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幼児期の食事・栄養が成人後の肥満や糖尿病に影響 日本のベビーフードを栄養調査

 幼児期の健康・栄養状態は、成人してからの肥満や糖尿病、心血管疾患など、さまざまな疾患のリスクに影響すると考えられている。

 東京大学などは日本ではじめて、市販されているベビーフードを網羅的に収集し、そのパッケージ上の情報からみた栄養学的な特徴を、低・高価格帯で比較した。

 その結果、高価格帯のベビーフードの方が、タンパク質が多く、食塩が少ない傾向がみられたものの、その差は比較的小さく、食材の種類は低価格帯の方が多様であることが分かった。

 「離乳食を与える際には、無理をして高いベビーフードを買ったり、ベビーフードの利用を避けたりする必要はなさそうですが、一部の製品だけに偏らないようにして、食塩の量にも気を付けつつ、他の食品・食材と組わせて与えるなど、工夫をすると良いと考えられます」と、研究者は指摘している。

 別の研究では、妊娠・授乳期や幼児期に高脂肪食を摂取していると、成長してからも塩味を好むようになることも明らかになった。

幼児期の食事や栄養が成人期以降の生活習慣病に影響

 日本では、少子化にも関わらず、ベビーフードの生産量が年々増加している傾向にあり、乳幼児の食生活で、ベビーフードの果たす役割は大きくなっている。

 出生後の幼児期などの食事や栄養などの環境が、成人期以降の健康や疾病リスクに影響をもたらすという「DOHaD仮説」が知られている。

 幼児期などの発達過程の健康・栄養状態は、成人期以降の2型糖尿病や高血圧、肥満をはじめとするさまざまな疾患のリスクに関連すると考えられている。

 そこで東京大学などは、日本ではじめて日本の市販の離乳補助食品の栄養学的な特徴を明らかにし、食品選択の重要な要素である価格と栄養学的な特徴との関連を明らかにした。

 研究グループは、販売されているベビーフードを網羅的に集め、そのパッケージと製品ウェブサイト上の情報にもとづき、製品の種類(ドライタイプの食品、ウェットタイプの食品、菓子類、飲料類)ごとに高・低価格帯間で、栄養学的な特徴を比べた。

 ドライタイプの食品は、フリーズドライ加工された食品やフレーク状の食品で、水や湯を加えて戻して与えられるもの。一方、ウェットタイプの食品は、瓶やプラスチックトレー、レトルトパックなどに梱包されており、そのままあるいは温めて与えられるものとした。

無理をして高いベビーフードを買ったり、利用を避けたりする必要はない

 その結果、レトルトなどのウェットタイプの製品では、高価格帯の製品の方が、タンパク質が多く、食塩が少ないものの、使用されている食材の種類は、低価格帯の製品の方が多様だった。

 一方で、ドライタイプの製品や、菓子、飲料では、高・低価格帯間で目立った差はみられなかった。

 海外では、ベビーフードの食塩や砂糖の含有量についての懸念が指摘されているが、日本の製品についての報告は今回がはじめて。

 研究は、東京大学未来ビジョン研究センターの杉本南特任助教、同大大学院医学系研究科の佐々木敏教授、東邦大学健康科学部看護学科の上地賢講師、国立健康・栄養研究所の苑暁藝特任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Nutrition」に掲載された。

 「日本では、離乳期にある乳幼児の半数が自宅で保育されており、子供の食事は家庭とその経済状況に大きく依存します。食品の価格は、保護者が子供の食事を選ぶうえでの重要な要素です」と、研究者は述べている。

 「離乳食を与える際には、無理をして高いベビーフードを買ったり、ベビーフードの利用を避けたりする必要はなさそうですが、一部の製品だけに偏らないようにして、食塩の量にも気を付けつつ、他の食品・食材と組わせて与えるなど、工夫をすると良いと考えられます」としている。

ドライタイプの食品やウェットタイプの食品を比較

 研究グループは今回、日本ベビーフード協議会に参加する5企業の製品に加え、食料品店・ドラッグストア・ベビー用品店のオンラインストア・東京に位置する一部の実店舗で販売されている製品の情報を収集。

 内容量・栄養素の含有量・原材料の情報は、メーカーのウェブサイトから抽出した。また、店舗のウェブサイトから、製品の販売価格を抽出した。

 その結果、次のことが明らかになった――。

  • 栄養素の含有量を比較したところ、ドライタイプの製品では、有意な差はみられなかったが、ウェットタイプでは、高価格帯の方が低価格帯と比べて、タンパク質が多く、食塩が少なく、1種類以上の添加糖が使用されている製品が少なかった。
  • 一方、使用されている原材料の種類は、低価格帯の方が多様だった。ウェットタイプで、よく使われている原材料を詳しく調べたところ、いずれの価格帯の製品でも、野菜類では、ニンジン、タマネギ、ダイコン、スイートコーンを使っている製品が多くみられた。
  • 菓子類と飲料類では、高価格帯の方が、タンパク質の含有量が多い傾向がみられた。また、菓子類では、高価格帯の方が、1種類以上の添加糖が使用されている製品は少ないものの、どちらの価格帯でもおよそ8割以上で何らかの添加糖が使用されていた。
  • 表示義務のない栄養素の含有量が表示されている製品の割合を比較したところ、全体として、ドライタイプ・ウェットタイプ・菓子類のいずれの価格帯でも、カルシウムと鉄以外の栄養素の含有量が表示されている割合は非常に低いものだった。ウェットタイプでは、高価格帯の製品の方が、ビタミンAとD、カルシウム、鉄の含有量を表記している製品の割合が多かった。
  • ウェットタイプでは、使用されている食材の種類は低価格帯の方が豊富であることから、価格の差は、使われている食材の数や量ではなく、食材そのものの価格や、製造過程(栄養素の強化など)を反映したものである可能性がある。

ベビーフードのウェットタイプは、高価格帯の方が低価格帯と比べて、タンパク質が多く、食塩が少ない傾向がみられる

ベビーフードは低価格帯の方が、使用されている原材料の種類が多様である傾向がみられる

出典:東京大学、2023年

ベビーフードも保護者の商品選択の助けになる栄養表示が必要

 「表示義務のない栄養素の含有量が表記されている製品は非常に少なかったことから、保護者の商品選択の助けになるよう、食物繊維や微量栄養素、添加糖などの含有量に関する情報の提供が望まれます」と、研究者は指摘している。

 なお、今回の研究では、添加糖の含有量については情報が乏しく、記述することができなかった。含有量の言及ができないため、添加糖の使用の有無だけで、それが栄養学的な懸念点であるとは判断できないとしている。

 「ご家庭で乳幼児の食事にベビーフードを用いる際には、高価格帯の製品の購入を積極的に勧めるわけではありません。日本の製品は全体として、タンパク質が少なく、食塩が多い傾向でみられ、多くの微量栄養素の含有量は不明だからです」としている。

 「今後の研究として、1日の食事のエネルギーや各種栄養素、食品群の摂取で、ベビーフードからの摂取量がどのくらいの割合を占めているのかを調べていく必要があります。また、ベビーフードの利用が多い子供とそうでない子供の栄養素や食品群の摂取量、食習慣の違いなども調べる研究も行い、適切なベビーフードの使い方の根拠を示していくことも望まれます」と結論している。

東京大学未来ビジョン研究センター
東京大学大学院医学系研究科・医学部
The nutritional profile of commercial complementary foods in Japan: comparison between low- and high-price products (British Journal of Nutrition 2023年3月13日)
[Terahata]
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