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糖尿病+高血圧 どうすれば治療を両立できる? 高血圧の治療が進歩
2017年06月21日

2型糖尿病と高血圧は患者数の多い疾患だが、放置していると心臓病や脳卒中、腎臓病などを発症する危険性が一気に高まる、おそろしい病気だ。適切に治療するために、さまざまな対策が考えられている。
糖尿病と高血圧は動脈硬化を促進する
高血圧を併発している糖尿病患者は多い。高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などは、ひとつでも心臓病や脳卒中の危険因子となるが、それらがいくつか重なった状態では、動脈硬化が急速に進み、心臓病や脳卒中を起こす確率が一気に高まる。
実際に心臓病の患者では、高血圧と糖尿病の合併がよくみられるという。この2つの病気に、インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が深く関係している。高血圧患者の約40%にインスリン抵抗性がみられるという報告がある。
糖尿病と高血圧は腎臓病の発症にも大きく影響する。糖尿病が原因で、新たに透析を導入する患者は年間1万6,000超に上る。腎臓の働きが悪くなると余分な塩分と水分の排泄ができなくなり血液量は増加し血圧が上がる。さらに、血圧が上がると腎臓への負担が増え、ますます腎臓の機能が低下するといった悪循環に陥る。したがって、腎臓の働きを守るためにも早期に血圧をコントロールすることが大切だ。
インスリン抵抗性は高血圧を引き起こし、動脈硬化を促進する。糖尿病では、予備群のうちから動脈硬化が進みやすい。これに対し、いくつかの大規模臨床試験から、糖尿病の治療をより早期から始めることで、将来、心臓病や脳卒中で死亡するリスクを減らせることが分かっている。高血圧や心臓病がある人は、耐糖能異常を合併している可能性が高いという報告もある。糖尿病と高血圧の治療を継続することは重要だ。
高血圧の治療薬 第一選択薬はACE阻害薬とARB
糖尿病では、血圧がそれほど高くない状態でも動脈硬化が進みやすいことから、糖尿病と高血圧を合併している患者では、収縮期130mmHg未満・拡張期80mmHg未満を目標に、厳格な血圧管理を行うことが求められる。
高血圧の治療の基本は、糖尿病の治療と同じように、食事や運動などの生活習慣の改善だ。しかし、血圧が高い人や糖尿病・慢性腎臓病・心臓病などを合併している人は、脳卒中や心筋梗塞のリスクが特に高いため、高血圧と診断されると直ちに薬を使った治療が開始されることが多い。
血圧が上がる原因は血管が細くなったり、心臓から送り出される血液量が増えることだ。高血圧の薬は、その反対に、血管を広げる、または、血液量を減らすことで血圧を下げる。血管を広げる薬では、ARB・ACE阻害薬・カルシウム拮抗薬・がよく使われる。血液量を減らす薬では、利尿薬・β遮断薬がよく使われる。
糖尿病の治療ガイドラインでは、高血圧を合併した糖尿病の治療の第一選択薬は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン?受容体拮抗薬(ARB)となっている。ACE阻害薬やARBには、臓器保護作用やインスリン抵抗性を改善する作用もあることから、多く治療に使われている。
血圧コントロールが不十分な場合には、増量するか、カルシウム拮抗薬または少量の利尿薬を併用する。それでも降圧が不十分な場合には、3剤を併用する。

高血圧に生活習慣が大きく関わっている
高血圧の治療では、「血圧は低いほど良い」と言われており、血圧をしっかり下げれば下げるほど、心臓病や脳卒中などの合併症になるリスクを減らせることが分かっている。そのため、定期的に健診を受け、家庭でも血圧測定を行い、より早期に高血圧を発見し、適切な治療を受けることが大切だ。
しかし現状では、厳しい血圧管理が求められている一方で、目標値に到達できない患者が多い。薬が効かない場合には、生活習慣の改善をしていない、または、薬を指示通り飲んでいない、といったことが考えられる。
糖尿病患者では、食塩制限、野菜・果物の摂取、コレステロール・飽和脂肪酸の摂取制限、適正体重維持、アルコール摂取制限、運動促進、禁煙などの生活習慣の改善が極めて重要だ。
生活習慣の修正により、高血糖とともに高血圧も改善するので、食事療法は極めて重要となる。特に肥満のある人では減量により血圧低下も期待できる。また、運動量の増加は血糖コントロールと降圧に効果的だ。糖尿病を伴う高血圧では食塩感受性が亢進している場合が多く、減塩指導も重要とある。
血圧に季節変動 夏は低く冬は高く
血圧がうまくコントロールできるようになれば、薬の量や飲む回数を減らすこともできる場合もある。たとえば、血圧には季節変動があり、夏は低く冬は高くなる傾向があるので、夏の間は薬の量を減らすこともある。
夏に血圧が下がる要因は、▽気温が上がり、体内の熱を放散するために血管が拡張すること、▽汗を多量にかき、血管内の水分と塩分を失うことだ。
日ごろ血圧が高い人も、夏は普段より低めの血圧値が出ることがある。降圧剤を服用している人は、冬場と同じ薬を夏に飲むと、血圧が下がり過ぎることがある。ふらつきや立ちくらみが起きるという人は医師に相談しよう。
このとき、とても役に立つのが家庭で血圧を測る「家庭血圧」だ。現在では、家庭血圧値による高血圧の診断は一般化している。日本を含む世界のガイドラインの多くは、日本の「大迫研究」などを根拠に、家庭血圧を治療に取り入れることを推奨している。
家庭で測定した血圧では、最高血圧(収縮期血圧)が135mmHg以上、または最低血圧(拡張期血圧)が85mmHg以上あると高血圧が疑われる。診察室で測定した場合の140mmHg以上/90mmHg以上より5mmHgずつ低い値だ。
家庭血圧測定にはメリットが多い
夏の時期は血圧を日常的に測定して、数値の変化に敏感になることが大切だ。気温が上がり始める5月から6月にかけて、血圧がふだんよりも下がる傾向があれば、医師に相談を。
家庭血圧のメリットは、▽時間を決めて毎日同じ条件で、また安定した状態で測定できるので、より正確で詳細な血圧情報を把握することができること、▽測定値を記録しておくことで、患者自身の健康管理の目安となり、また、医師にとっては重要な診断材料となることだ。
また、家庭での血圧が安定していれば、薬を半分にするなど、患者さんの状態に合わせてきめ細かく薬を調整することも可能になる。治療がうまくいっているか、薬が合っているかどうか判断するうえでも、家庭で測った血圧は重要だ。血圧手帳に記入して、受診時に医師に見せよう。
家庭血圧は、朝に測定するときは、起床後1時間以内に、排泄後・服薬前・朝食前に座位1~2分後に測定し、就寝前に測定するときは、座位1~2分後に測定することが推奨されている。
第60回日本糖尿病学会年次学術集会
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