ニュース

「魚は健康に良い」は本当? 魚の食べすぎが高血圧の原因になっている可能性も 血中のヒ素濃度が上昇

 魚を食べる「日本食」のスタイルは、健康的な食事として世界的に人気が高い。

 しかし、その魚を高い頻度で食べることは、血液中のヒ素濃度の増加に潜在的に関与しており、高血圧のリスク因子となっている可能性があるという研究を、名古屋大学が発表した。

 「いろいろな食品を組み合わせて、バランスの良い食事をとることが健康に良い」と、研究者は指摘している。

魚を食べる食事スタイルは本当に健康的?

 サバ・サンマ・イワシ・ブリなどの魚は、良質なタンパク質の供給源になるだけでなく、多価不飽和脂肪酸も多く含む。

 多価不飽和脂肪酸は、動脈硬化や血栓を防ぎ、悪玉のLDLコレステロールを減らすなど、さまざまな効果を期待できる。「日本食」が健康的な食事として、世界的に人気が高い理由のひとつは、魚を食べるからだ。

 しかし、その魚を高い頻度で食べることは、血液中のヒ素濃度の増加に潜在的に関与しており、高血圧のリスク因子となっている可能性があるという研究を、名古屋大学が発表した。

 血液中のヒ素の増加には、魚を頻回に食べることが関係しており、1日に1回以上魚を食べる人は、血液中のヒ素濃度が高まり、高血圧になるリスクが上昇する可能性があるという。

 日本人の血液中のヒ素濃度は、海外の報告に比べて、とくに高いわけではないものの、魚を食べることは世界的なトレンドになっており、魚肉の過剰摂取による、血中ヒ素濃度の上昇を介した高血圧リスクの上昇は、日本以外でも起こりうるとしている。

 その対策として、名古屋大学大学院医学系研究科環境労働衛生学教室では、ヒ素を吸着できる「ドクター食器」の開発にも取り組んでいるという。

 「魚の食べすぎによる健康リスクを懸念しつつ、体に良い効果を期待できる食生活について、より深く検討する必要があります」と、研究者は述べている。

出典:名古屋大学、2023年

食品に含まれるヒ素が健康に与える影響 日本人を調査

 魚は栄養価が高いことはよく知られているが、実はヒ素も多く含まれている。ヒ素には、人体に有害なものと無害なものがあり、長らく魚に含まれるヒ素は無害と考えられていた。

 しかし、実際にどのくらいの頻度で魚を摂取すると、どのようにそのヒ素が健康に影響するのかについては、十分に解明されていなかった。

 ヒ素は代表的な有害元素であり、動物を用いた研究では、ヒ素が血管内皮細胞に障害を与えることで、高血圧を引き起こす可能性が示唆されている。

 日本を含む先進国の一般住民は、食品の摂取を介して低濃度のヒ素にさらされている。しかし、血清中のヒ素レベルの上昇に寄与する食生活が、高血圧リスクと関連しているかは不明だった。

 そこで名古屋大学の研究グループは、日本の一般住民を対象に、各種食品の摂取頻度、血清中のヒ素濃度、および高血圧有病率との関連を検討した。対象となったのは、日本多施設共同コーホート研究「J-MICC研究」の第2次調査の参加者2,709人。

魚に含まれるヒ素が高血圧リスクを上昇?

 研究グループはまず、血清中の総ヒ素濃度と高血圧有病率との関係性を多変量ロジスティック回帰分析で解析。その結果、血清ヒ素濃度の増加にともなう高血圧のオッズ比の上昇が認められた。

 次に、食事摂取頻度調査票から得られた情報をもとに、6つのカテゴリーに分けた食品群の摂取頻度と、血清中のヒ素レベルとの関連性を調べた。その結果、魚介類の摂取頻度が血清中のヒ素レベル増加にもっとも寄与することが判明した。

