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「ギャンブル依存症」患者のメカニズムが明らかに 脳の働きに違いが
2017年04月20日

京都大学は、「ギャンブル依存症」の患者は、自分の置かれた状況を理解し、リスクに対する態度を柔軟に切り替える能力に障害があること、また、脳の前頭前野での結合が弱いことを明らかにしたと発表した。
「ギャンブル依存症」は患者と家族に障害をもたらす
金銭的な問題を抱えてもギャンブルをやめられずに続けてしまう「ギャンブル依存症」。ギャンブルについての制御が困難になるため、患者本人だけでなく家族や周囲の人間にも影響が大きい障害だ。
日本は欧米と比べて潜在的な予備群も含めるとギャンブル依存症が多いと考えられている。
これまでの研究や臨床では、ギャンブル依存症の患者は常に過剰にリスクを好み、性格のように一定の傾向がみられるという考え方が主流だった。
しかし、人は状況に応じてどの程度リスクを許容するかという判断を柔軟に切り替えて生活しており、患者もまた多様にリスクへの態度を切り替えていると考えられるため、過去のモデルによる依存症の理解や治療には限界があった。
状況に応じてリスクのとり方を切り替える能力に障害
ギャンブル依存症は単に意志の弱さや性格の問題としては片付けられないが、確かにギャンブル依存症になりやすい性格というものがある。しかし、ギャンブル依存症の患者は過剰に刺激を求め、リスクをとる選択をしがちな性格に偏っているわけではないこともこれまでの研究で明らかになっている。
例えば、サッカーの試合の前半で、試合が拮抗していたら、プレーヤーは守備を重視しつつ、攻撃陣と守備陣のバランスを考えた選手の配置を考える。しかし、後半終了間際で、負けていたら、守備陣を手薄にしてでも攻撃陣を増やすというリスクのある戦略をとる必要がある。この場合、失点をしない安全な戦略を続けても、そのまま試合は負けになってしまう。この例のように、人は状況によってリスクのとり方を切り替えている。
研究グループは、ギャンブル依存症では状況に応じてリスクのとり方を切り替える能力に障害があるのではないかという仮説を立てた。
たとえば患者は、サッカーの試合の前半のように比較的安全な戦略が必要な状況でも、試合終了間際で負けている場合と同じような不必要なプレッシャーを感じて、過剰なリスクを選択しているのではないかと考えた。
依存症の患者はハイリスク・ハイリターンを選ぶ傾向が強い
研究グループは、ギャンブル依存症と診断された男性患者21名と健常男性29名を対象に、新たに考案したギャンブル課題を実行中の脳活動を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)により検査した。
今回の課題では、まず画面にハイリスク・ハイリターンのギャンブルと低リスク・低リターンの二つのギャンブルが次々と提示される。参加者は、自分の好みに応じて、この二つのギャンブルからひとつを選択することを繰り返し、毎回の結果がフィードバックされる。
この課題の特徴はステージ制を導入したことだ。ステージ毎に20回2つのギャンブルから片方を選択できるが、各ステージにはクリアするための最少ポイントが設定されている。参加者はなるべく多くのステージをクリアすることが求められる。
あるステージでは、でたらめに選択しても簡単にステージがクリアできるほどノルマが低く設定されているが、高ポイントを当て続けないとクリアするのが困難なノルマの厳しいステージもある。
また、ステージが始まる時点でのノルマが同じでも、前半に高ポイントを多く当てていると、後半のノルマは緩くなり、反対に前半にポイントを稼げないと後半はノルマが厳しくなってくるというように、ノルマがアップデートされていくよう設定された。
その結果、未治療/治療期間が短いグループは健常者と比べて全体的にハイリスク・ハイリターンのギャンブルを選択する傾向が強いことや、特に低ノルマ条件で、ハイリスク・ハイリターンのギャンブルを選択する傾向が強いということが分かった。つまり、リスクをとらなくてもクリアできる可能性が高い条件で不必要にリスクをとっていることが分かった。
ギャンブル依存症の患者は柔軟に切り替えるのが苦手

Deficit of state-dependent risk attitude modulation in gambling disorder(Translational Psychiatry 2017年4月4日)
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