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「引きこもり」の脳内メカニズムを解明 社会復帰へ向けたアプローチ
2017年01月11日

社会から隔離された「引きこもり」の原因は、脳内の神経伝達が抑えられ、不安感が強まること――社会から隔離されることで起こる不安行動に、脳内のメカニズムが影響していることが、京都大学の研究で明らかになった。新たな抗不安薬の開発に応用できる可能性があるという。
「引きこもり」が長引くと社会復帰が難しくなる
さまざまな原因により就労や就学などの社会参加を回避し、長期間にわたり自宅に留まるいわゆる「引きこもり」の状態の人は、内閣府が2016年に実施した調査では日本国内に15〜39歳で54万1,000人に上ると推計されている。
いったん社会から隔絶すると不安がより増強され、社会復帰が困難になることが、長期化の原因のひとつと考えられている。引きこもりの約35%は期間が7年以上に及ぶという
研究は、京都大学大学院・医学研究科の成宮周教授と、長崎大学の出口雄一准教授らの研究チームによるもので、医学誌「Cell Reports」に発表された。
「長期化する引きこもり状態の解消は社会全体が解決すべき大きな問題であり、メカニズムを明らかにすることは神経科学に与えられた重要な課題です」と、成宮教授は言う。
研究チームは、メカニズムを解明するため、長期間隔離して育てたマウスを使い、不安を感じた際に起こる脳内のメカニズムを調べた。
研究チームは、ストレスを与えたマウスでは、快感や恐怖、嗜癖などの感情を引き起こす部位である「側座核」の活動が低下しており、神経伝達物質であるドーパミンを放出する中脳の「腹側被蓋野」で神経伝達が滞ることを突き止めた。
不安行動の原因は脳内神経の神経伝達の異常
「アクチン」は細胞に含まれるタンパク質のひとつで、単量体が数珠つなぎになって多量体をつくり、細胞内のシグナル伝達などに関わっている。この多量体が増えすぎると、細胞の運動は遅くなる。これを引き起こすタンパク質が「mDia」で、このタンパク質が増えると、脳の認知機能をつかさどる神経シナプスの伝達効率が低下する。
側座核からの神経伝達は、ドーパミンによる神経細胞の活性をコントロールしており、この神経伝達を回復したマウスでは、不安の亢進を抑えられることも判明。詳しく分析したところ、側座核から腹側被蓋野へと続くシナプスの前部で、mDiaが神経伝達不全を引き起こしていることが判明した。
脳領域の神経細胞でmDiaが欠損したマウスでは、社会隔離によるストレスによる不安が抑えられていた。さらに、不安行動を示すマウスにmDiaの作用を阻害する薬物を投与したところ、不安が解消され、通常マウスに近い行動をとるようになったという。
「今回の研究は、不安を増強する脳機能メカニズムを解明することが大きな手掛かりになります。こうした不安の増強は長期間続くものであり、その基盤として神経に機能的な変化があるものと考えられます」と、成宮教授は言う。
神経の可塑的変化は、神経伝達を担うシナプスの形態変化によることが多い。神経細胞のシナプスを調べ、神経細胞の機能、神経伝達への影響を解明することが、不安行動だけではなく、うつ病や統合失調症などの精神疾患、さらには記憶学習や神経変性疾患などの新たな治療法の開発につながる可能性がある。

京都大学大学院・医学研究科
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