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がん治療と仕事を両立する「がんサバイバー労働者」 働けていることに幸福感 就労復帰後も健康感などを向上させるサポートが必要
2021年02月09日

2月4日は「世界対がんデー」だった。
がんの治療と仕事を両立している「がんサバイバー労働者」は、がんの既往のない労働者と比較して、主観的不健康や身体的機能の低下を訴える人の 割合が高いことが、国立がん研究センターなどの調査で明らかになった。
一方で、男性のがんサバイバー労働者は、幸福感を感じる割合が高いことも示された。
がんサバイバーに対し、就労復帰後も継続的に主観的健康感や身体的機能を向上させるためのサポートを行う必要性が示唆された。
がんの治療と仕事を両立している「がんサバイバー労働者」は、がんの既往のない労働者と比較して、主観的不健康や身体的機能の低下を訴える人の 割合が高いことが、国立がん研究センターなどの調査で明らかになった。
一方で、男性のがんサバイバー労働者は、幸福感を感じる割合が高いことも示された。
がんサバイバーに対し、就労復帰後も継続的に主観的健康感や身体的機能を向上させるためのサポートを行う必要性が示唆された。
がんから復帰して働いている「がんサバイバー労働者」は増えている
国立がん研究センターと藤田医科大学の研究グループは、約5万4,000人の労働者を対象に、がんサバイバー(がん既往がある者)と既往症のない労働者の心身の状態について調査し、がんサバイバー労働者の主観的不健康、身体的機能の低下、抑うつ症状、幸福感を、がん既往のない労働者と比較した。
今回の研究では、過去にがんにかかったことがあると回答し、また、現在、何らかの職業に就いていると回答した人を、「がんサバイバー労働者」と定義した。
その結果、がんサバイバー労働者では、がん既往のない労働者に比べて、主観的不健康や身体的機能の低下を訴える割合が高いことが明らかになった。また、男性のがんサバイバー労働者では幸福感を感じる割合が高いことも分かった。
がんサバイバーの就労復帰支援が政策として進められているが、就労復帰した後も継続的に主観的健康感や身体的機能を向上させるためのサポートを行う必要性が示唆された。
この研究は、がん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスを構築するための研究「次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT研究)」(主任研究者:津金昌一郎・国立がん研究センター 社会と健康研究センター長)の成果で、研究成果は国際学術誌「Journal of Cancer Survivorship」に掲載された。
就労しているがんサバイバーは、不健康、身体的機能の低下、抑うつ症状を感じやすい
近年、がんサバイバーの就労支援が進められているが、就労していないがんサバイバーに比べて、就労しているがんサバイバーは、主観的不健康、身体的機能の低下、抑うつ症状を訴える割合が低いことが報告されている。
しかし、がんサバイバー労働者の主観的不健康(自分の健康状態が良くないと思うこと)、身体的機能の低下、抑うつ症状、幸福感を訴える割合が、がん既往のない労働者と異なるかについては報告が少ない。
そこで研究グループは、がんサバイバー労働者の主観的不健康、身体的機能の低下、抑うつ症状、幸福感を、がん既往のない労働者と比較した。
対象となったのは、2011~2016年に、「次世代多目的コホート研究」の対象地域(秋田、岩手、茨城、長野、高知、愛媛、長崎など)に在住しており、研究に同意した40~74歳の約11万5,000人のうち、アンケートで労働者であると回答した40~65歳の約5万4,000人(男性2万8,311人、女性2万6,068人)。
がんの既往がある(がんサバイバー)と答えた労働者は、男性977人(3.5%)、女性1,267人(4.9%)だった。がんの部位として多かったのは男性では胃(26%)、大腸(22%)、前立腺(14%)、女性では乳(38%)、大腸(9%)、胃(8%)だった。
関連情報
がんから生き延びたことに加えて、働けていることに幸福感を感じる
その結果、男女とも、がんサバイバー労働者では、がん既往のない労働者に比べて、主観的不健康を訴える割合と、身体的機能の低下があると答えた割合が、統計学的に有意に高いことが明らかになった。
一方、抑うつ症状がある人の割合は、がんサバイバー労働者とがん既往のない労働者との間に違いはみられなかった。幸福感を感じる割合は、がんサバイバー労働者では、がん既往のない労働者と比べて、男性で統計学的に有意に高いことが分かった。女性では違いはみられなかった。
今回の研究では、がん既往のない労働者に比べて、がんサバイバー労働者では、主観的不健康や身体的機能の低下を訴える割合が高いことが明らかになった。日本やノルウェーの比較的小規模な研究でも同様な結果が報告されている。
先行研究では、さまざまながん治療が身体的機能の低下をもたらすことが報告されており、今回の研究でも、身体的機能の低下をがんサバイバー自身で感じていることが反映された結果と考えられる。
また、先行研究では、男性は就労して稼ぎ手となることに幸福感を感じるという報告があり、今回の研究でも、男性のがんサバイバー労働者が幸福感を感じる割合が高いことが分かった。
男性がんサバイバーはがんから生き延びたことに加えて、就労していることに幸福感を感じやすい
主観的不健康や、身体的機能の低下があると答えた割合は、男女とも有意に高い
主観的不健康や、身体的機能の低下があると答えた割合は、男女とも有意に高い

出典:国立がん研究センター、2021年
就労復帰した後も継続的なサポートが必要
「男性がんサバイバーは、がんから生き延びた幸福感に加えて、就労していることに幸福感を感じていることを示していると考えられます。がんサバイバーの就労復帰が政策として進められていますが、就労復帰した後も継続的にがんサバイバーに対して、主観的健康感や身体的機能を向上させるためのサポートを行うことが必要です」と、研究者は述べている。
また、「今回の研究では、がんの部位やがんを罹患してからどれくらい経過しているかを考慮した分析ができていないなどの限界があり、今後もさらなる研究が必要です」としている。
多目的コホート研究「JPHC Study」次世代多目的コホート研究「JPHC NEXT」
Working cancer survivors' physical and mental characteristics compared to cancer-free workers in Japan: a nationwide general population-based study(Journal of Cancer Survivorship 2021年1月12日)
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