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ダンスで高齢者の認知機能を改善 TRFと共同開発のダンス コロナ禍でも自宅で認知機能を向上

 東京大学は、ダンス・ボーカルユニットのTRFのメンバーとともに、高齢者が自宅で認知機能を向上できるダンスプログラムを開発し、その効果を実証したと発表した。

 4週間のダンスプログラムに参加した高齢者は、実行機能と認知機能が改善し、最大歩行速度、模倣能力も向上した。

 「あまりダンスに馴染みのない高齢者にも、親しみやすい音楽をベースにしたダンスプログラムは、認知症発症リスクを下げるための強力なツールになりえると期待されます」と研究者は述べている。

コロナ禍で外出自粛 自宅でできる運動を開発

 研究は、東京大学先端科学技術研究センター身体情報学分野の宮﨑敦子特任研究員(研究当時:理化学研究所情報システム本部客員研究員兼務)と檜山敦特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載された。

 運動には、認知機能や実行機能(物事を計画して行動する機能)の低下を防ぐ効果があることが知られている。そのため、認知症を予防するために、運動を積極的にとりいれることが推奨されている。

 ウォーキングなどの有酸素運動は、加齢とともに低下する実行機能を改善する。しかし、コロナ禍で多くの高齢者が外出自粛を余儀なくされ、運動量や日常生活で身体を動かす機会が減少した。

 その結果として生じる二次的な問題を防ぐため、安全に自宅で身体活動を維持するための効果的な戦略を早急に確立する必要がある。

 そこで研究グループは、屋内でも行えるダンスプログラムを開発し、認知機能や実行機能に及ぼす影響を検討した。

ダンスが認知機能などの維持・改善に効果的

 ダンスは有酸素運動であるとともに、曲に合わせて振り付けを模倣するという、デュアルタスク(2つの課題を同時に行う)運動になる。ダンスは、手や足の動きをコーディネートする運動でもあり、音楽と振付が変わるため、運動量より模倣トレーニングが優先されると考えられる。

 ダンスが、認知機能などの維持・改善に効果的である可能性がある。そこで研究では、30年以上の経験をもつダンス・ボーカルユニットであるTRFとともに、認知機能の改善に焦点をあてた、30分のダンスプログラムを開発した。

 軽度認知障害(MCI)や認知症があると、歩行能力と模倣能力が脆弱になるおそれがある。そこで研究グループは、それらをトレーニングする運動プログラムを準備した。

リバイバルダンス
TRFが考案した運動機能・認知機能改善を期待できるダンス

ダンスが高齢者の認知機能や実行機能を改善

 健康な60歳以上の男女90人をノルディックウォーキングを行う群と、DVDを見ながらダンスをする群、ふだんどおりに日常生活をおくる対照群に無作為に分け比較した。

 ノルディックウォーキングは、一定の運動強度を確実に得られる有酸素運動であり、ダンスは、有酸素運動をともなう模倣トレーニングとなる。

 ダンス群とノルディック群に割り当てられた人には、1回30分(準備体操と整理体操を含めて45分)、週に3回、4週間にわたり運動に取り組んでもらった。運動負荷による筋量減少を避けるため、全員が週3回アミノ酸(BCAA)を含む菓子を摂取した。

 離脱しなかった86人(平均年齢67.81歳)を分析の対象とし、認知機能・運動機能・身体組成を計測し、変化量(介入後の得点から介入前の得点を引いて算出)により3群を比較した。

 その結果、ノルディック群とダンス群は、実行機能が改善し、とくにダンス群は、全般的な認知機能も有意に改善したことが明らかになった。

 認知機能の指標であるMoCAスコアの介入前からの変化量は、ダンス群+2.0667点、ノルディック群+0.7037点、対照群-0.2414点であり、実行機能の評価指標であるFABスコアは、ダンス群+0.7333点、ノルディック群+0.2963点、対照群-0.5862点であり、ダンス群は改善幅はとくに大きかった。

 ダンスもノルディックウォーキングも、高齢者の実行機能を改善するのに有用だが、とくにダンスは、最大歩行速度、模倣能力、視空間認知機能などでも改善を示し、高齢者に効果的なプログラムであることが示された。

認知症発症リスクを下げるための強力なツールに

 「本研究により、4週間のトレーニングでも、認知および神経学的な身体機能を改善することを示すことができました。あまりダンスに馴染みのない高齢者にも、親しみやすい音楽をベースにしたダンスプログラムは、認知症発症リスクを下げるための強力なツールになりえることが期待されます」と、研究者は述べている。

 「認知症予防に運動を積極的に取り入れることが推奨されています。今回提供したプログラムのノルディックウォーキングは運動量が稼げる歩行トレーニングですが、ダンスは週ごとに新しい音楽と振付が変わるため、運動量より模倣トレーニングが優先されます」。

 「ダンスは全般的な認知機能を改善したうえに、トレーニングをしていない歩行能力をも改善したことに驚きました。最速歩行速度はより認知機能と関係性があります。多くの方々にぜひ、大好きな音楽でダンスをしていただきたいです」としている。

 なお、研究の一部は、エイベックス・エンタテインメントの支援を受けて行われた。

東京大学先端科学技術研究センター
Effects of Two Short-Term Aerobic Exercises on Cognitive Function in Healthy Older Adults during COVID-19 Confinement in Japan: A Pilot Randomized Controlled Trial (International Journal of Environmental Research and Public Health 2022年5月19日)
[Terahata]
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