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患者を介護する「家族介護者」にも医療・介護の専門職のケアが必要 健康行動の適切な助言も専門職の役割

 家族介護者の3分の1は、「セルフメディケーション」を行っている一方で、さまざまな専門職からより良いケアを受けられていると思っている家族介護者は、セルフメディケーションを行わない傾向にあることが、筑波大学の調査で示された。

 セルフメディケーションは、「自分自身の健康に責任をもち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と定義されており、とくにコロナ禍でその役割は大きくなっているものの、薬剤の誤った使用や乱用などのリスクもある。

 「医療・介護専門職は、患者の健康状態のみならず、その患者を介護している家族の健康にも目を向け、セルフメディケーションに関しても適切なアドバイスを行えるようにするべき」と研究者は指摘している。

家族介護者のセルフメディケーション利用を調査

 日本では高齢化にともない、慢性の病気の患者を介護する家族(家族介護者)が増えており、家族介護者自身の健康状態が介護の継続に影響を与えることが分かっている。

 家族介護者は介護に追われるなかで、自らの健康管理をおろそかにしがちであることが、これまで報告されている。多くの介護者は、患者の介護に対してストレスや負担を経験しており、介護負担は身体的・精神的・心理社会的に大きな影響を及ぼしている。また、介護者自身も高齢化し、慢性の病気を抱えながら介護しているケースも増えている。

 一方、セルフメディケーションは、市販薬などで自らの健康問題に対応することを指し、軽い症状での不要な医療機関の受診を抑制し、医療費の削減にもつながるため、政策的にも推進されている。

 セルフメディケーションは、ひとつの有効な手段になりえるものの、医療従事者への相談を経ずに利用することから、薬剤の誤った使用や乱用、予期しない有害な事象や薬剤同士の相互作用などのリスクがあることが課題になっている。

 これまで、セルフメディケーションについての研究は、患者自身の健康問題に関するものが多く、家族介護者の実態はよく分かっていない。また、家族介護者のセルフメディケーション利用に対しては、患者に対してケアを提供している医療や介護の専門職も十分に認識できていない。

家族介護者にとっても専門職とのコミュニケーションは重要

 そこで筑波大学の研究グループは、「家族介護者のセルフメディケーション利用は、さまざまな専門職から提供されるケアの経験と関連する」という仮説を立て、慢性の病気を介護する家族介護者に対して、介護者自身が医療や介護の専門職から受けたケアの経験や、セルフメディケーションの実態、その関連性などを調査した。

 在宅で療養する慢性の病気を患う患者は、医師や看護師、リハビリテーション職、薬剤師やケアマネージャーなど、複数の専門職から治療・ケア・支援などを受けており、家族介護者も患者の介護を通して、しばしばそれらの専門職とコミュニケーションをとっている。

 さらに、医療や介護の専門職は、患者の健康問題のみに目が行きがちだが、介護者自身の健康問題や、それに対するセルフメディケーションの実態を知ることは、介護者の支援を考えるうえで重要と考えられる。

 具体的には、茨城県内の3自治体に居住する、慢性疾患があり自宅療養を行っている患者の家族介護者を対象に、2020年11~12月に無記名の郵送アンケート調査を実施した。

 調査では、「J-IEXPAC CAREGIVERS」という尺度を用いて、介護者自身が医療や介護の専門職から受けたケアの経験と、セルフメディケーションの実態を調べた。

 この尺度は、慢性の病気を抱える人とその家族介護者に対して提供される、専門職ケアのプロセスを、家族介護者の視点で評価するもの。

 介護者のセルフメディケーションについては、過去14日間にOTC医薬品、サプリメント、健康食品などを使用したかどうかなどを尋ねた。887人の回答のうち、欠損データがあった対象者などを除いた750人のデータを解析した。

家族介護者も専門職との良い関係を求めている

 その結果、回答者の平均年齢は61.4歳、性別は女性が74.3%であり、家族介護者の過去2週間以内のセルフメディケーションの利用は、全体の34.4%に上ることが示された。

 また、年齢・性別・学歴・収入・介護者自身の主観的健康感といった要因の影響を取り除いて解析したところ、J-IEXPAC CAREGIVERSの上昇(専門職から提供される支援、気遣い、助言といった患者や介護者へのケアをより良好と感じていること)は、介護者がセルフメディケーションを利用しないことと関連があることが示された。

 「今回の調査の結果から、家族介護者の3分の1がセルフメディケーションを行っていることが分かりました。また、さまざまな専門職からより良いケアを受けていると評価している家族介護者は、セルフメディケーションを行わない傾向にあることが示唆されました」と、研究グループでは述べている。

 「その背景として、家族介護者が、患者のケアに関与する専門職と良い関係を築けていると感じられる場合には、介護者自身のことについても、専門職に助言を求めたり、医療機関を受診しやすくなっているのではないかと考えられます」としている。

家族介護者の健康行動についても助言を

 今回の研究は、筑波大学医学医療系の舛本祥一講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Research in Social and Administrative Pharmacy」にオンライン掲載された。

 研究は、家族介護者のセルフメディケーションの実態について報告した、世界的にもはじめての研究であり、そこに患者のケアに当たる専門職との関わりが影響を与えていることを示唆する貴重な知見になるとしている。

 「患者にケアを提供する専門職が、家族介護者のことまで気にしなければいけないのか、という議論もありますが、少なくとも介護者の健康状態を意識し、セルフメディケーションを含めた健康行動について適切な助言を行うことは、医療・介護従事者の役割だと考えられます」と、研究者は述べている。

 「コロナ禍では、セルフメディケーションの役割も大きくなっており、今後、介護者が適切なセルフメディケーションを行うために必要な支援について、検討する必要があります」としている。

筑波大学医学医療系
Association between experience of interprofessional care and self-medication among family caregivers: A cross-sectional study (Research in Social and Administrative Pharmacy 2023年1⽉10⽇)
[Terahata]

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