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「食物繊維」は肥満・メタボ・糖尿病の人にもメリットが大きい 玄米・大麦・雑穀など「全粒穀物」でリスク低下

 新型コロナウイルス感染症の拡大が続き、あらためて健康維持の重要性を感じている人が多い。肥満やメタボ、2型糖尿病を予防・改善するために、太り過ぎにならないようにし、ストレスにも負けない心身を保ちたいと願う人も多いだろう。
 新型コロナに負けないようにするために、適度な運動や休息とともに、とくに意識したいのは食生活の改善。しかし、食事や食品についてさまざまな情報があり、どれを信用したら良いのか分からない――そんなときにお勧めできる栄養素が食物繊維だ。
食物繊維は肥満・メタボの人にとってメリットが多い
 食物繊維は消化・吸収されずに、小腸を通って大腸まで達する栄養素。腸の働きをよくしたり、糖質の吸収をゆるやかにするなど、多くの健康効果がある。

 食物繊維が多い食事は、よく噛むために満腹感が得られやすくなり、食べ過ぎを防いで肥満予防につながる。また、脂質やコレステロールなどの吸収を抑えることで、動脈硬化の予防にもつながる。

 穀物繊維を十分に摂取することは、日本人の糖尿病のコントロールにも有用と考えられている。日本糖尿病学会の『糖尿病診療ガイドライン2019』では、「食物繊維は糖尿病状態の改善に有効であり、炭水化物摂取量とは無関係に20g/日以上の摂取を促す」と示されている。

 日本人を対象とした食物繊維の糖尿病への影響を調べたコホート研究でも、1~2ヵ月の血糖値を反映した指標であるHbA1cは、食物繊維が多いほどレベルが低くなることが示されている。

 日本人の糖尿病患者1,414人を対象としたコホート研究も、食物繊維を十分に摂っている人では、心血管疾患の発症率が低下するという結果になった。糖尿病患者が食物繊維を十分に摂ることで、空腹時血糖が低下するという報告もある。
全粒穀物を食べていると糖尿病リスクが29%低下
 食事で全粒穀物を多く摂ると、精製された穀物の多い食事よりも、肥満や糖尿病、心臓病の人の健康リスクを低く抑えられることは、 世界中の多くの研究で示されている。

 ハーバード公衆衛生大学院などの研究グループは、1984~2014年に実施された「看護師健康研究」、1991~2017年に実施された「看護師健康研究II」、1986~2016年に実施された「医療専門家追跡研究」のデータを解析した。

 対象となったのは、研究開始時点で糖尿病や心臓病、がんを発症していなかった男性3万6,525人と女性15万8,259人。

 その結果、全粒穀物の摂取量がもっとも多いグループでは、もっとも少ないグループに比べ、2型糖尿病の発生率が29%低かった。

 「2型糖尿病を予防するために、野菜、果物、全粒穀物の摂取量を増やすことが勧められます。毎日の食事でこれらの食品を少し増やすだけでも、糖尿病を改善する効果を期待できます」と、研究グループは述べている。
食物繊維が不足している ほとんどの人は1日20g未満
 世界中のほとんどの人は食物繊維を1日あたり20g未満しか摂っていない。英国栄養科学諮問委員会は2015年より、食物繊維の摂取量を1日30gに増やすことを推奨しているが、この目標を達成できている英国成人は9%しかいない。米国でも、成人の食物繊維の平均摂取量は1日15gだ。

 日本人でも食物繊維は不足している。厚生労働省の2019年「国民健康・栄養調査」では、1日の食物繊維の摂取量の平均は18.4gだった。とくに30代で17g、40代で17g、50代で18gと、働き盛りの年代で食物繊維は不足している。

 不足しやすい食物繊維5gを補いやすい食材の目安は、レタス1.5個(約450g)、ゴボウ5分の3本(約90g)、サツマイモ1本弱(約220g)、玄米2.5杯(約360g)、大麦2分の1カップ(乾物、約60g)などだ。
全粒穀物はもっとも食物繊維を摂りやすい
 食物繊維の摂取源となるのは、▼穀類、▼野菜類、▼海藻類、▼豆類、▼キノコ類、▼果物類などだが、もっとも得られやすいのは穀類だという。

 「全粒穀物(ホールグレイン)」とは、精白などの処理で、果皮、種皮、胚、胚乳といった部位を取り除いていない穀物のこと。白米や白パンでは、精白することによって外皮や胚芽などが取り除かれ、これらに含まれる食物繊維やポリフェノール、ミネラルなどの栄養成分が削り取られ、失われてしまう。

 「精製された小麦粉や白米などを食べると、炭水化物の量は同じであっても、食物繊維が少ないため吸収が速く、食後の血糖上昇が起こりやすくなります。血糖値をコントロールする必要のある糖尿病の人にとっては、勧められるのは全粒穀物です」と、ニュージーランドのオタゴ大学栄養学部および医学部のジム マン教授は言う。

 マン教授は、エドガー糖尿病・肥満研究所の所長でもあり、40年以上にわたり糖尿病の研究に携わってきた。国際栄養科学連合(IUNS)や、世界保健機関(WHO)と国際連合食糧農業機関(FAO)の専門家会議などにも参加している。

 米食でいうと玄米、発芽玄米、大麦、大麦などの入った麦ごはんなどがある。それに「五穀米」などとしてパッケージされている黒米、赤米、ソバ、キビ、アワ、ヒエなどの雑穀も全粒穀物だ。

