を始動
メタジェンは、腸内細菌叢の遺伝子情報と腸内代謝物質情報を網羅的に統合解析する独自技術「メタボロゲノミクス」を開発した。
この技術をもとに、腸内環境改善による健康維持・セルフメディケーションを提案していく「腸内デザイン応援プロジェクト」を立ち上げた。
腸内細菌叢の遺伝子情報を解析するだけでは、人の体に与える影響を理解するのは難しいので、メタボロゲノミクス技術により、腸内細菌叢由来の代謝物質の情報も含めて統合解析することが、腸内環境評価による新たな健康維持・疾患予防技術の確立につながるという。
「食習慣の改善、適切なサプリメント開発や創薬など、腸内エコシステムをコントロールするのは可能だ。"腸内デザインによる病気ゼロ社会"の実現を目指したい」と、福田氏は言う。
同プロジェクトには、江崎グリコ、サン・クロレラ、サントリー、ダイセル、日本ユニシス、はくばく、ビオフェルミン製薬、平田牧場、マルヤナギ小倉屋、森下仁丹、森永乳業、ユーグレナ、ロート製薬、CPCC、UHA味覚糖が、「腸内デザイン応援企業」として参加している。
メタジェン腸内デザイン応援プロジェクト
慶應義塾大学先端生命科学研究所
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2024 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「健診・検診」に関するニュース
- 2023年08月09日
-
8020達成率は5割以上 若い世代の歯周病増、口腔ケアが課題に
厚労省「令和4年歯科疾患実態調査」より - 2023年08月08日
- 若い世代でも「脂肪肝疾患」が増加 やせていても体脂肪が蓄積 肥満とどう違う?
- 2023年07月28日
- 2022年度版「健診・保健指導施設リスト」状況を報告します【保健指導リソースガイド】
- 2023年07月24日
- 標準体重でも3分の1は実は「肥満」 BMIは健康状態をみる指標として不十分 やせていても安心できない
- 2023年07月11日
- 自治体健診で高齢者のフレイルを簡便に判定 「後期高齢者の質問票」でリスクが分かる 「フレイル関連12項目」とは?
- 2023年06月20日
- 肝臓学会が「奈良宣言2023」を発表 肥満・メタボの人は「脂肪肝」にもご注意 検査を受けることが大切
- 2023年06月12日
- 自治体健診で「心房細動」を早期発見 健康寿命と平均寿命の差を縮める 日本初の「健康寿命延伸事業」 大分県
- 2023年06月05日
- 要介護認定リスクと関連の深い健診6項目が明らかに 特定健診・後期高齢者健診のデータから判明 名古屋市
- 2023年05月19日
- 令和4年度「東京都がん予防・検診等実態調査」 受診者増加のための取組み率は健康保険組合で85%に上昇
- 2023年05月18日
-
さんぽセンター利用の5割以上「健診結果の措置に関する説明力が向上」
-『令和4年度産業保健活動総合支援事業アウトカム調査報告書』-