 さらに、魚介類の各種品目の摂取頻度と高血圧有病率との関連性を解析したところ、1日1回以上の頻度で魚肉を食べる集団では、高血圧リスクが増加する可能性が示された。

 また、媒介分析により、高頻度の魚肉摂取が血清中のヒ素レベルを上昇させることで、高血圧のリスク増加に寄与する可能性が示された。

 最後に、ヒトで得られた知見を検証する目的で、一般に流通している魚肉に含まれるヒ素をマウスに投与して検討。その結果、血清中ヒ素濃度の増加と収縮期血圧の上昇が確認された。

魚を高頻度に摂取すると血清中のヒ素レベルが上昇
6つのカテゴリーの食品群で魚はもっともヒ素レベルの上昇と関連が高い

出典:名古屋大学、2023年

バランスの良い食事をとることが健康に良い

 研究は、名古屋大学大学院医学系研究科環境労働衛生学分野の香川匠氏、田崎啓氏、加藤昌志教授、予防医学分野の田村高志氏、若井建志教授、藤田医科大学医学部衛生学の大神信孝教授、Tingchao He氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「European Heart Journal Open」にオンライン掲載された。

 「今回の結果より、血清中のヒ素濃度の増加が高血圧のリスク因子となることが示され、さらに高い頻度で魚肉を摂取することが、血液中のヒ素濃度の増加に潜在的に関与していることが示唆されました」と、研究グループでは述べている。

 「魚肉には、ヒ素以外にも、ビタミン・ミネラル・オメガ3脂肪酸などの健康に良い栄養素が豊富に含まれています。しかし、体に良い栄養素の効果とヒ素による悪影響がどのように関係しているかはまだ明らかにされていません」。

 「結局、いろいろな食品を組み合わせて、バランスの良い食事をとることが健康に良いということになると考えています」としている。

名古屋大学大学院医学系研究科 環境労働衛生学分野
Elevated arsenic level in fasting serum via ingestion of fish meat increased the risk of hypertension in humans and mice (European Heart Journal 2023年9月4日)
[Terahata]
side_メルマガバナー

「特定保健指導」に関するニュース

2023年11月01日
【アルコールと保健指導】アルコール性肝障害・奈良宣言2023に関するインタビュー
2023年10月31日
「ノンアルコール飲料」を活用すれば飲酒量を減らせる お酒の飲み方を改善する効果的な方法に 筑波大学
2023年10月31日
お肉の調理法で良いのは[茹でる・蒸す・煮込む] 肥満リスクを高める「AGE(終末糖化産物)」とは?
2023年10月30日
「低カロリー食」は肥満・メタボの人に有益 カロリー制限で筋肉も若返る タンパク質を十分にとることも大切
2023年10月30日
10分間の軽い運動で高齢者の記憶力が向上 運動習慣のない人も安全に取り組みる運動プログラムを開発 筑波大学など
2023年10月23日
健診で心臓病・腎臓病・糖尿病の異常が出ても3人に1人が再検査を未受診 「ナッジ理論」を活用した受診勧奨の開発へ
2023年10月23日
特定健診の実施率の高い都道府県は慢性腎臓病(CKD)が少ない 透析導入率も減少 健診の実施率を⾼めて腎不全を防ぐ
2023年10月23日
医療費の6割を占める高額医療費 メタボ予防の重要性が浮き彫りに 高血圧・糖尿病・脂質異常症を併発したメタボが32%
2023年10月23日
高齢者の「フレイル」の簡単なチェック方法 ペットボトルの開け方を見れば筋力低下が分かる 筋力低下は要介護リスクを高める
2023年10月23日
冬の入浴時の突然死が起こりやすい環境や温度が判明 入浴死を防ぐために警戒情報を発令 鹿児島大学
アルコールと保健指導
無料 メールマガジン 保健指導の最新情報を毎週配信
(木曜日・登録者11,000名)
登録者の内訳(職種)
  • 産業医 3%
  • 保健師 46%
  • 看護師 10%
  • 管理栄養士・栄養士 19%
  • その他 22%
登録はこちら

ページのトップへ戻る トップページへ ▶