ニュース
納豆などの「発酵性大豆食品」が女性の循環器疾患や脳卒中のリスクを低下 日本人8万人を調査
2020年10月20日

納豆やみそなどの発酵性大豆食品が、女性の循環器疾患や脳卒中のリスクを低下することが、日本人8万人を対象としたコホート研究で明らかになった。とくに納豆は効果が高いという。
納豆やみそなどには吸収されやすい「イソフラボン」が多く含まれる
納豆やみそなどの日本の伝統的な発酵性大豆食品には、大豆に含まれるフラボノイドである「大豆イソフラボン」が多く含まれる。
このうち配糖体の糖部分がはずれた構造の非配糖体(アグリコン)は、腸管から吸収されやすい。納豆やみそなどの発酵性大豆食品には「イソフラボンアグリコン」が多く含まれている。
「イソフラボンアグリコン」は、閉経後の女性が摂取すると、動脈硬化を予防することが知られている。また、発酵性大豆食品には、血圧低下と関連するとみられている「ポリアミン」や「スペルミジン」が非発酵性大豆食品より多く含まれている。
大豆食品の中でも発酵性の大豆食品に関する疫学研究は少ない。そこで研究グループは、発酵性大豆食品に着目し、循環器疾患やがんとの関連について調査した。
関連情報
日本人8万人を調査「JPHC研究」
「JPHC研究」は日本人を対象に、さまざまな生活習慣と、がん・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。
国立がん研究センターや国立循環器病研究センターなどの研究グループは、1995年と1998年に、岩手、秋田、長野、沖縄、茨城、新潟、高知、長崎の9保健所区域に在住していた45~74歳の男女7万9,648人を対象に食事調査を行い、発酵性大豆食品の摂取量と循環器疾患およびがんの発症について調査した。
食事調査アンケートの結果を用いて、総大豆食品、発酵性/非発酵性大豆食品、みそ、納豆の1日当たりの摂取量を算出。人数が均等となるよう4グループに分け、もっとも摂取量が少ないグループを基準にして、その後の循環器疾患やがんの発症について調べた。
発酵性大豆食品を多く摂っていると循環器疾患や脳卒中のリスクが低下
その結果、追跡期間中に4,427人(女性:1,791人、男性:2,636人)が循環器疾患を発症し、9,972人(女性:3,789人、男性:6,183人)ががんを発症した。
女性では発酵性大豆食品の摂取量が多いグループほど、循環器疾患の発症リスクが低いことが明らかになった。発酵性大豆食品の摂取量がもっとも多い女性(1日55g)では、もっとも少ない女性(9g)に比べ、循環器疾患の発症リスクが20%減少した。
発酵性大豆食品の摂取量がもっとも多い女性では、脳卒中のリスクは18%低下し、心筋梗塞のリスクも30%低下した。女性では、納豆や発酵性大豆食品由来のイソフラボンの摂取量でも同様の結果がみられた。
一方、男性ではこうした関連はみられなかった。また全がんでは、男女とも大豆食品の摂取量との関連はみられなかった。
発酵性大豆食品の摂取量と循環器疾患の発症リスク
【女性】発酵性大豆食品の摂取量と脳卒中・心筋梗塞の発症リスク


出典:国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ、2020年
発酵性大豆食品の「イソフラボンアグリコン」が動脈硬化を抑制
今回の研究では、発酵性大豆食品の摂取量が多いほど、女性では循環器疾患のリスクが低下し、なかでも納豆の摂取量が多いほど、循環器疾患のリスクが低下することが示された。一方、男性ではこうした関連はみられなかった。
研究グループはこれまでにも、発酵性大豆食品の摂取量が多いと、循環器疾患のリスク要因のひとつである高血圧の発症リスクが低下することを確かめている。
発酵性大豆食品に多く含まれる「イソフラボンアグリコン」が動脈硬化の予防に役立つため、発酵性大豆食品を摂取すると循環器疾患の発症リスクが低下すると考えられる。
なお、心筋梗塞については症例数が少なかったため、関連がみられなかった可能性がある。
男性で関連がみられなかった理由としては、男性は女性と比べて、喫煙者や飲酒者の割合が高く、喫煙や飲酒による健康への悪い影響が、発酵大豆食品摂取による効果的な作用を打ち消した可能性があるという。
一部のがんのリスクを低下させる可能性も
また、今回の研究では、発酵性大豆食品と全がんとは関連がみられなかったが、先行研究ではイソフラボンと乳がんや前立腺がんのリスク低下との関連が報告されている。今後は、発酵性大豆食品と部位別のがんとの関連を明らかにする必要があるとしている。
さらに、納豆やみそなどは日本の伝統的な発酵性大豆食品であり、これらの食品を摂取するときに、野菜などの循環器疾患の発症リスクを低下させるとされている食品もともに摂取している可能性がある。今回の研究でもそうした食品が影響している可能性を否定できないという。
「発酵性大豆食品と疾患に関する研究は限られており、今後も発酵性大豆食品を多く摂取している日本人やアジアのほかの国々からのさらなる研究結果の蓄積が必要です」と、研究グループは述べている。
多目的コホート研究(JPHC Study) 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループFermented soy products intake and risk of cardiovascular disease and total cancer incidence: The Japan Public Health Center-based Prospective study(European Journal Of Clinical Nutrition 2020年9月4日)
掲載記事・図表の無断転用を禁じます。©2009 - 2025 SOSHINSHA All Rights Reserved.


「健診・検診」に関するニュース
- 2025年06月02日
- 肺がん検診ガイドライン19年ぶり改訂 重喫煙者に年1回の低線量CTを推奨【国立がん研究センター】
- 2025年05月20日
-
【調査報告】国民健康保険の保健事業を見直すロジックモデルを構築
―特定健診・特定保健指導を起点にアウトカムを可視化 - 2025年05月16日
- 高齢者がスマホなどのデジタル技術を利用すると認知症予防に 高齢者がネットを使うと健診の受診率も改善
- 2025年05月16日
- 【高血圧の日】運輸業はとく高血圧や肥満が多い 健康増進を推進し検査値が改善 二次健診者数も減少
- 2025年05月12日
- メタボとロコモの深い関係を3万人超の健診データで解明 運動機能の低下は50代から進行 メタボとロコモの同時健診が必要
- 2025年05月01日
- ホルモン分泌は年齢とともに変化 バランスが乱れると不調や病気が 肥満を引き起こすホルモンも【ホルモンを健康にする10の方法】
- 2025年05月01日
- 【デジタル技術を活用した血圧管理】産業保健・地域保健・健診の保健指導などでの活用を期待 日本高血圧学会
- 2025年04月17日
- 【検討会報告】保健師の未来像を2類型で提示―厚労省、2040年の地域保健を見据え議論
- 2025年04月14日
- 女性の健康のための検査・検診 日本の女性は知識不足 半数超の女性が「学校教育は不十分」と実感 「子宮の日」に調査
- 2025年03月03日
- ウォーキングなどの運動で肥満や高血圧など19種類の慢性疾患のリスクを減少 わずか5分の運動で認知症も予防