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45歳未満の肥満気味の女性は乳がんリスクが低い しかし閉経後の肥満は乳がんリスクを高める
2022年06月20日

45歳未満で体格指数(BMI)が22以上の肥満気味の女性は、乳がんのリスクが低くなることが、東京大学が国内の45歳未満の女性約80万例の大規模な医療データベースを解析した研究で明らかになった。
とくに女性の肥満の少ない日本では、BMI分布を考慮すると、40歳代から乳がん検診を受ける意義はより大きいものと考えられる。
閉経前に肥満気味の女性は乳がんにかかるリスクが減少
乳がんは、日本では生涯で9人に1人の女性が罹病しており、増加傾向にある。乳がんの発生のしくみはいまだに不明だが、女性ホルモンへの曝露などいくつかのリスクが知られている。 閉経後の女性では、脂肪細胞が主たる女性ホルモン産生の場であることから、人種・地域を問わず肥満が主なリスク因子であることが分かっている。 しかし、閉経前の女性では、肥満の乳がんリスクに人種差・地域差がある可能性がある。欧米では体格指数(BMI)が大きいと、閉経前に乳がんにかかるリスクが低いとされる一方、日本を含む東アジアではその関連性が分かっていない。 日本肥満学会の定めた基準では、BMI 18.5未満が「低体重(やせ)」、18.5以上25未満が「普通体重」、25以上が「肥満」と判定される そこで東京大学の研究グループは、国内の大規模医療データベースを用いて、BMIと乳がん発生との関連を調査した。45歳未満の女性約80万人のデータを解析した結果、45歳未満でBMIが22以上の肥満気味の女性では、乳がんのリスクが減少することが示された。 90%以上の日本人女性は45歳以降に閉経を迎えるとされていることから、東アジアでBMIが閉経前乳がんに及ぼすリスクが欧米と同様であることをはじめて示された。日本の女性は閉経前から乳がんになりやすい 40代中心の乳がん検診が必要
乳がんにかかる年齢のピークは、東アジア(40~50歳代)と欧米(70歳代)で異なることが知られており、その原因は分かっていなかった。今回の研究の結果にもとづくと、その違いは日本など東アジアの女性には肥満が少ないことと関連していると考えられる。 肥満の少ない日本の女性は、閉経前の40歳代から乳がんになりやすい一方で、肥満がリスクとなる閉経後乳がんは比較的少ないものと推測される。 そのため、「人口のBMI分布にもとづくがん検診の戦略が求められます。BMI分布を考慮すると、日本では40歳代を中心に、若年からの乳がん検診を受けることの意義がより大きいと考えられます」と、研究グループでは指摘している。 また、日本では、やせ型(BMI 18.5未満)の女性の比率が先進国のなかでもっとも高く、とくに20歳代の若い女性では、やせの割合が約20%と高い状態にある(2019年国民健康・栄養調査)。45歳未満の女性のBMIと乳がんリスクの関連


BMIが22以上の女性では、ハザード比の推定値とその95%信頼区間が1を下回っており、BMIが22に比べて、統計学的有意に乳がんになりにくいことを示している。
一方、BMIが22以下の女性では、ハザード比の95%信頼区間が1をまたいでいるので、BMIと乳がんリスクとの間に統計学的関連はないことが示されている。
一方、BMIが22以下の女性では、ハザード比の95%信頼区間が1をまたいでいるので、BMIと乳がんリスクとの間に統計学的関連はないことが示されている。
出典:東京大学、2022年
若い女性のやせ願望やダイエット指向は危険
日本の若い女性は、やせ願望やダイエット指向が強い傾向があり、やせる必要がないのに、偏った食生活を送ったり極端なダイエットを繰り返してしまうケースもみられる。 極端なダイエットなどによる偏った食生活は、鉄欠乏など潜在的な栄養不良や摂食障害のリスクも高める。また、食後高血糖となる「耐糖能異常」は、やせた若年女性にも多いことが分かっている。 やせていても、「インスリン抵抗性」や「脂肪組織の異常」が起きており、肥満者と同様の体質になっている場合があるという。「やせているのは良いこと」という認識は必ずしも正しくないことにも注意を向ける必要がある。 研究は、東京大学大学院医学系研究科の小西孝明氏(医学博士課程)、田辺真彦准教授、康永秀生教授、瀬戸泰之教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国医学誌「Breast Cancer Research and Treatment」にオンライン掲載された。閉経後の肥満は乳がんリスクを高める
健康的な体重を維持することが大切
乳がんは、日本人では依然は欧米に比べ少なかったが、女性の体形の変化とともに増加してきた。乳がんのリスクはこれまでも、閉経後女性ではBMIが大きいと増加し、逆に閉経前女性ではBMIが大きいと減少し、予防的に働くことが示されている。
国立がん研究センターなどが、日本の8件のコホート研究の18万人以上のデータを解析した別の研究では、閉経後の乳がんのリスクは、BMIが小さい女性ほど低く、大きい女性ほど高くなる傾向がみられた。閉経後の女性では、BMIが30以上だと乳がんのリスクが1.34倍に高まった。
閉経後の乳がんのリスクは、BMIが1上がるごとに、5%ずつ上昇する直線的な関連性がみられるという。
肥満女性では閉経後に、卵巣よりもむしろ脂肪組織が、女性ホルモンであるエストロゲンの供給源になることが影響していると考えられる。乳がんのがん細胞の60~70%は、エストロゲンの影響を受けて分裂・増殖する。
閉経後の女性では、乳がん予防の観点からは、やせているほうがリスクが低いことが示されている。ただし、やせにいたるような栄養不足は、免疫力を弱めて感染症を引き起こしたり、血管壁がもろくなり脳出血を起こしやすくなることなども知られている。
肥満ややせを防いで、健康的な体重を維持することが重要だ。国立がん研究センターが提唱している「日本人のためのがん予防法」では、総合的な健康にも配慮し、中高年女性のBMIの目標値として21以上25未満が推奨されている。
健康的な体重を維持することが大切
閉経後の女性でもBMIが大きくなると乳がんリスク上昇

出典:国立がん研究センター、2014年
Association between body mass index and incidence of breast cancer in premenopausal women: A Japanese nationwide database study Breast Cancer Research and Treatment 2022年6月4日)
Body mass index and breast cancer risk in Japan: a pooled analysis of eight population-based cohort studies (Annals of Oncology February 2014年2月)
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