がんと仕事に関する意識調査〜診断当初の不安は軽減し仕事の継続へ
一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所と、法政大学 キャリアデザイン学部・松浦民恵教授が共同研究で実施した「がんと仕事に関する意識調査」がこのほど公開された。 がん経験者へのアンケート調査では、がんと診断された当初は仕事の継続などに不安を持っていた人たちでも、時間の経過とともに軽減され、実際にこれまで通り働けたという回答が多かった。また、周囲の人への調査では、部下ががんになったことで、がん治療と仕事の両立に対するイメージが「ポジティブに変化した」と答えた人が6割に上った。 報告書では人の「意識」に着目し、「がんになったら働けない」というアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)などがないか状況を把握するとともに、がんになっても本人の望む形で働き続けるにはどうすれば良いか、提言をまとめている。
「がんと仕事」について、がん経験者や周囲の人たちの意識や行動、がんになっても働き続けるうえでの課題や示唆を明らかにすることを目的としたアンケート調査。調査期間は2022年1月20日から2月19日でインターネットによって実施、がん経験者の1,055人、がん経験者以外の2,111人から回答を得た。
がん経験者の年齢は39歳以下が5%、40〜49歳が26%、50〜59歳が49%、60歳以上が20%で、平均年齢は53.20歳。就業形態は正社員が76%、自営・個人事業主が10%などだった。
がん経験者に、初めてがんと診断されたとき仕事についてどう感じたかを問う設問では、「これまでどおり働く」と最初にイメージした人の割合は36%にとどまった。しかしその後、57%の人が「これまでどおり働く」ことを希望し、結果として実現させていた。
一方、診断を受けた当初、「仕事上の役割や責任」「勤務の時間や場所」を変えなければいけないと思っていた人は合わせて35%いたが、実際に働き方を変更した人の割合は27%だった。
また初めてがんと診断されたとき、不安に思ったことの中には仕事について「罹患前のように働けなくなるかもしれない」と心配する人が60%いたが、その後、時間の経過と共に20%にまで減少していた。「何年も生きられなくなるかも」や「家族がショックを受けるだろう」という罹患時の不安も軒並み、時間の経過と共に減少傾向が見られている。
一方、がん経験者以外への質問で、勤務先の部下にがん経験者がいたことで、がん治療と仕事の両立に対するイメージはどのように変わったか尋ねたところ、「ポジティブに変化した」と答えた人が63%にも上った。
このことから、身近ながん経験者の存在は、がん治療と仕事の両立に対するイメージをポジティブに変化させる効果が分かる。ただし、身近ながん経験者から報告や相談を受けなかった場合や、影響を受けなかった場合は、ポジティブに受け止める割合が小さくなることも明らかになっている。
がんになっても、「治療と仕事を両立した方が良い」という意見は、がん経験者で60%、がん経験者以外の人で40%だった。がん経験者本人より周囲の方が仕事の継続に慎重な考えを持っていて、仕事をセーブするよう伝えている割合も高かった。
一方、担当医からは「できる限り、仕事はこれまでどおり続けるようすすめられた」が36%と最も高い割合で、「仕事をセーブするようにすすめられた」は11%にとどまっていた。
ほかにも意識調査の結果はさまざまな角度から分析され、がんと仕事に対してさまざまなアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)が存在していることが浮き彫りになった。報告書では、アンコンシャスバイアスによって偏った判断や不適切な言動を誘発するリスクを指摘。一方で、認知や判断、言動、結果の各段階で対処すれば負の影響を軽減できる可能性がある、として、アンコンシャスバイアスの上書き事例を具体的に示している。
そのうえでアンコンシャスバイアスの観点から、"がんと共に働く"を応援するための6つの提言を発表。がん治療と仕事の両立を促進し、がんになっても安心して暮らせる社会を構築していくとしている。
■(1)がんと診断を受けた人への提言 〇提言1:がん診断直後の「びっくり離職」を回避するために、仕事に関する意思決定までに、自分自身のアンコンシャスバイアスに気づき、「上書き」する期間を取る。 〇提言2:がんに対する「アンコンシャスバイアスの上書き」のためには、特定の情報源だけでなく、さまざまな情報にアクセスすることが重要。 〇提言3:がん経験者からの報告や相談は、周囲の人の「がんの治療と仕事の両立」に対するイメージをポジティブに変化させる可能性がある。 ■(2)がんと診断を受けた人の周囲の人への提言 〇提言4:上司や家族等周囲の人は、がん経験者の仕事に関する意思決定に、負の影響を及ぼす可能性があることを自覚する。 〇提言5:上司は、「働き方」に関する部下のアンコンシャスバイアスを「上書き」する支援者となり得る。 〇提言6:周囲の人は、がん経験者の働き方について、当事者不在で判断せず、意向を確認する。
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