 パン食なら、小麦の外皮や胚乳ごと粉にした全粒粉パン、外皮のふすまを含むブランパン、ライ麦パン。シリアルでは、オールブランや玄米シリアル、オーツ麦(オートミール)など。味も食感もさまざまな全粒穀物があり、幅広い選択肢がある。
全粒穀物を摂ると糖尿病のコントロールが改善
 オタゴ大学の研究では、ニュージーランド人の食物繊維の1日の平均摂取量は19gだが、食物繊維を35gに増やすと、死亡リスクを35%低下できることが示された。

 また、糖尿病予備群、1型糖尿病および2型糖尿病の成人の計1,789人を対象とした42件の試験のデータに解析では、食物繊維や全粒穀物の多い食事を6週間以上続けることで、糖尿病の人の血糖コントロール、コレステロール値、体重などが一貫して改善することが示された。

 さらに研究グループは、2型糖尿病の成人を対象に、全粒穀物がもたらす健康上のベネフィットを調査。参加者に、全粒オーツ麦など加工が最小限の全粒穀物を2週間食べてもらい、持続血糖モニター(CGM)を使用して、2週間の介入期間中の昼と夜の血糖変動を記録した。

 その結果、全粒穀物を摂取した場合、食後血糖値が改善し、1日を通しての血糖変動も減少したことが明らかになった。
ごはんやパンを全粒穀物に置き換える食事スタイル
 オタゴ大学の最新の研究によると、食物繊維の摂取量が多いほど、2型糖尿病や心臓病、がんなどの生活習慣病のリスクは低下する。この研究の詳細は、医学誌「ランセット」に発表された。

 研究グループは、計1億3,500万人年分のデータが含まれる185件の観察研究と、計4,635人の成人を対象とした58件の臨床試験のデータを解析した。

 その結果、1日の食物繊維の摂取量が8g増えるごとに、総死亡リスク、冠状動脈性心疾患(CHD)、2型​​糖尿病、大腸がんの発生リスクが5〜27%減少することが明らかになった。食物繊維には、脳卒中や乳がんに対する保護効果があることも分かった。

 食物繊維の摂取量が多いほど、さらに強力な健康増進の効果を得られ、食物繊維を毎日25~29gを摂取することで病気からの保護効果を期待できるという。

 全粒穀物については、1日の摂取量が15g増加するごとに、総死亡リスク、CHD、2型​​糖尿病、大腸がんの発生リスクは2〜19%減少した。全粒穀物の摂取量が多いと、生活習慣病のリスクが13〜33%減少した。

 こうした病気が原因になる死亡率は、1,000人あたりの26人減少し、CHDのリスクも1,000人あたりの7人減少した。

 「食物繊維についての研究は、100年以上続けられています。食物繊維を多く含む食品は、よく噛んで食べる必要があり、満腹感を高めやすく、体重管理に役立ちます。脂質と血糖の値にも好ましい影響をもたらすと考えられます。さらには、食物繊維は大腸で常在菌により分解され、肥満予防や免疫の改善にも役立ちます」と、マン教授は言う。

 「精白された小麦粉を使った白パンを、食物繊維の豊富な全粒紛を使ったパンに置き換えたり、白米を玄米に置き換えたりする食事スタイルは、糖尿病や肥満のある人にも勧められます。ふだんの食事に缶詰の野菜や豆類を加えるだけでも、食物繊維の摂取量は増やせます」としている。
食物繊維は腸内環境も改善する
 食物繊維は消化・吸収されずに、小腸を通って大腸まで達する。全粒小麦などに豊富に含まれる不溶性食物繊維が、腸内で溶出して水溶性の性質をあらわし、腸内の発酵を高めることも分かってきた。

 腸内で腸内の有用菌がこれら食物繊維をエサにすると、短鎖脂肪酸という物質を生み出す。この短鎖脂肪酸には、満腹感を高めて肥満を抑制する、血糖値の急上昇を抑える、血圧を下げる、免疫機能によい影響を与えるなど、幅広い機能があることが分かってきた。

 全粒穀物というあまりお金のかからない食材で、しかも毎日25~29gを摂ることで病気のリスクを下げられるというのはうれしいニュースだ。

 食物繊維については、この数年でしっかりとした科学的な根拠(エビデンス)が増えている。毎日の食事で食物繊維が不足しないように心がけたい。

Impact of dietary fiber intake on glycemic control, cardiovascular risk factors and chronic kidney disease in Japanese patients with type 2 diabetes mellitus:the Fukuoka Diabetes Registry(Nutrition Journal 2013年12月11日)
Intakes of dietary fiber, vegetables,and fruits and incidence of cardiovascular disease in Japanese patients with type 2 diabetes(Diabetes Care 2013年12月)
Dietary fiber for the treatment of type 2 diabetes mellitus:a meta-analysis(Journal of the American Board of Family Medicine 2012年1月)
Association between dietary factors and mortality from heart disease, stroke, and type 2 diabetes in the United States(JAMA 2017年3月7日)
Higher fibre saves lives, but food processing may remove benefits(オタゴ大学 2020年5月19日)
High carb? Low carb? - It's more about the quality of carb!(心臓財団 2019年10月1日)
Dietary fibre and whole grains in diabetes management: Systematic review and meta-analyses(PLOS Medicine 2020年3月6日)
Intake of whole grain foods and risk of type 2 diabetes: results from three prospective cohort studies(BMJ 2020年7月8日)
High intake of dietary fiber and whole grains associated with reduced risk of non-communicable diseases(Lancet 2019年1月10日)
Carbohydrate quality and human health: a series of systematic reviews and meta-analyses(Lancet 2019年2月2日)
[Terahata]
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