ニュース
肺の生活習慣病「COPD」は生活の質(QOL)を悪くする 禁煙すれば悪化を半分に減らせる
2020年09月01日
肺の生活習慣病とも呼ばれる慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、生涯にわたり患者の生活の質(QOL)を悪くするが、禁煙によりQOLの悪化の速度を半分に減らせることが、千葉大学大学院薬学研究院と慶応大学医学部の研究グループによって明らかになった。
「喫煙者への禁煙指導が重要であることがあらためて示されました」と、研究者は述べている。
「喫煙者への禁煙指導が重要であることがあらためて示されました」と、研究者は述べている。
肺が徐々に悪くなっていくCOPD
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、タバコの煙などの有害物質を長期に吸入することで生じる肺の炎症性の慢性疾患。
階段の上り下りなど体を動かしたときに息切れを感じたり、風邪でもないのにせきやたんが続いたりするのがCOPDの主な症状だ。
日本にCOPDの有病者が500万人以上いると推定されているが、多くは自分がCOPDであることに気づいておらず、治療も受けていない。
COPDは進行性なので、生涯にわたる治療と管理が必要になる。そのため、COPD患者の将来の病状を正確に予測し、もっとも有効な治療法を選択することが重要となる。
検査値だけでなく、生活の質(QOL)の評価も必要
COPDの疾患の評価や治験の主要評価項目などに肺機能の検査の値が使われているが、COPDの重症度を評価するためには、生活の質(QOL)をもとに評価する必要性もある。
しかし、1.5年程度の短い時間ではQOLの変化を十分に評価できず、また、慢性疾患の進行を正確に知るためには、数十年にわたる大規模な臨床研究などが必要となり、莫大な費用と時間を要する。
そこで研究グループは今回の研究で、COPD患者の短期間のデータをもとに、QOLを評価する手法を開発した。
研究は、千葉大学大学院薬学研究院臨床薬理学の川松真也氏や樋坂章博教授、慶応大学医学部の研究グループが行ったもので、研究成果は、科学誌「Journal of Clinical Medicine」に掲載された。
COPD患者の肺機能とQOLを短期間のデータで推定
研究グループは、1,025人の患者の4年間の臨床試験のデータから、30年にわたるCOPDの病態進行を推定。
「SReFT」と呼ばれる手法を使い、ごく短期間に、COPD患者の肺機能とQOLが長期的にどう変わっていくかを推測するのに成功した。
「SReFT解析」は、樋坂教授が開発した新しい手法で、多数の短期間データから数十年にわたる経時推移を推定する解析法。これまでにアルツハイマー病の解析が発表されており、今回のCOPDは2番目の適用となる。
研究グループは、COPD患者を対象とした国際共同治験「SUMMIT試験」に参加した1,025人のデータを解析し、COPD発症から30年程度の変化をSReFT解析を行い推定した。
SGRQとCATスコアは、COPD患者のQOLを評価するための指標で、スコアが大きいほどQOLが悪化していることを示す。また、肺機能を示す指標である%FEV1と%FVCは、数値が低下するほど肺機能が低下していることを示す。
肺機能の低下が止まってもQOLの悪化は生涯続く
その結果、COPDが進行するにともない、QOLの指標は明らかに悪化していくが、肺機能については発症後にすぐに減少するものの、発症から10年以上経つと減少は鈍化したりあまり変化しないことが分かった。
つまり、COPDの発症により肺機能は比較的すぐに下がり止まるが、そうなった患者でも、QOLの悪化は生涯にわたりが続いていくことがはじめて明らかになった。
これにより、COPDの進行を評価するためには、QOLも積極的に確認することが必要であることが示された。
喫煙者(図中青・紫)と比較して禁煙者(図中赤・緑)は、QOLの低下速度が遅い
出典:千葉大学、2020年
禁煙によりCOPDの進行は半分に遅らせられる
次に、喫煙状況が病態の進行に与える影響を調べるために、患者を現喫煙者と前喫煙者に分けて、COPDの長期の病態進行に違いが出てくるかを調べた。
その結果、禁煙をすることでQOLの悪化速度を半分ぐらいに遅らせられることが示された。
禁煙が肺機能の悪化を抑制し、COPDの予防・治療のために非常に重要であることは分かっているが、それでも禁煙を希望しない患者も少なくない。
「患者さんに、喫煙は肺機能だけでなく、生活の質であるQOLに影響し、禁煙することで将来的にQOLの悪化を大きく防げられることを理解してもらうことが重要。データを示し患者さんに納得してもらうことで、禁煙をより強く推奨できるようになる」と、研究者は述べている。
千葉大学大学院薬学研究院臨床薬理学Scores of Health-Related Quality of Life Questionnaire Worsen Consistently in Patients of COPD: Estimating Disease Progression Over 30 Years by SReFT with Individual Data Collected in SUMMIT Trial(Journal of Clinical Medicine 2020年8月18日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2025 SOSHINSHA All Rights Reserved.
「健診・検診」に関するニュース
- 2025年08月21日
- 歯の本数が働き世代の栄養摂取に影響 広島大学が新知見を報告
- 2025年07月07日
- 子供や若者の生活習慣行動とウェルビーイングの関連を調査 小学校の独自の取り組みを通じた共同研究を開始 立教大学と東京都昭島市
- 2025年06月27日
-
2023年度 特定健診の実施率は59.9%、保健指導は27.6%
過去最高を更新するが、目標値と依然大きく乖離【厚労省調査】 - 2025年06月17日
-
【厚労省】職域がん検診も市町村が一体管理へ
対策型検診の新項目はモデル事業で導入判断 - 2025年06月02日
- 肺がん検診ガイドライン19年ぶり改訂 重喫煙者に年1回の低線量CTを推奨【国立がん研究センター】
- 2025年05月20日
-
【調査報告】国民健康保険の保健事業を見直すロジックモデルを構築
―特定健診・特定保健指導を起点にアウトカムを可視化 - 2025年05月16日
- 高齢者がスマホなどのデジタル技術を利用すると認知症予防に 高齢者がネットを使うと健診の受診率も改善
- 2025年05月16日
- 【高血圧の日】運輸業はとく高血圧や肥満が多い 健康増進を推進し検査値が改善 二次健診者数も減少
- 2025年05月12日
- メタボとロコモの深い関係を3万人超の健診データで解明 運動機能の低下は50代から進行 メタボとロコモの同時健診が必要
- 2025年05月01日
- ホルモン分泌は年齢とともに変化 バランスが乱れると不調や病気が 肥満を引き起こすホルモンも【ホルモンを健康にする10の方法】













